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公爵の独白、或いは蛇足

 私の母は、この国の王の娘として生まれた。成人すると公爵家に降嫁し、私と姉弟たちが生まれた。現国王は母の兄にあたる。王女の割に母は飾らない性格で、私たちは地方の本邸でのびのびと気ままに育った。


 私が十歳になる頃、王に娘が生まれた。名をルイーズという。ずっと子供を授かれずにいた夫妻はこの娘をたいそうかわいがった。私の母の元にも、王から娘自慢の手紙が何通も送られてきたのが残っている。

 ルイーズが八歳になった頃、王はこの一人娘に王位を継がせたいと考えた。今の法律では、王位を継ぐことができるのは男児だけだった。これまでは王に男の子が生まれなければ、王族の血を引く貴族の息子を連れてきて王にしていた。

 そう、私は王が法律を変えようとしなければ、いずれ玉座に座っていたかもしれないのだ。そう考えると、正直ぞっとする。先ほども述べたとおり、私は穏やかな両親と使用人に囲まれ、のびのびと気ままに育ってきたのだ。とてもじゃないが玉座でじっとしていられる性質ではない。

 十八歳になった私は、継承問題など知らぬふりをして逃げるようにグランドツアーへと旅立った。父の書斎に飾られた絵画の中で見た、美しい近隣諸国をめぐり、たくさんの素晴らしい友人をつくり、たくさんの美しい女性と恋に落ちた。この旅は私の人生で最も有意義な時間だったと言っても過言ではない。


 さて、話をルイーズに戻そう。彼女が十三歳になった年に、ようやく法律を変えるめどが立った。けれど反対派を煽って王女のディナーに毒を盛られるようなことがあってはならないので、この事実はしばらく秘密にされる。そうなると、周りはあろうことかこの私が次期国王になるという噂をし始めたのだ。

 その頃、私が王城の近くの別邸に移り住み、多くの舞踏会に出席し始めていたことも噂が広まった原因かもしれない。最初の頃は居心地の悪さを感じていたが、今ではすっかり慣れた。次期国王とお近づきになりたい貴族やその娘たちが度々私の元を訪れては、私のご機嫌をうかがう。顔と名前を憶えてやると、顔を真っ赤にして喜ぶ。まあ、交友関係を広げておくことは、私にとっても悪いことではない。

 私は王城で行われる舞踏会で何度も、さも王子のように振舞った。そうすると周りが喜ぶので、もちろん仕方なく、である。出会う女性と一夜の恋を楽しむのももちろん、仕方なく、である。

 ああ、どうしても自分語りを始めてしまうのは、私の悪い癖だろう。

 

 良く晴れた初夏の日、ルイーズがついに女王となることを発表した。その日からなぜだか私は憐みや恨みのこもった目で見られることが多々あったのだが、それはまた別の話。

 そして驚くべきことに、ルイーズは夫となる男を自ら選んできた。しかも、それはいつの日かの舞踏会の夜に出会った、異国の貴公子であった。(本当は異国から来たわけでもなければ爵位も持たないらしい)


 ルイーズの夫となった青年の名はサンドリヨといった。爵位こそ持たないが裕福な家庭の生まれで、芸術品のように美しい顔をしていた。私が言うのだから間違いない。二人の結婚が正式に決まった時、彼の継母が元旦那に訴えられて投獄され、義理の姉たちが修道院に送られるなど、少し騒ぎになったのも今は懐かしい。

 二人が結婚し、ルイーズが女王となってから、私もついに身を固め、家督を継いだ。そして三人の息子と四人の娘が生まれた。

 一番下の娘のアリサが七つになった頃になっても、ルイーズがわが子をその腕に抱くことはなかった。二人はとても仲睦まじく、子宝に恵まれないのは不運としか言いようがない。

 私の妻が四人目の息子を出産した年の冬、女王陛下の名で一通の手紙が送られてきた。その手紙には、私の四番目の息子を養子として迎えたい、と書かれていた。ルイーズは子を産むには歳をとりすぎていたのだ。

 こうして我が息子は、次期国王となるべく城に引き取られていった。私が息を引き取る最後の瞬間まで、私はこの小さなわが子の幸せを切に願い、これからも願い続けるのだろう。どんな形になっても、あの子の父親である事実は私の誇りであり、幸福なのだ。

 

 小さなかわいい、私の息子よ。私はおまえを手放すが、いつまでもお前の幸せを願っているよ。何か困ったことがあったなら、すぐにこのフェルナンを頼りなさい。きっと助けてやるからね。だから、いいこにしていらっしゃい。

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