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34.精霊の証明

長期休暇に入って間もなく、第1王子殿下の婚約が正式に発表されたそうだ。

そして同時に王太子となったらしい。


マリアンナは夜会には出ないので決まったことの報告を受けるだけだったが、そのうち市井にも情報が広まるだろう。



『マリー、呼ばれたぞ』


クラウディオの傍にいたシロが帰ってきた。

今日は遂にシロの証明をする日だ。


場所は一度訪れたことがある王太后様の離宮だそうだ。


「では先生、いってきます」


マリアンナは一緒に待機していたマルグリットに挨拶をした。


「ええ、頑張って。

…少し勿体ぶって行きましょうか」


マルグリットがマリアンナのローブのフードを頭に被せた。

新調したもので、白地に金糸で美しい刺繍がされている。

今回は披露目ではないためドレスは前と同じマルグリットからの借り物だった。


「シロ、お願い」


マリアンナはシロに手を伸ばす。


『しっかり掴まっていろ』


というシロはマリアンナの胸に飛び込んだ。


ふわりと風が起こり、目を瞑る。


『連れてきたぞ』


シロがマリアンナから離れた。

そっと目を開けると、先日とは違う部屋に一目で分かる高貴な方々が勢揃いしていた。


「おお、なんという事だ!」

「まあ…」


驚愕していたり呆然としていたりする人の中、クラウディオだけが笑っていた。


「精霊に連れてきてもらいました。マリアンナです」

「無作法に現れることになってしまい申し訳ありません。

マリアンナ、またの名を魔術師見習いのアイリスと申します」


マリアンナがフードを下した瞬間、全員が息を呑んだのが分かった。

クラウディオはそろそろ見慣れてもいいと思う。


マリアンナがその場で礼をすると、クラウディオが立ち上がり迎えた。

その手をとられ、席に案内される。


「マリーちゃん、お久しぶりね」


王太后様がにこやかに迎えてくれた。


「お久しぶりです、王太后様」


「母上…いつの間に…」

「うふふ…マリーちゃん、これが国王陛下、こちらが王妃よ」

「これ…」


国王陛下は金の瞳にブルーブラックの髪の美丈夫だ。

30代と聞いていたが20代半ばほどに見える。

王妃様は金髪碧眼のこれまた美しい人だった。

まだマリアンナが突然現れた驚きを隠せないようで呆然としていた。


『おい、礼は』


シロがクラウディオをつついた。


「はいはい…シロ、マリアンナを連れてきてくれてありがとう。

すまないが、帰りも頼む」


クラウディオは魔力を込めた魔石を取り出しシロの前に置いた。

何度か補給しているのでシロが興奮することはなく、普通に手を置いて吸い取る。


「これは…!」


何事かと魔石を見ていた陛下たちの反応はマルグリットたちと同様だった。


「どうでしょうか。精霊の存在と、マリアンナの事を認めていただけますか」


「ふむ…いいだろう」

「わたくしは異論ないわ」

「ええ、わたくしも」


3人とも反対はないようだ。

マリアンナはほっと息をついた。


登場しただけで認めてもらえるとは拍子抜けだ。



「それにしても、マリーちゃんは前にも増して綺麗になった気がするわね。

クラウディオと想いが通じたからかしら」


「え…っ」


マリアンナは恥ずかしさのあまり顔が火照る。


「そうだな、今でこれでは将来虫よけに苦労するぞクラウディオ」

「アレクシスの婚約者が少し可哀想になりますわ」

「いや、これではアレクシスのほうが可哀想ではないか」

「「陛下」」


王太后様と王妃様に窘められ、陛下がぐっと唸った。


この国は女性が強いのかもしれない。



「しかしアレクシスの婚約の後は『精霊の乙女』の登場か。

忙しくなるな」

「『精霊の乙女』の認定には、宰相や有力貴族の前で証明してもらわないといけないわね。

…転移は見せられないとして、何か他にいい案はあるの?」

「王子の私が見えて意思の疎通ができるだけでは弱いでしょうね。

何かシロだけが知るようなことで、そこそこ印象付けられるような証明ができればいいのですが」


クラウディオがシロに視線をやる。


『そう言われてもな…』

「そういえば宝物庫に初代国王の遺品が残っているんだが、その中にどうしても開かない箱がある。

精霊殿は何か知らないか?」


陛下がマリアンナを見て言った。

本当にマリアンナが精霊と意思の疎通ができるか知りたいようだ。


『もしかしてそれは小さい黒い箱じゃないだろうな』

「小さい黒い箱ではないかと言っています」

「おお、それだ!」

『あれはいらん。今すぐ捨てていい』

「すぐに捨てていいそうですが…」

「さすがにそういう訳には…精霊殿は中身をご存じなのか?」

『……』

「シロ?」

『あれは、あいつからの贈り物だった。

くだらない物だったから拒否したら、へそを曲げて全身全霊をかけて保存魔法をかけ封印した』

「子どもか」


クラウディオが呆れたように言った。


「初代国王陛下から、シロへの贈り物だそうです。

シロ、せっかくだから貰ったら?開けられないの?」

『開けるのに合言葉がいるんだ』

「合言葉?」

「ああ、箱には文字が彫られていて、『合言葉を言え』と書かれている。

しかしその下の文字のようなものが誰にも読めない」


マリアンナが拾ったシロの言葉に、陛下が答えた。


地球の、おそらく日本からこちらに転移したらしい初代国王が残した合言葉。

鍵がかかった場所を開ける合言葉でありがちなものがあるではないか。



「シロ、もしかして、読める…?」


私なら。


マリアンナは暗に問いかけた。


『…ああ。きっと』


「読めるのなら、それをマリアンナに伝え皆の前で開封すれば証明になりませんか?」

「500年誰にも開けられなかったものだ。それが開封できれば証明どころか歴史に残る快挙だな」



証明はそれで行うことになり、その後はこれまで話し合ってきたマリアンナの処遇について意思疎通を行った。




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