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9.試験終了と離宮完成

「やっと解放されたわ…!」

出来ることは全てやった、と清々しい気分でいるのはオリヴィエだ。


「私たちはまだ午後からも試験があるんだが」


後期試験最終日。

必修科目のみ履修しているオリヴィエは全科目終わったがマリアンナとフィリップは午後からも選択科目の試験がある。


「今回はどちらが勝っているか楽しみにしているわ」


オリヴィエはフィリップの言葉は聞かなかったことにしたらしく、そのまま話を続けた。


「来年の席順が楽しみだな」


席順の判定は必修科目の評価のみで決まる。

マリアンナとしてはアイリスの時に先に受けてしまっているので、フィリップに対して非常に申し訳ない気分になってしまう。

もちろん問題は変わっているが、出題傾向はそれほど変わっていないので有利には違いない。


「…負けません」


マリアンナはそれしか言えなかった。

人脈があれば上級生から教えてもらうことも可能なので、そこまで気にすることはない…はず。



「来年といえば、ついにわたくしたちも社交界デビューよ。

王子殿下方の結婚式には間に合わなかったけど、新年が楽しみだわ」


オリヴィエの声が弾む。


「ああ!挨拶の時に……王族の方々に間近で会えるのよね?」


マリアンナも楽しみで、うっかり自分と会えると言いそうになり慌てて方向転換した。


「ええ、それも楽しみだけれど、やっと精霊の乙女をこの目で見られるわ!」


オリヴィエは、わたくしが見極めてあげる!と息巻いている。


「精霊の乙女は国が認める尊い方だ。

君に見極めてもらう必要はないはずだが」


フィリップの声が若干低くなり、オリヴィエははっとして自分の発言が迂闊だったことに気が付く。


「いえ、会えるのが楽しみというだけよ」


内心はともかく、王女を娶ろうとしている家の令嬢の言葉としては相応しくなかった。


「フィリップ様はオリヴィエをエスコートするんですよね?」


マリアンナは話題を変えようとフィリップに明るく話しかける。


「ああ。当日迎えに行く。

挨拶の際は家族と一緒だが…ファーストダンスが楽しみだな」


フィリップは、己の失言で気落ちしていたオリヴィエを励ますようにその頭を撫でた。


「フィリップ…」

「君は昔から義兄上のことが大好きだからな。私は分かっているから気にするな」


つまりオリヴィエは大好きな兄が精霊の乙女に夢中になり、それが寂しく嫉妬していたのだろうか。


オリヴィエは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「あなたも…」

「ん?」

「あなたも精霊の乙女に夢中になってしまったらどうしよう」


それは消え入りそうなか細い声だったが、教室の皆は昼食のために出て行ってしまっていたのでしっかり聞こえた。


オリヴィエは目に涙をためてフィリップを見上げている。

あの可愛い生き物を正面から見てしまったフィリップは大丈夫だろうか。


「マリー」


オリヴィエの頭に手を置いていたフィリップが、突然マリアンナの机に寄りかかってきた。

さすがにマリアンナからはフィリップに対してまで慣れ慣れしくはできなかったが、彼はオリヴィエのようにマリーと呼ぶようになっていた。


「だ、大丈夫ですか」


「私の婚約者が可愛すぎて辛い」


「…良かったですね。

そのまま息の根が止まらないように気を付けてください」


「もうっ!二人とも何を言っているの」


フィリップは姿勢を正し、オリヴィエに向き直る。


「精霊の乙女がいくら魅力的であっても、私が気持ちを向けるのは君だけだ」


オリヴィエの垂らした髪を一房とり、フィリップはそこに口づけた。


「…っ、はい…」



頼むからそういうのは二人きりでやっていただきたい。



マリアンナは居た堪れなくて困ったが、シロがこの場にいたらお前たちと一緒だと突っ込みを入れたに違いない。



昼食後、選択科目の教室に試験を受けに行ってようやく試験から解放された。






「うわぁ、素敵ですね!」


各大会が行われている日、マリアンナは離宮に来ていた。

出場しない学生は自由参加なので休みにした。


離宮の家具や調度品が全て運び込まれたので、片付けに充てるためだ。


「ああ。ようやく生活ができる」


真っ白で生活感のなかった離宮は、絨毯が敷かれ厚みのあるカーテンがかかり、家具が入ったことで家らしくなっていた。


なんとなく引っ越し後のごちゃごちゃした感じをイメージしていたマリアンナは、あまりの整いぶりに拍子抜けしていた。

全ての部屋を見て回ったが、私室までもがきっちり使える状態になっていた。

だいぶ増えたドレスや小物まできちんと収納されている。


庶民の感覚で荷解きなどをしなければならないと思っていたが、今はそんなことをする立場ではなかった。


「私はまだ仕事が残っていてこの後戻らなければならないんだが、マリアンナはどうする?」


「そうですね…私室に転移の魔石を置いて、薬室を使える状態にしたいです。

あとは足らないものの確認とかでしょうか」


薬室にはまだ素材が何も入っていない。

ちょっとシロに手伝ってもらって裏の森から収穫してきたりしたいところだ。


意外とあっという間に大会の3日が終わりそうだ。




結婚式が25日に決まったので、修了式の後は一度実家に帰りその後数日かけて体を磨かれることになっていた。

所謂エステなのだが、レベッカとせっかくだからとソフィアも一緒にやることになっていて楽しみだったりする。



「…はっ」

「どうした?」


「修了式の後、結婚式までは王太后様の離宮に泊めていただけるんですが…

その後長期休暇の時はどこで眠ったらいいでしょう」




クラウディオがピシリと固まった。



私室にベッドは運んでいない。

寝室に夫婦用の大きいベッドが一つあるだけ。


そして長期休暇中寮は閉まる。



要相談だった。




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