8.将来設計は大切です
マルグリットに家庭教師は終わり、と告げられてマリアンナはショックのあまり呆然としてしまった。
せっかく憧れの魔法なのに…楽しくなってきたところなのに…
これから普通の子が習い始めるらしい8歳まで何年も使っちゃだめなんて…
なんという酷い仕打ち…!
「えっ!住み込み…ですか?」
応接室で一緒に話を聞いていたカミラの声がして、マリアンナははっとした。
何の話になったのです?
ショックすぎて全然続きが耳に入っていなかった。
「ええ、マリーちゃんを、ぜひうちで預からせてもらいたいのです。」
なんですってー!え、マルグリット様のおうちに住み込みのお誘いですか!?
「で、ですがマリーは来月には3歳になるとはいえまだまだ手のかかる子どもです。こんなに早く親元を離れるなんて」
衝撃の事実。
来月お誕生日でしたか。あとで日にちを聞いておこう。
確かに3歳の我が子をたいした事情もなく人に預けたりしないよね。可愛い盛りだし。
「まだ手のかかる子どもだからこそ…このままここに置いておくのが怖いのですよ」
「どういうことでしょうか」
「この2ヶ月、ここに来るたびに冷や冷やしていました。…マリーちゃんは暴走していないだろうか、許可されていない魔法を一人で使っていないだろうか、みんな無事だろうか、家が燃えるようなことになっていないだろうか、と。
そして毎回無事であることに安堵していました」
マルグリットの真剣な口調に、カミラが息をのんだ。
「マリーちゃんの魔力の大きさについてあまり意識されていないようでしたが、それほどのものなのですよ。
もし何か起こってしまったら、ご両親で対処しようとしても絶対に無理と断言できるほどにマリーちゃんとご両親の魔力に差があるのです。下手をしたら、命を落としかねない」
「そんな…」
魔法が使えるー、嬉しいー!くらいの軽い感じでいた。
そこまでの懸念事項だったとは。
「今の段階でもかなり魔力が大きいですが、成長していけばさらに魔力も成長するものです。
マリーちゃんは、平民の中では異質すぎて…うまく生きていけないと思います。
それから酷な事を言いますが、マリーちゃんが将来結婚して子を生すことは…諦めてください」
カミラが真っ青になった。
ああ、そうだよね。
先のこと過ぎて考えてなかったけど、私なら『金』の子ができる可能性もあるわけで。
「マリーちゃんなら学園に問題なく入れるでしょうし、卒業後は宮廷魔術師になったり研究所に入ることも夢ではありません。仕事をして自分で生活していけるように今から環境を整えてあげませんか?」
実家にお金を入れて、30歳独身のまま仕事に生きていた私としては全く問題ない将来設計です。
「ですが、魔術師としての教育だけではありません。住み込みとなると、ほとんど子育てになりますが…」
あ、母さま、ちょっとマルグリット様に傾いていませんか。
「あら、これでも私、息子2人を成人まで立派に育てあげたのですよ。その時は使用人…お手伝いしてくれる方もいましたが、数年前にも子どもを預かっていたので子育てには慣れているんですよ。安心してお任せください」
ちょっと待ってください、マルグリット様!成人した息子さんがいらっしゃるんですかー!
魔法も使えるし本当の意味で美魔女ではないですか。おいくつなんだろう。
というか使用人って言っちゃってますけど…平民ぽい感じで生活してますけど魔力からみても元々貴族なのではないだろうか。
「もちろんまだお互いが恋しい時期でしょうから、定期的にお家で過ごすようにすればいいですし、日々の様子もお伝えしましょう」
一旦気分が下がったところで良い話を持ってきて上げてきている…
ちょっと悪徳商人のようです。
「はい!しつもんです!」
日々の自主勉強と、丁寧に話してくれるマルグリットのおかげで、マリアンナはだいぶ話すのが上手になってきていた。
「はいどうぞ、マリーさん」
いつもの授業のノリだ。
「わたしが行くと、せんせいによいことはありますか?」
子ども一人預かって教育するのだ。
完全な慈善事業でできることではないだろう。
「あら、マリーちゃんは本当にお利口さんね」
こういう時、とても面白い獲物を見つけたように微笑むのはやめていただきたい。




