9.マルグリットのメリット
実は…、と少し言いにくそうにマルグリットが話し始めた。
「1人、もうすぐ8歳になる男の子を預かることになったのです。
私にとっては孫のように可愛い子なのですが、何と言ったらいいか、『家族』を知らずに生きてきたような子で…
5歳になる頃までは2人で一緒に暮らしていて、その後親元に帰ったのですがうまくいかなくて…
ですがまた私が預かったとしても、絶対守ってもらえる大人と2人というのは年齢的にもあまりよくないと思うのです」
うーん、8歳というと小学校3年生くらいかな?
家にある暦をこっそり確認したところ、この世界は1年12ヶ月で1ヶ月30日なのでほぼ同じだと思う。
これから心も成長していこうという時期に、祖母のようだけれど他人と2人きり…
経験がないから分からないけど自分だったらちょっと辛いかもしれない。
「その子も魔術に関してはすごい才能があって、マリーちゃんと切磋琢磨できるんじゃないかと思ったの」
あー、子どもは子ども同士が良いのかもね。
良きライバルというやつですね!
中身30歳の立派な大人ですけど大丈夫でしょうか。
「それはその…考えとしては悪くない気はするのですが…」
カミラが困惑したように声を上げた。
「8歳の子が、こんな小さな女の子と切磋琢磨できるものでしょうか」
ですよね!
「それに、マルグリット様が世話をされるくらいですからその子は貴族ではないですか?子どもとはいえ、異性と一つ屋根の下一緒に暮らすのは外聞が良くないのではないでしょうか」
あ、やっぱりマルグリット様は貴族なのですね。
様づけしてるくらいだから母さまたちは知っていたのか。
カミラの発言に、マルグリットは言われてみればそうだと考え込みだした。
マルグリット様、すごくよく考えているようで行動は行き当たりばったりでとにかくやってみようという能天気なタイプな気がしてきた。
とにかく、この件については父さまも交えて話し合いたいというとで落ち着き、マルグリット様は出直してくれることになった。
そして話し合いの結果
私はマルグリット様のところへ行くことになった。
父さまがかなり反対だったけれど、私が行きたがったことで結局折れたのだ。
条件として
1.1ヶ月に一度帰宅すること
2.5日に一回程度は手紙を書くこと
そして3つ目
男の子として生活すること
おいおい、本気ですかと心配になったのは私だけでしょうか。
3つ目は条件というかマルグリット様からお願いされたのだ。
生活は平民と同等であるし、自分としては弟子をとるような感覚だったので性別は特に気にしていなかったけれど、よく考えたら女の子と一緒だと男の子のほうが気にするはずだ、それなら一緒に暮らすのは男の子だということにする、と。
一緒に生活するのは長くても男の子が学園に通い始めるまでなので2年ほどらしい。
だったら私も5歳くらいだろうし、大丈夫な気がしてきた。
服については用意してくれるそうだ。
必要なのは下着だけだ。子どもらしい装飾のない白い布パンツなのでこれについては性別が関係なくてよかった。
あとは細かい取り決めをした。
男の子の私の名前は「マリオ」に決まった。うっかりマリーと呼びそうになっても大丈夫な名前を考えたらしい。
某人気ゲームのお髭のキャラが浮かんでふきだしそうになったのはもちろん私だけだ。
「マリオ」の時は髪は白銀のまま、目は薄青にすることになった。
「マリー」の時は髪も目も茶色にする。
帰宅中にうっかり出会ったとしても印象を変えて気づかれないようにするためだ。
帰宅の際には馬車でマルグリット様が送り迎えをすることにし、着替えは馬車の中で行う。
その他手紙を出すときはこうするとかああするとか話していたけれど、私がやるのは書いてマルグリット様に託すだけだ。
そうこうして準備を整え、3歳の誕生日の日、マルグリット様の家に向かうことに決まった。




