7.危ないところ
不安しかない愛好会についてはクラウディオが調べてくれることになり、マリアンナはひとまず任せることにした。
魔術大会の予選から勝ち抜いてきていた特別クラスのマリアンナはこれから気合を入れなければならない。
特別クラスは12人全員で1チームということになっていてクラスの結束が強い。
クラスは新学年に変わった際に人が決まり、前期終わりの試験で成績を落としたとしてもその一年は席順が後になるだけでクラスが落ちることはない。
1人2人の入れ替えはあったものの、1年生の頃からほとんど固定メンバーである特別クラスの面々は学年が上がるにしたがって団結力も上がっていた。
予選はまずお題が発表され、次の授業の時にそれを披露し評価の低いチームから脱落していく。
最終的に残った2チームで決勝を行うことになっていた。
5年生までは決勝で6・7年生のように戦ったりはしないが、高学年になるとお題が高度なものが増えてきて油断すると脱落してしまう。
チームのメンバーの中で、そのお題が一番得意なものを選出し勝負に臨む。
1人1回絶対に出なければならないということはないため、ずっと見学ということもあり得る。
ちなみに決勝に近づくにつれてチームが絞られてくるため、決勝戦の横で脱落した他の学生は普通に魔法の演習を行っていたりする。
今回のお題は「10個のくず魔石を皿から皿へ1つずつ移す」というものだった。
箸を使ってつるつるの小豆を皿に移す、みたいな遊びが頭に浮かんだ。
もちろん魔法を使って移動させなければならないため、簡単そうに見えてとても繊細な扱いが求められる。
10粒一気に移して良いなら即クリアできそうだけれど。
マリアンナは魔力はそこそこだが扱いに関しては一級という評価を崩していない。
こういう勝負はマリアンナの出番になりそうだった。
最初の授業ではチームの中で選手の選出を行う。
マリアンナたちの特別クラスは希望者を募り複数いた場合は競わせて決定する。
誰もいなければ推薦、という形をとっていた。
もう何年も一緒にやってきた特別クラスの面々は誰が相応しいか分かっている。
お題が発表された時点でこれはマリアンナさんの案件です、と全員一致で決まってしまった。
なので選出の授業の際はだいたいが練習と遊びの時間になる。
マリアンナが練習、他の皆は試しにやってみよう、という具合だ。
今回は道具を使うため、屋内演習場に机と皿、くず魔石が沢山準備されていた。
ちなみにくず魔石は加工に耐えられない小豆ほどの小さい魔石だ。
何人かに分かれて席に着くが、マリアンナが皿と魔石を持って座ると皆が寄ってきた。
少し見学させてくれという。
魔石を1個ずつ的確に皿に乗せるのはそれなりに集中力が必要で大変だったが、かなり早く出来た。
「おおー!」と皆から歓声が上がる。
マリアンナは集中し過ぎて疲れたからと休憩することにした。
魔力をそれほど必要としないと言っても、平気な顔で連続してやっていると怪しまれる。
「選手はマリーに決定だけど、わたしくしたちも負けないくらいやってみましょう!」
「そうだな。どうやったらあんなに繊細に動かせるんだ。ちょっとやってみよう」
オリヴィエとフィリップが皆に声をかけ練習を始めた。
「あんなに簡単に出来ないんだけどね、普通。さすがだな」
皆の様子を観察していると、後ろから声をかけられ振り返った。
「エドガー先生」
最初の頃は『エドガーさん』と呼びそうになって変に口ごもっていたけれど、今では先生呼びにも慣れたものだ。
「簡単にやっているように見えましたか?結構大変だったんですよ」
エドガーと談笑していると、「うわあ!まずい!!」と隣のチームから叫び声が聞こえてそちらに視線をやろうと頭を動かした瞬間。
「きゃあっ!」
魔石が何個もすごい勢いで目の前に飛んできて思わず目を瞑る。
常に自動防御しているので衝撃は来ないが驚くものは驚く。
そっと目を開けると、魔石は砕け散ってしまったようだ。
キラキラと輝く粉が舞っていた。
顔を上げると、近くにいた学生がぽかんと目も口も見開いていた。
「怪我はないか」
「えっ…!マリー!大丈夫?何ともない?!」
「大丈夫か!今のは何だ、魔石が砕けた」
エドガーにオリヴィエとフィリップが慌ててマリアンナの様子を見る。
まずい。
マリアンナは冷や汗をかいた。
今のは魔力が少ない設定のマリアンナが咄嗟に防御魔法を展開したにしては無理があった。
「何ともないようだな。
間に合って良かった。たまたま私が近くにいて幸運だったな。
…君は魔力の調節が5年生の能力に達していないのではないか?周りに防御壁を張ってからやりなさい」
エドガーが全力でフォローした後、魔石を飛ばしてきた学生に注意した。
「先生…!本当にありがとうございます!!
エドガー先生のおかげで助かりました…!」
学生たちに、「ああ、エドガー先生が守ったんだな」という空気が広がっていく。
「無事で良かった。気をつけなさい」
マリアンナは本当に心からエドガーに感謝した。




