淡水色の春、無残に壊されて。【上】
男主人公、病気、医療
※この作品はフィクションです。
まず初めに、僕の事について話させてもらおう。
僕は昔、血を吐いた。真っ赤な真っ赤な鮮血を。すぐさま入院し、主治医が告げたのは「肺結核」という病名だった。当時小学六年生であった僕には、そんな重い事実は受け止め切れなかった。何度も、何度も連呼した。“嫌だ”と。やがてそんな言葉にも飽きて、静かになっていったのだが。
そんな絶望的な3文字も、PZA、INH、RFP、SM、EBなどの薬剤によって僕の体内から姿を消した。が、それらの薬剤は恐ろしい程の副作用として僕の体に暗い爪痕を遺した。胃腸障害、肝障害、腎障害、視神経炎、第8聴神経障害、溶血性貧血、精神障害······。どれも肺結核に比べれば危険度の低い副作用なのだろうが、そんな事は関係ない。一つの強いものが幾つもの弱いものに変わっただけだ。五十歩百歩じゃないか?なんて、怒りに駆られた時期もあったが、次第にそんな爪痕も覆われていった。
時は経ち、6年後の今。小学校の頃に暗い過去を背負った僕も、さて受験に急き立てられる1年が始まる、という所に差し掛かった。あの後、中学では肺結核の経過観察などで忙しい時もあったが、勉強にその身を急き立てそこそこの高校に入る事が出来た。なんとか青春は掴み取れた。文芸部の仲間達とも楽しく過ごせている。その他にも勉強に、そしてちょっとばかし恋愛に。
初秋の候、少し咳込むことが多くなった。市販の風邪薬を飲みながら、いつも通り"アオハル"を謳歌していた。日が傾き、そろそろ片付けようか、と隣に座っている彼女は僕に微笑みかけた。その時、少しばかり吐き気を孕んだ咳が出た。視線を下にやると、原稿用紙3枚目の7割ほどまで書き上げた小説が紅に染まっていた。視界からの情報を脳が拒否し、記憶の中では6年前の暗き記憶が走馬灯の様に視界を駆ける。彼女が口に手を当て悲鳴を上げた事で、意識は現実へと引き戻され、視界に再び紅が入った。目の前に広がる鮮血に塗れた原稿用紙。原稿用紙に例の三文字が浮かび上がった様に感じた。
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