10.準備
マルグリット様の家へ行くまでの準備期間中の私の一番の進化は、自動目の色変化魔法だ。
ネーミングセンスが壊滅的だけれど他に浮かばなかった。
これは目が覚めたタイミングで顔を見られるとまずいと思って捻り出した。
「目を開ける」ことを条件に、勝手に魔力を使って色が変わるようにしたのだ。
所謂、条件付けだ。私天才かもしれない。
ちょっと良いように言ってみたけれど、やり方は「目を開けたら自動で発動するー!」と徹底的に思い込むだけだけれども。
とにかくこれで目の色に関しては解決した。
更に、なんと母さまの妊娠が発覚した。
もう3ヶ月くらいらしい。私の記憶喪失やらその後の魔法問題などで体調がおかしいことを見過ごしていたようだ。
生まれるのはまだ先だけれど、私があまり傍にいられなくなるのでとても良かったと思う。
お姉ちゃんになるのだ、とても楽しみだ。
3歳の誕生日、せめて家族でお祝いしてから送り出したいと最初は言っていたのだけれど、なんと一緒に暮らすことになる男の子と私の誕生日が同じだったことが判明。こんなことある?
こちらの世界では、誕生日には可能な限り家族みんなで食事をしてお祝いの言葉を貰うらしいが、なんとその子、誕生日をまともにお祝いしてもらった経験がないと聞いてうちの両親が泣いた。
だったら一緒に盛大にお祝いして新しい生活をスタートして欲しいと、うちでは誕生日前日にお祝いしてくれることになった。
そういえば誕生日なら何か贈り物を持って行ったほうがいいのかな?
3歳児にできる贈り物なんてたかが知れているけれど。
初対面の幼児にそれなりの品物を渡されても困るよね。
こういう時には消えものだ。
知らない幼児が作った得体のしれないものは口に入れたくないだろうから、住み込みの日まで引き続き家庭教師に来てくれていたマルグリット様に相談して、一緒にクッキーを作ることにした。
材料は母さまに準備してもらい、作るのはほぼマルグリット様だ。
私も浄化を駆使して清潔に保ってお手伝いをする。
分量は私が量る!と可愛くおねだりして権利を譲ってもらった。
母さまとマルグリット様はとんでもないものを食べさせられると思っているだろう。
料理は母まかせで何にもできなかった私が唯一得意だったシンプルクッキーだ。分量は頭に入っている。
混ぜるのも途中までは頑張った。力がなくて生地をまとめるのが無理だった。
出来上がったら生地を円柱状に長く伸ばして、マルグリット様に魔法で一瞬で冷やしてもらう。
あとは包丁で切っていけば丸型クッキーの出来上がりだ。型抜きタイプは時間がかかるのでズボラな私には向いていない。
それを母さまに焼いてもらい、無事に贈り物が出来上がった。
たくさん出来たので、その場でおやつにいただいたらとても美味しかった。
久しぶりの味!
その夜は私の誕生日前日のお祝いをしてもらった。
父さまも母さまも号泣していた。
今生の別れではないんだから…そう思ったけれど、数ヶ月一緒に暮らしたこの新しい両親の姿にじーんと目頭が熱くなった。
誕生日の贈り物として大量のレターセットを渡されたところで真顔になってしまったけれど。
そして当日、8の月8日
「いってきます、父さま、母さま」
ぎゅーっと抱きしめてもらって、馬車に乗せてもらった。
これからしばらくの間、私は「マリオ」だ。




