第7話「契約」
今日一日で契約やら儀式が多いような気がする。
そんなことを考えていながら、契約を行うからと呼ばれた。
「どうもお前は挙動不審だな、男ならどっしりと構えていろ。俺の主になるんだからな。」
はい、そのセリフは美少女に言ってもらいたかったです。
そんなこんなで、契約が始まった。俺はまたもや了承するだけでいいらしい。契約とか転生とかで思ったけど、バランスおかしくないか。
着々と準備が進んでいき、オルダムに円の中心へ入るように言われた。
簡素ではあるが、チョークのようなもので、床に幾何学模様を描き、まるで魔法陣のように見える。後から聞いた話だと、これは契約紋といって魔法とは異なるらしい。
オルダムがぶつぶつと何かを唱えていると、一人の少年?が乱入してきた。
「オルダムさん、下がってください。仇はとります!」
声からは性別の判断が難しい。髪はぼさぼさで、もうずっとお風呂に入っていないことがわかる。
ぼさぼさの髪もナイフか何かで切ったんだろう、不揃いで、しっかり洗えばいいのにもったいない。
腰には二振りの短剣が見えた。革の入れ物に包まれていて、全体は見えないが、身だしなみの中でも二振りの短剣だけが歪な煌めきを放っている。
後身長がとても小さい。俺が175㎝くらいなのに対して、少年?は150㎝程度。もしかしたら、他の種族で小さいのかもしれない。ちなみにオルダムは140㎝程度だ。
「ルクス!俺の名を汚すんじゃねぇ!!」
今まで、といっても出会って間もないが、見たこともないような顔で怒りの声をあげたオルダムがそこにはいた。オルダム、めっちゃ怖い。
「…!っで、でも!オルダムさん、その契約…間違ってる!剛腕が、負けるはずないんだ!」
「剛腕」、言いえて妙だな。
確かにオルダムの腕は背丈に似合わず太い。しかも速度まで早いと来たら、そんなイメージもつくだろう。でも剛腕ってあだ名か何かなのだろうか。
乱入されたオルダムは怒っている。多分勝負にケチつけられたくないんだろう、やっぱり紳士だな。顔は怖いけど。
ルクスと呼ばれた少年?は必死に頭を抱えて考え事をしている。
「…んーーー!!!ぼ、僕と勝負しろ!僕が勝ったらオルダムさんとの契約はなしだ!負けたらこの体全部くれてやる!」
なんかややこしくなってきた。
俺個人としては部下なんていらないし、この世界について教えてくれる人が入ればいいだけなんだ。後、人ひとり養うのにどれだけ大変だと思っているん…いや、ニートだった俺が言うのはなんかおかしい気もする。
「断る。」
「っんな!そこは勝負にでてよ!」
「俺のメリットがないしな。俺は情報さえ手に入ればいいんだ。」
少年?は地団太を踏んでオルダムに抗議している。数分のやり取りの後に、オルダムが立ち上がっておもむろに胸ぐらをつかんでいる。
あ、殴った。
痛そう。いい感じのストレートが決まったな、ルクス少年?は動かない。死んだか?
「おーい、生きてるかー。」
「っぅつつつつたたぁぁぁぁぁ!!!!痛い痛い痛い痛いーーーー!!」
うん、あんまりきれいな床ではないけれど、あれだけ転がれる元気があるなら大丈夫だろう。
ひとまず、あの少年?が契約の邪魔をすることはないだろう。オルダムが物理的に抑えてくれたからな。
ルクスという名前からは性別が判断しづらい。ついでに後で聞くことに加えておこう。
ひとまず難は過ぎ去り、契約の続きを行うことにした。
青白い光と共に、オルダムがぶつぶつと呪文らしきことを唱えている。
確かこの契約は口約束のようなものだったはず、こんなにも魔法っぽいことが行われているのにも不思議だが、異世界という認識でそこはカバーした。
「我、戦士オルダムの名において願い申し上げる。戦神アウラよ、我はこの場をもって紋の恩人に忠義を尽くすことを誓う。」
「俺も了承します。」
了承した合図と同時に、青白い光が輝きを強め、部屋一帯を覆った。
眩い光が収束したと思うと、俺の左腕に紋章のようなものが浮かんだ。きっとこれが契約における証拠みたいなものだろう。
紋章は蛇が拳に巻き付いているような何とも言えないような状態で、光ってはいない。やや黒ずんでいるが、群青色を思わせるような色で、白い肌には違和感がある。
「これで契約は二人とも完了した。気楽にしておいてくれ。
それと俺が小僧のことを何て呼べばいいか考えておいてくれ。俺は契約の邪魔をしたガキを懲らしめるのに忙しくなる。
何もないところだが、くつろいでいてくれ。」
ルクス君?ご愁傷さまだな。
俺はそれ以上のことを望んでいないんだが、オルダムは神聖であろう契約を邪魔されたことを根に持っているらしい。
「これからよろしくな、俺の持てるすべてはお前が自由に使うといい。」
「これからよろしく頼みます。」
がっしりと男同士の握手を交わした。オルダムからしたら普通の握手だったんだろうが、俺は骨が折れるかと思うくらい痛かった。
その後、オルダムによるルクス君?への物理的な説教は夜通し続いた。
一日の疲れ…とはいっても夕方に転生してきたんだから、実質半日分の疲れを癒すために気づいたら壁にもたれて眠りかけていた。
「オル………、僕も……男……契や……紋の……いた………。」
「てめぇ!しん……な……命……し……るぞ!」
二人のやり取りは微かに聞こえていたが、睡魔のほうがよっぽど強かったらしい。
こうして、俺には転生一日目にして知り合いが二人できた。
人と話すって久々だから緊張した…
登場人物が少ないですね…ゆっくりと増やしていきいます。