21.薬作成とエドガーの恋路
昼食後は薬学の研究室を見学に行った。
マリアンナが黒のギルドカードを持っていると知ると、作ってみて欲しいと言われて初級体力回復薬を作る事になってしまった。
ちなみに精霊の乙女アイリスが有名になってしまったため、ギルドカードに名前が印字されていると目立つ。
そのため国からお触れが出て、本人希望でカードの印字は番号のみにするか名前と両方にするかどちらでも良いことになった。
本人認証には魔力を流して判断するため問題ない。
マリアンナはお金を払ってカードを更新し、番号のみ印字されたものに変えた。
「精霊の乙女が同じ名前だったから色々面倒でー」と言えばギルド職員も納得である。
小さい頃から眼鏡はかけていたが髪の色はそのままだったため、精霊の乙女が国に認定された後は成長とともに色が変わってきた風にして徐々に灰色にしている。
精霊の乙女の写真が市井で売り出される頃には全く違う印象になっているはずだ。
そしてなんと「アイリス」での登録希望者が急増したそうだが、王族の名は使用できないという決まりがあるらしく「アイリス」も王族に準ずる者と見做されて以降登録者はいないそうだ。
「…マリーが薬を作るところは初めて見た。
手際がいいな」
「慣れてるね」
フィリップとレイモンドが薬草を次々刻んで作業を続けるマリアンナの手元を見て感心していた。
「作り慣れてるから…って、大変!」
「どうした」
商会に納品する時の感覚で作っていたが、貴族用なので魔力がいる。
準備されていたのは大量生産用の大きめの魔石だ。
「えーと、ごめんフィリップ…この魔石に魔力だけもらってもいいかな。
私だと回復薬飲まないと倒れるかも」
魔力が少ないと偽装しているマリアンナが一気に魔力を込めるのにはサイズが大きすぎる。
「ああ。魔力は薬の作成者の物じゃなくても問題ないのか?」
「うん。難しい薬だと作りながら魔力を慎重に注ぐから本人がやるけど、初級は魔石分一気に入れていいから誰のでも大丈夫」
「それだと魔力が少ない者は上級の薬はどうやって大量に作るんだ?」
「難しい薬ほど少量ずつしか作らないから問題ないの。
最悪の場合は魔力回復薬を飲みながら作るかも」
そういう状況になったことがないから分からないが。
マリアンナは空の魔石をフィリップに渡した。
魔石の色が鮮やかな青に変わる。
「これでいいか?」
「ありがとう」
薬を仕上げ、初日の職業体験は終了した。
***
「クラウディオ様!聞いてください!」
「どうした」
食事中は侍女や料理人がいるため、マリアンナとクラウディオが突っ込んだ会話ができるのは必然的に私室か寝室になる。
体を清めてお互いの髪を乾かし、寝る前にベッドで会話するというのが日課になっていた。
「今日の職業体験、研究所のレイモンド様という方が案内してくれたんですが、私の護衛らしいです」
「…書類で見た気がするな」
「さらにエドガーさんの友人で、私の眼鏡の魔導具を作ってくれた方でした」
これにはクラウディオも目を丸くした。
「ということはもちろんどういう機能が付いているか分かっている…」
「ですよね。でも興味はありそうでしたが詮索はされませんでした」
「エドガーにどういう人物か聞いてみるか…
確か独身だったと思う」
「…エドガーさんの周りは独身が多いんでしょうか…」
「ほんとにな」
二人でため息をつく。
「それよりここからが一番重要なところです!」
マリアンナは気を取り直して意気込んだ。
「…なんとレイモンド様の妹さんとエドガーさんがお付き合いしているかもしれません!」
「…それは良い話じゃないか?」
「レイモンド様によると怪しいけど尻尾を出さないみたいです」
「別にいい大人なんだから放っておけばいいんじゃないか?
相手もレイモンドの妹ということは10歳年が離れていたとしても20代後半だ。
結婚適齢期は過ぎているし大人の付き合いかもしれない」
そう言われてみればエドガーはもうすぐ40歳くらいだった気がする。
昔から見た目があまり変わらないので忘れていた。
いくらなんでも相手が10代ということはないだろう。
…いや、親が後妻を迎えて若い妻に産ませた子なんてことも貴族ならあるかもしれないけれど。
「大人の付き合い…体だけの関係だとしたら聞かれたら嫌ですかね」
「…そういう関係は不潔だとか思わないのか?」
はっ、前世の感覚で全く気にしてなかったけれど、こちらの貴族の常識としては不味いのだろうか。
「えーっと、お相手が結婚しているとかなら許せませんが…」
「まあそうだな。
だが、レイモンドの家は伯爵家だ。いくら適齢期を過ぎていても伯爵令嬢に手を出すとなると色々まずい。
上司としては気になる、ということで今度エドガーに確認してみよう。
…これで納得してもらえるか?」
「ありがとうございます!」
マリアンナは嬉しさのあまりクラウディオに飛びついた。
「…まったく、人の気も知らないで…」
クラウディオはマリアンナに噛みつくように口づけた。




