第8話「睡眠」
毎日更新ができていますが…
朝目覚めると、藁のようなものの上で寝ていた。
多分オルダムが移動してくれたんだろう。
どうでもいいが、俺は寝るときに必ず右側を向いて寝ている。
深い意味は全くないが、自分の腕を枕にして寝ることが多かったため、自然と利き手を枕にしていたんだろう。
今日も右腕を頭の下にいれ、寝ているようだ。しっかりと右腕には重みが伝わってくる。
それはそうと俺は起きること自体が嫌いだ。そのためいつも後5分、10分と延長しているのも癖になった。
昔、凛が起こしに来てくれたにも関わらず、一時間以上寝ていたことがある。
凛曰く、「何度も起こした。起きない兄さんが悪い。」と言っていたが、起こされた記憶がない。
翌日から数日間、携帯をみてはにやにやしている凛が心配になり、声をかけたところ全力で携帯を隠していた。きっと彼氏でもできたのだろう。凛も成長しているんだな。
意識を戻していこう。
目を開けたくない気持ちを必死に抑え、わずかに開いた目で意識を戻していく。
…目の前にルクス君?が寝ていた。
はじめに言っておきたい、俺は決してショタが好きなわけではない。不思議なことに、ドキドキとしてしまう自分が怖い。
そういえば、昨日は結局オルダムにルクス君?の性別を聞くのを忘れていた。ただ、男の横に寝るくらいだから、きっと男の子だろう。
もし仮に女の子だとしたら、出会ってまともに会話していない男の横に寝るなんて正気の沙汰ではない。
「んん~、っん。」
寝返りか…
昨日、ルクスはオルダムと説教という名の死闘を繰り広げていたからな。
ただ、ルクスはオルダムのことを信頼していたみたいだし、オルダムもそこまでひどいことはしていないだr………
ぇぇぇぇぇぇえええええええええーーーー!!!
寝返りであらわになったルクスの背中、すごいあざができてるんだけど!
これ、絶対痛いよな…というかオルダム、やりすぎだろ。
できる限り刺激を与えることなく抜け出そう。とりあえず起き上がって…
……
本日二度目のぇぇぇぇぇぇぇぇええええええーーーーー!!!
腕に重さがあるからてっきり俺の頭の下にあるもんだと思っていたら、ルクスの頭の下に俺の腕がある!
かわりにルクスの腕が、俺の枕の代わりをしている…。なんて変な格好で寝ていたんだ俺は、というか俺達は。
「ルクス、起きてくれ。」
「後10年……後10年だけだから…。」
「10年寝たら立派な大人の仲間入りだわ!というかマジで起きてくれ、腕が痺れる。」
その後数分間声をかけたり、体を少し揺らしてみたものの、全く起きる気がしない。しょうがない、あれを使う時が来たか。
考えだした答えは一つ。ルクスの耳元で禁句であろうフレーズを囁いてみた。
「オルダム。」
ピクッ。
うん、反応あり。
流石オルダム、名前だけでルクスからは汗が噴き出している。
きっと耳元で囁き続けたら悪夢を見ることは間違いないだろう。
「オルダム、オルダム、オルダム、オルダム…………オルダム。」
もう藁がびしょびしょになるくらい汗が噴き出している。脱水にならないか心配になってき…
嘘だ、超絶楽しい。
楽しいルクスへの嫌がらせの時間も終わりを告げようとしていた。俺の右腕がしびれて限界のようだ。完全にしびれて指先の感覚がなくなってきた。
ルクスの汗で腕自体は滑りやすくなっているため、ここは強硬手段を取らせてもらう。そう、大声をあげてルクスを飛び起きさせつつ、自由になった右腕を体に引き寄せる作戦だ。
命名しよう、「どき!びしょ濡れで大暴れ!大事な右腕レスキュー大作戦!」という作戦名に現段階で決定した。
いざ尋常に…!!
そう意気込んだ瞬間、隣の部屋からオルダムが現れた。俺のほうを見てにやりと笑っていたため、目でアイコンタクトを送った。
(オルダム、ルクスを起こしてやってくれ!)
(わかった、とびっきりの大声で怒鳴りつけてやる。)
この時ほどアイコンタクトで意思疎通がとれたと思うことは生涯ないだろう、そう思えるくらいの時間が流れた。
「ルクス!!起きやがれ!!!!!さっさと起きねぇとぶん殴るぞ!!!!」
「…!!はい!おはようございます!オルダムさん!」
一瞬にして飛び起きたルクスだが、熟睡できていなかったのか眠たげな眼をしている。
ただ、あれだけ寝ていたルクスが一瞬でここまで起きれるというのだから、流石はオルダム、いい関係が築けていると思えた。
「んだぁ!その腑抜けた調子は!」
オルダムがルクスの頭の上から真下に拳を落とした。
というか寝起きに拳骨は厳しすぎやしないか…まぁ、二人の関係からみればいつものことなのかな。
「っっぐぁ!い、痛いです…。」
「あぁ?なんで避けねぇ!いつものお前なら呼んだらすぐ起きる、殴ってもかわす。
……お前、熟睡しただろ。」
なぜ熟睡したことに対してオルダムは怒っているのだろう。
現代から来た俺からすると、睡眠とは生きるために重要なものだ。専門的なことはよくわからないが、リラックスした状態で寝ていないと大変だとかなんとか。
昨日に比べて俺は冷静でいる…と思う。
少しずつ環境に慣れていこう、ここはもう現代の常識が通用しない異世界だ。
「オルダム、熟睡ってのは人間に…いや、生物にとって大切なものだ。
ルクスは昨日疲れていたんだし、疲労回復としては熟睡して少しでも早く回復することが生きていくためには必要と考えたんだが…どうして熟睡したことを叱った?」
俺の質問が意外だったのか、オルダムは驚いている。こういった小さなことから環境への適応ってのは変わると思っている、だからこそわからなければ質問する。これが知識を得るために一番の近道だ。
俺個人として思うに、現代社会では、質問できる若者が少ないと感じていた。わからないことは聞けばいいのに、知らないという事実を隠すことに躍起になる若者が目に入った。
無論、全員というわけではないが、なぜ聞くことを恥ずかしがるのだろう、知らないまま生きているほうが何倍も恥ずかしいというのが俺の考え方だ。
「それが素の主の話し方か、いいじゃねぇか。敬語なんて使われてたから昨日は背中がムズムズしてたんだ。」
そういわれると、アイコンタクトのときから敬語を使っていないな。まぁ、オルダムとは長い付き合いになるだろうから、敬語が早く取れてラッキーという認識でいいだろう。
「さっきの質問の答えだが、考えてみてくれ。確かに睡眠が大切ってのは生きてりゃ誰でも知っていることだ。
だが、ここは名無しの場所だ。いついかなる時でも命が狙われていると考えて行動しなきゃ、疲労だ熟睡だ言ってる前に明日の命がねぇってもんだ。
ここでは誰も守ってくれねぇ、人間は寝てる時が一番無防備なんだ。
少人数で寝てたからこそ、ルクスは誰よりも熟睡しちゃいけなかったんだよ。代わりに俺が徹夜する羽目になっちまった。」
なるほど、確かに理にかなっている。
逆に考えると、俺達はずっとオルダムに守られていたのか。
オルダムの目の下を見てみると、うっすらと隈ができていた。それに比べ、ルクスはいい感じに疲労がとれているように見える。
「その、ありがとな。」
「説明くらいいいってことよ。ここで生きていくなら、名無しの場所でのルールってもんが幾つもある。そういったルールは早めに身につけておけ、でないと死ぬぞ。」
「死」。現代日本では全くと言っていいほど現実離れした内容が今の会話には詰まっていた。自分の身は自分で守れる、なんて大層なことを吹いていた時代もあったけれど、ここでは一人で生きてはいけない。
信頼のおける組織みたいなものを作り上げた奴が安定した命を繋げることができるんだ。
それと一つ訂正しておくことがある。
「オルダム、今のありがとうにはもう一つ意味を込めたんだ。昨日から今まで、俺の命を繋げてくれてありがとう。」
そういった矢先に、オルダムとルクスは驚愕の表情を浮かべた。
「お前、呑み込みが早いな。十分にここで生きていける素質があると思うぞ。そこに這いつくばっていやがるガキなんざよりよっぽど賢いな。」
そういえばルクスは殴られてから、倒れこんだままの姿で俺らの話を聞いてたのか。なんでその姿勢のままなんだろう。
あ、痛みと眠さで起き上がりたくても起き上がれないのか。その割には顔をこちらに向けて驚愕した表情だけみせてくるあたり前世は芸人だったのだろうか。
そんな考えを巡らせていると、オルダムの口から信じられない言葉が飛び出した。
「ルクス。お前、男の横に寝て安心でもしたんじゃねぇだろうな。
20歳にもなってねぇ女のお前が生きていくには、自分が女であることを捨てろと何度言ったらわかるんだ!」
え…?
できる限り更新頑張りますが…ためていた分が追い付いてしまいました…