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37.突然の訪問

「母上、彼女を頼む。

クラウディオは私と来なさい。少し話がある。

他の者は下がって良い」


謁見の間に皆を残し、先に王族一同とマリアンナが退室した。


マリアンナは王太后預かりとなったので、拠点は王太后様の離宮になる。

長期休暇の間に既にマリアンナ用の部屋が整えられていた。


とはいえそこでマリアンナが生活するわけではない。

離宮付きの信用できる使用人には『精霊がとある場所で守っている』ことになっている。


随分と神秘的だが、実際マリアンナが暮らすのは変わらず学園の寮だ。


勉強をしているという事実が必要なため定期的に訪れることになりそうだが、その時は転移で移動することになる。




「緊張したでしょう?

無事に終わってよかったわね」


離宮に戻り、ソファに深く腰掛け王太后様がほっと息をついた。

マリアンナにとってはその王太后様も緊張の対象であるが。


「はい、色々とありがとうございました。

これからお世話になります」


「ええそうね!これから楽しくなりそう!」


うふふと笑う彼女に、マルグリットの笑顔が重なり少しぞっとする。

早速ドレスを仕立てましょうと何着も用意されてはたまらない。


「それにしても、陛下に婚約を命じられた時の反応は良かったわね」

「す、すみません。おかしな反応になったかと」


「そんなことないわ。気が進まないことを言われたけど、相手が国王だから断れない薄幸の乙女って感じで」


それはまずくないか。


「陛下が悪者みたいな感じになっていませんか?」


「一国の王なのだから、国の利益のために動くのは当然よ。

陛下の事は気にしなくていいわ」


精霊の加護があってこそ始まった国だ。

精霊を味方につける者を取り込むのは王として当然ということなのだろう。


「王の判断に間違いはないけれど、困ったことがあれば助けてあげようと思わせる効果はあったんじゃないかしら」

「助けられても困りますが…」


本当は望んだ婚約なのだ。


「そこはこれからクラウディオと仲睦まじい姿を見せればいいわ。

休みの日に王宮の庭園でも散歩すればあっという間に噂が広まるわよ。

クラウディオの貴女を見る目ったら!見てるこっちが恥ずかしくなるわ」


「そ、そうでしょうか…」


少し自覚のあったマリアンナは、頬が熱くなる。




「王太后様、よろしいでしょうか」


部屋の外から声がかかる。

王太后様付きの侍従だ。


王太后様がどうぞと返事をする。


「アレクシス様がいらっしゃいました。

アイリス様にお会いしたいそうですが…」


「あら予想外の助けがきてしまったかしら」


マリアンナはごくりと唾を飲んだ。


「突然だから追い返してもいいけれど…マリーちゃん、アレクシスを入れてもいいかしら」


「はい」


通すように伝えると、しばらくして深刻な顔をしたアレクシスが部屋に案内されてきた。


「王太后様、突然の訪問になってしまい申し訳ありません」

「貴方らしくないわね。まあいいわ、座って」


アレクシスは少し俯き加減で、ソファに腰かける。

マリアンナの方は一度も見なかった。


「それで、アイリスに何か用かしら」


アレクシスは顔を上げ、ゆっくりとマリアンナに視線をやった。

その目が真剣で、じっと見つめられたマリアンナは緊張のあまり冷や汗をかく。



「…貴女は、これで良いのですか?」

「…これで、とは?」


何事かと、応えるマリアンナの声が強張る。


「王宮に、鎖をかけられ囚われるようなことになって構わないのですか?」

「…わたくしは、陛下の決定に異論ありません」


アレクシスはマリアンナを探るように見た。


「しかし」

「アレクシス」


アレクシスの言葉の途中で、王太后様が割り込んだ。


「これは陛下の決定です。それ以上は控えなさい」

「…っ」


アレクシスが苦しそうに顔を歪める。


「殿下」


マリアンナが声をかけると、アレクシスがはっと顔を上げた。


「わたくしは、皆さまに受け入れていただいたことを嬉しく思っています。

まだ何年も先になりますが、クラウディオ様と婚姻を結べば殿下はわたくしのお義兄さまでしょう?

気が早いかもしれませんが、家族のように仲良くしていただけると嬉しいです」


マリアンナは、これでもかというほどにっこりと笑ってみせた。


「本当、に?」

「はい」

「そう…か……」


アレクシスは一旦俯き、深く息を吐いて顔を上げた。

先ほどまでの焦燥感のようなものが消え、いつものアレクシスに戻ったようだった。


「ならばソフィアと同じように扱おう。良いか?…アイリス」


アレクシスがにやり、と不敵に笑う。


「も、もちろんです」


突然の呼び捨てに驚いたが、家族のようにと言ったのは自分だ。

マリアンナはぐっと堪えた。


「ではアイリス、来い」

「え!?ひゃあ!!」


マリアンナは立ち上がったアレクシスに手を引かれ、そのまま抱き上げられた。


「まあまあ」


王太后様!何ですかこれは!!


体勢が不安定でアレクシスの肩に手を置く。

すると首のあたりに手を置かれ、頬に唇が押し付けられた。


「んな?!」

「はは!よろしく頼む、アイリス」

「ででで殿下、なにを」

「お義兄さまだろう」

「殿下!下ろしてください!」

「お義兄さま」

「~~~お義兄さま!」


真っ赤になったマリアンナが叫ぶと、やっとその足が床に着いた。


「突然何をするのですか」


アレクシスを睨みつける。


「ソフィアはこうすると喜ぶ」


そろそろ嫌がる年頃ではないだろうか。


「可愛い妹扱いだ。喜べ」


がしりと頭を掴まれ撫でまわされた。



アレクシスが一体何を考えているのか分からず、マリアンナは困惑するばかりだった。




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