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1.記憶喪失でしょうか


何か熱いものが、指先から一気に体中に広がっていく。

まるで逃げ場を求めていたような性急さで、”それ”に侵食される。


体が熱を持って動けない。

内側から自分が作りかえられているようだった。


中を全て食い尽くしたら、外に出て暴れだしそうな感じがしてぞっとする。



(…落ち着いて!!)



このまま”それ”を自由にさせたら自分が危うい気がして、必死で押さえつけた。


怖いものから逃げて、怯えて癇癪をおこして暴れまわっているような感覚が伝わる。


(大丈夫、私が一緒だから―――一緒にいるから)



ぎゅっと”それ”を抱きしめる。





徐々に落ち着いた”それ”が、やがてすうっと私に溶け込んだ。








――――






「うっ…」


体中が汗でびっしょりと濡れている。

寝苦しくて気持ちが悪い。


(夢…?)



ゆっくりと目を開けると、こちらを覗き込んでいた女の人と目が合ってびくっとした。


「マリー!」


ぶわっとその人の目に涙が溜まったかと思ったとたんに頬を擦り付けられる。


「ああ…良かった、もうこのままダメかと…っ」



うっ、うっ、と泣いている女の人には申し訳ないけれどやめて欲しい。

体中が汗で濡れているのが気になる。



というか、あなたは誰でしょうか。

こんな茶色い髪の外国人美人さんに知り合いはいないし、理解はできるけど言葉も日本語ではない。



知っている。こういう訳のわからない状況においては慌ててはいけないのだ。

緊急の身の危険はなさそうだし、落ち着いて状況を把握する必要がある。


伊達に30年生きてきたわけではないのだ。



私に縋り付く女性から目線をはずして、視線で周りを観察する。

何だか体力をかなり消耗しているようで体がちょっとしか動かせない。


茶色い木の壁と天井、ベットサイドにテーブルがあってガラスの水差しが見える。

窓から明りが差し込んで、カーテンが揺れていた。



(ふむ、全然わからない)


ここはどこで、あなたは誰でしょうか。何が起こったんでしょうか。

そう聞きたいけれど、言葉がうまく紡げない。何しろ日本語ではないのだ。


その中でも思い浮かぶ言葉を口にする。


「…だれ?」


自分が発した声に驚いてギクッとする。と同時に、びくっとして女性が顔を上げた。


私の声じゃない。


女性が呆然とこちらを見ているけど、それどころではない。

重い腕を動かして手の平を目の前に上げる。


…小さい。



どくっどくっ!と急に心臓が動き出す。



落ち着け、落ち着け私!


と言い聞かせようとするけれど、ちょっと、いやかなり状況が理解できない。



「マリー…あなた、もしかして…記憶が?」


呆然と目を見開いた女性が、震えた手を口元に持っていく。


「マリー??」


マリーとはもしかして私ですか?

私ももしかして外国人になっているのでしょうか。


「ええ、あなたはマリー。私はあなたの母さまよ。…分からない?」



分かるって言ったほうがいいのだろうか。

でも本当に一切分からないのに誤魔化せる気がしない。



「…わからない…」


ここは正直に答えることにした。

無理はしない主義なのだ。



「ああ、どうしよう…!姿だけじゃなくて記憶まで失うなんて…!」


はらはらと、女性―どうやらお母さん―の目から涙が零れ落ちる。



姿だけじゃなく?


聞き捨てならない言葉があったけど、聞き返す前にぎゅっと抱きしめられた。



「…大丈夫よ、あなたはまだ2歳だもの。これから十分やり直せるわ。大丈夫」



私2歳だった。




「…さあ、お水飲みましょうか。何かお腹に優しいものを作ってくるから、食べたらもう少し休みなさい。あなた、高熱で3日も目覚めなかったのよ。」


えー!それは熱のショックで記憶喪失でもおかしくないかも。

そういえば目覚めた時にもうダメかと思ったとか言われた気がする。

命も危うかったのかもしれない。




それからうとうとしつつ、お野菜をくたくたに煮た薄味のスープを少し飲んだり、寝たり。

暗くなってから帰宅したらしいお父さんを紹介されたりした。


お父さんは赤毛で高身長のイケメンだった。

ボロボロ涙を流しながらぎゅーっと抱きしめられて息が止まるかと思った。

お父さん、力強すぎです!




それにしてもなんだろうこの美男美女は。

まだ起き上がれなくて確認できていないけど、私の顔面期待値が上がりまくる。



それから少しだけ聞いたお父さんとお母さんのお話から察するに―――





どうやら私、異世界転生とやらをしたのかもしれない。






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