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25.勧誘という名の命令

「今度、アイリスの写真を市井で売り出すんだが、どういう風に売ろうか検討中なんだ」


そこに並べられたのは、年末の結婚式の時の写真だった。

全身が写ったものから上半身、斜め横からと何枚もある。


「売るのですか?そんな、精霊の乙女を売り物にするなんて」


フィリップがその行動を非難するように殿下たちを見た。

そんなに精霊の乙女を想ってくれていたなんてと一瞬だけ感動した。


「オリヴィエが怒り狂いそうだ」


ぼそっと彼が呟くまで。


「平民は精霊の乙女の噂は聞いても実際身近に感じることはない。

知ってもらうために良い手段だと思う」


クラウディオがフィリップを宥めるように説明したが、実際はマリアンナの家に写真が飾ってあっても不自然でないように考えてくれた結果だ。


「それに、必要経費以外の収益は孤児院など必要なところに寄付しようと思っている」


「…それなら精霊の乙女の評判は悪くなることはなさそうですね」


フィリップが理解を示す。


「それで、売り出すにあたって…マリアンナ、君はどうしたら買ってもらえると思う?」

「え」


アレクシスがマリアンナに意見を求めた。

自分の写真を売るためのアイデアを出せとは…鬼畜に違いない。


「君は平民と聞いた。市井のことはここにいる誰よりも分かっていると思ってね」


マリアンナは失礼なことを考えていたが、純粋に意見を求められていたようだ。


「そうですね…

写真の種類を絞って希少価値を持たせるか、逆に多くして1枚あたりの金額を押さえるか…でしょうか。

それか両方やってもいいかもしれませんね。


例えばこの顔が大きく写っているものを大きめに印刷して、枚数限定にして額付きで売る。

料金は高めでも構いません。

他の写真は小さい紙に印刷して、写真のみで安価で売ります。

この小さい写真を貼ることが出来る白紙の本を別売りにしてもいいかもしれません」


額付きの限定品はシリアルナンバーを入れてもいいかもしれない。

王都は裕福な平民も多いから、『限定品』という売り方は悪くないはずだ。


「…思いの外ちゃんとした意見だな」


フィリップが失礼な発言をした。


「…悪くないな。実家が商家なだけはある」


アレクシスが感心していたが、マリアンナは幼い頃からマルグリットの家に入り浸りだったので商売のことは全く分からない。

ただ限定品と言われるとつい買ってしまう人がいたな、という昔の経験だ。


「それじゃあどの写真がいいかな…」


クラウディオが腕組みして考え始めたところで、シロが口をはさみ始めた。


『全身のものは外せないだろ。この斜め後ろのは売れないんじゃないか』


これとこれと…とシロがクラウディオに指示している。

マリアンナはうっかり反応してしまわないように耐えた。


「これは無し、あとはこれか?」


クラウディオは自分が選んでいるかのように写真を分ける。


「いやー、しかし精霊の乙女は写真でやっと見つめることが出来ますね」


ブルーノが『有り』に分類されたアイリスの写真を手に取った。


「は?」


クラウディオがどういう意味だと問いかけた。


「実物を目の前にすると緊張しすぎてまともに話せないんですよ!

何ですかあの可憐さは!犯罪ですよクラウディオ様!羨ましい!」

「ぐっ」


嫌われてはいないまでも、いつも素っ気ないので好かれていないのかと思っていた。

マリアンナは非常に恥ずかしくなり唸ってしまった。


「その点この写真は素晴らしいです。

心ゆくまで見てられます。あー美しい。平民向けと言わず私にも売ってくれませんかね」


そろそろ勘弁してほしい。


「ブルーノ、その辺にしておけ。後で死にたくなるぞ」


アレクシスが笑いを堪えながらブルーノを制止する。


「え、死にたく?なぜ?」


マリアンナはその精霊の乙女は今ここにいるからです!と突っ込みたい衝動に駆られた。


「ブルーノ、それ以上私のアイリスを目に入れたら殺す。社会的に」

「わあー、本当に死にたくなりました!」


マリアンナは思わず笑いそうになる。

ここの人間関係はうまくいっているようでほっとした。



「さてマリアンナ、今日は護衛だったな。

もっと話が聞きたいから明日の文官体験はここに来るといい」


「…は」

「っ、お待ちください殿下」


アレクシスの提案に、フィリップが待ったをかけた。


「マリー…彼女は平民です。王太子殿下に目をかけられたと知られれば、いらぬ争いに巻き込まれるかもしれません。

魔力が少なく身を守る手段を持たない彼女には危険すぎます」

「フィリップ…」


「ふむ…フィリップ、何故そこまでマリアンナを気にかける。

お前も言った通りただの平民だとは思わないのか?」

「平民である前に私の大切な友人です」


どうしよう、感激だ。

マリアンナは涙ぐみそうになった。


「はは、そうか…。

フィリップ、お前は確か家を継ぐ予定だったな。父親は宰相補佐官だろう。

城で働く予定なのか?」

「は?…ええ、領地運営は叔父に任せていますし、将来は父の補佐が出来るように文官になるつもりです」


突然アレクシスに自分の将来について問われ、フィリップは戸惑ったように答えた。


「お前の父は国のために働いている。つまり私のため、と言っても過言ではない。

父の補佐は私の補佐でも良いだろう。卒業後は私の側近になるといい」


「は…は?」


「私は優秀な者であれば平民でも傍に置く。

平民だからとそれだけで諦めるような人材の無駄遣いはしたくない。

マリアンナの能力は傍で見てきたお前が一番分かっているだろう。


…という訳で、マリアンナはお前が守ってやれ」


え?!ちょっと!

マリアンナは間に入りたかったが口を挟める雰囲気ではなかった。


「…つまり、彼女も側近にするおつもりですか?」


「ああ。これから国を治める身として、貴族ばかりでなく平民にも目を向けたいのだ」


「……分かりました。ですが、明日こちらに呼ばれるのはご容赦ください。

卒業まで1年以上ある今から目をつけられては彼女も堪らないでしょう」


「そうだな。

分かった、楽しみは卒業まで取っておこう」


アレクシスは満足そうな笑みを見せた。



もしかするとマリアンナを誘ったのは元々フィリップを試すつもりの発言だったのかもしれないと思うとぞっとした。

その上で使えると判断しフィリップまで取り込んだ…?


怖いのでそうでないことを祈る。



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