10.女子会
R15です。
しばらく固まっていたクラウディオは「…マルグリットのところ…かな」と呟いた。
そこは実家に帰るような気がして思い浮かばなかった。
ちょっと申し訳ないけれど、薬草を採りに行くついでに裏の家の仮眠室を使わせてもらうお願いをした。
修了式の後は、すぐに実家に帰り家族との数日を過ごした。
結婚前の数日ということで、いつもよりしんみりとしてしまう。
父さまは常に涙ぐんでいるような感じだった。
弟のニックに「これからはあまり帰ってこられないかもしれない」と伝えると「いつもと変わらない」と言われてしまった。
…確かに。
とりあえず学園を卒業するまでは、長期休暇の間は何か理由をつけて帰ってきたい。
「ああ…何てお美しいんでしょう…」
レベッカがうっとりとマリアンナに見蕩れていた。
「いえ、レベッカ様もソフィア様も同じように綺麗にしていただいたんですよ?」
朝からみっちりと体を磨かれ、マリアンナは疲弊してソファにもたれかかっていた。
今は3人でバスローブ姿で休憩中だ。
「何でしょう…このしどけない感じが素晴らしいですわ」
…最近、ソフィアまでも何かとアイリスを称える感じになってきておりマリアンナは困っていた。
レベッカと仲良くなったようで安心していたが、変なところまで感化されているのかもしれない。
「クラウディオ様はこんなお姉さまを独り占めできるなんて、幸せ者ですね」
「あら、アレクシス兄さまだって幸せだと思います」
「そうですね」
レベッカは王妃教育を終えたあたりから少し自信がついたのか出会った頃に比べて綺麗になった。
「でもわたくし…本当はまだ覚悟ができなくて…」
「覚悟…ですか?」
「王太子妃としてやっていく覚悟はできているんです。
ただ、その…男性として、アレクシス様を受け入れられるかどうか」
「まあ!きっと大丈夫ですわ。レベッカ様もアイリス様も閨教育は受けましたか?
基本的には男性にお任せすればいいのでしょう?」
会話が夜のことになってきてしまった。
ちなみにマリアンナは貴族のご令嬢ではないので閨教育は受けていない。
基本的には成人前後に母親や侍女に習うらしい。
マリアンナは今回はまだ偽装結婚のようなものなので、本来の結婚は2年後にすると陛下たちにも伝えていた。
というか耳年増で知識だけはあるので今更教育を受ける必要もない気もする。
「お兄さまたちも教育を受けているはずですし、きっと優しくしていただけますわ」
ソフィアは分かっているのかいないのか、今は侍女も排していて3人だけという気の緩みなのか爆弾を落としまくっている。
「やっぱり男性は実技込みで教育を受けているのかしら。
アレクシス様は経験豊富な感じがしますけど、クラウディオ様は女嫌いで有名ですし」
「ぶっ」
マリアンナは少し冷静になろうと口に含んだお茶を噴き出しそうになる。
「嫌ですわ。さすがに妹として兄の閨事情を詳しく聞くのはちょっと」
ソフィアは自分が話すのはいいが聞くのは嫌らしい。
「でも確かにアレクシス兄さまはそれなりに遊んでいる気がします。
クラウディオ兄さまは全く分からないですわ」
嫌なんじゃないのー?!
マリアンナは心の中で突っ込む。
この2人はいつの間にこのような明け透けな会話ができるほど仲良くなっていたのだろうか。
驚いた。
「わたくし、男性が苦手でしょう?それでとっても怖くて…
だけど、お姉さまが一緒に頑張っていると思うと乗り越えることができそうな気がするんです」
マリアンナは今度はげほげほとむせた。
「そ、そうですね。怖いですけど頑張りましょうね…」
きっとその時に頑張っているのはレベッカだけだけれど、それを口にすることはできない。
ここでしばらくは子どもを作る気はないので、などと言ったら、レベッカなら「ではわたくしも!」となるのが目に見える。
マリアンナは非常に申し訳ない気持ちになった。
次の日の朝の鍛錬中、マリアンナはどうしても気になってしまいクラウディオに聞くに聞けずに悩んでいた。
「何か悩みでもあるのか?
…お互い困ったことがあったらちゃんと話そう。
子どもの頃にマリアンナがそう言ってくれただろう?」
余程様子がおかしかったのか、クラウディオが何でも話してくれ、とマリアンナを促した。
そうまで言ってくれるなら聞いてしまおう。
マリアンナは意を決してクラウディオを見た。
「…実技は込みでしたか?」
「…は?」
ご想像にお任せします。




