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45.勉強会

後期の試験を前にして、マリアンナはオリヴィエの家に招かれていた。

本当はもっと前に誘われていたのだが、休みの日はほぼ王城に滞在していたためなかなか時間がとれなかったのだ。


『マリアンナ』のほうにも護衛がつけられているらしく、学園が休みの日は寮から出ないことになっているので護衛もいない。

オリヴィエの家に行く際にも来てもらえるように調整も必要だった。


友人の家に行くだけで護衛が必要なのか疑問だったが、オリヴィエとフィリップが馬車で寮まで迎えに来てくれたので本当にいらないと思う。


マリアンナの護衛は姿を消しているそうなので見えないが、馬車に無事ついて来ているのだろうかと不安になる。

独り言が多いらしいと陛下から助言があったのでシロは一緒ではなく、護衛が本当にいるのかどうかも分からない。


馬車から降りると広大な敷地に立派なお屋敷が建っていた。

美しい庭園と、その向こうにも別のお屋敷が見える。


「本日はお招きいただきありがとうございます」

「ルーウィン公爵家へようこそ、マリアンナさん」


先にフィリップと馬車から降りていたオリヴィエが、綺麗な淑女の礼でマリアンナを迎える。


「…公爵家…」


公爵家といえば王族に連なるものの血筋ではないか。


「…君は驚くほど動じないな」


フィリップが呆れたようにマリアンナを見た。


「いえ、オリヴィエさんが公爵家のご令嬢とは…かなり動揺しています」

「それに動じるのは分かるが、この屋敷を見ても普通だっただろう」

「…はっ」


王太后様の離宮や王城に慣れてしまって、公爵家のお屋敷を見てもすごいな、としか思わなかった。

よく考えてみれば一平民が訪れて平気でいられる場所ではないだろう。


「ま、まるで夢を見ているようで!ぼんやりしていたのです!

す、すごく立派なお屋敷で…恐縮してしまいます」


「ふふ、マリアンナさんは慣れているのかしら。

さあどうぞ入って」


出迎えていた公爵家の侍従が扉を開いた。


中ではホールで何人もの使用人が並んで出迎えてくれたが、一番手前に立っていた女性が顔を上げたところでマリアンナは思わず声を上げてしまった。


「あ…っ!!」


「お待ちしておりました。マリアンナさん」


にっこりと笑った女性は、マリアンナの良く知る年齢不詳のあの人だった。


「アマンダさん…?!え?先生のご実家の侍女だとおっしゃっていたような」

「ええ、こちらがマルグリット様…ドロテーア様のご実家です」

「ドロテーア様はわたくしのおじい様の妹なの」


マリアンナはあんぐりと口を開けた。


「…!」

「マリアンナさん、そのように大口を開けるものではありませんよ」

「はい、先生!」


アマンダは小さい頃からマリアンナの作法の先生だった。

ついつい今日も生徒のような気分になって背筋が伸びる。


貴族のお宅に招待されたことを伝えると難色を示していた皆が、オリヴィエの名を伝えた途端に手の平を返したように賛成したのはこのせいか。


「うふふ、実は昔からアマンダからマリアンナさんの話は聞いていたの。

平民なのにとても覚えが良くてオリヴィエ様とは大違いっていつも比べられて、どんな子なのかずっと気になっていたの」


「そ、そうだったんですか…」


オリヴィエが友人になってほしいと言ってきた時の事が頭に浮かんだ。

あの時マリアンナの名に聞き覚えがあったような反応をしていたのはアマンダに聞いていたのだろう。


「マリアンナさんはドロテーア様が面倒を見ていて、アマンダが淑女教育をしていたのよ」


マリアンナたちの様子をぽかんと見ていたフィリップに、オリヴィエが説明した。


「何だ、そういうことなら何故私に言わなかった」


フィリップが少し拗ねたような声を出す。


「だって公爵令嬢のわたくしが平民の子に負けているなんて、悔しいし恥ずかしいしとても言えなかったのよ!」

「マリアンナさんのおかげで負けず嫌いのうちのお嬢様も立派な淑女になってくれましたわ」


おほほ、とアマンダが笑う。


「そうか…ならば感謝すべきかな」

「もう!フィリップ!」


二人が痴話げんかを始めたので、マリアンナはアマンダに近寄り声を潜めた。


「あの…私のいつもの姿については…」

「容姿については何も伝えておりません」

「良かった…」


マルグリットの家ではアマンダに対しては昔から素顔を晒していた。

他の教師に対しては念のため魔導具でない眼鏡をかけ地味にしていたが、マリオの頃から知っているアマンダに対しては意味がなかったためだ。


マルグリットが信用している人というのも理由だったかもしれない。



「さあ、お嬢様、フィリップ様、いつまでも痴話げんかしてないで。今日はお勉強するのでしょう?」

「痴話げんかなんてしていません!」


本当に微笑ましい。



大きめのテーブルがある客間に通され、マリアンナたちは教材を広げた。


「………」


「……」


「勉強会といっても学年上位2名では分からないところもないのではないかしら」


内心思っていたことをオリヴィエが言ってしまった。


「という訳でわたくしに教えてくださる?」


オリヴィエがマリアンナに計算問題を見せた。

普通に計算すれば無駄に時間がかかる問題だ。


「これは先にこっちとこっちを計算してみると分かりやすいですよ」

「…やってみるわ。計算は苦手なの」


「計算問題はとにかくたくさん解いてみるといいですよ。

単純な計算を間違わないように気を付けるのが大切です」


オリヴィエが必死で計算しているのを眺めていると、フィリップが口を開いた。


「君は努力してきたんだな」


「いえ、私はたまたまマルグリット様に出会って面倒を見てもらったので…幸運だっただけです」


「確かに普通の平民よりは環境は良かったんだろう。

だが整った環境があったところで本人が努力しなければ結果はついてこない。

地頭は良いのかもしれないが、君はそれだけじゃなく礼儀作法もしっかり身についている。

一朝一夕にできたものでないことくらい分かる」


「フィリップ様…」


「あら、フィリップったらマリアンナさんに勝てなくて悔しがっていたくせに」

「君は早くこの問題を解くんだ」


幼い頃からマリアンナと接してきた大人たちは、あなたならこのくらいなら出来るという感じだった。


同い年の彼らと比べれば前世の経験があるマリアンナはかなり有利なのだろうが、貴族の作法などは初めて覚えた。

その努力を認められて素直に嬉しいと思う。



「ふん、努力は認めるが次の試験こそ負けないからな」

「はい、私も負けません。…フィリップ様、そこ計算間違ってますよ」

「…数字を書き間違っただけだ」

「まったくフィリップは素直じゃないわね」

「君はその問題に集中しなさい」


会話が可笑しくて、思わず笑ってしまう。



学園が始まって一年近く経って、やっと彼らと本当に友人になれた気がした。




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