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第25話「ぬくもり」


<side メル>


「俺は!死にたいんだ!誰か殺してくれよ!!!!!!」



旦那様は、確かにそうおっしゃいました。この場所で生活している人は、環境に慣れているので、そう辛くは思わないでしょう。



ですが、食後の雑談を聞く限りでは、この世界よりも遥かに文明が発達している世界から旦那様は来られたように思いました。それでは、あまりにも不憫なことが多すぎるのではないでしょうか。



そう思った私は、旦那様とのやり取りをずっと思い出していました。そこで私は一つの考えに至りました。いつも旦那様は、誰かのために動いていたんです。では、誰が旦那様を支えているのでしょう。



ルクス様でしょうか。

いいえ、いつもルクス様は振り回しています。まだ、支えるというほどの立場ではないでしょう。



オルダム様でしょうか。

いいえ、あくまで知識で助けているだけです。まだ、心の支えには遠く及ばないでしょう。



アリア様でしょうか。

いいえ、アリア様は旦那様の感情の変化に鈍感すぎます。恋愛感情を一枚通してから物事を見てしまっています。



では、私ことメルでしょうか。

いいえ、私が一番遠いでしょう。旦那様に一番深い傷を作っていしまったのは私の死ですから。




では、誰が支えていくのでしょう。それは、誰もいません。


そうなんです、旦那様には仲間はいても、感情のはけ口がいないんです。



私は、説教した手前中々訪ねにくさはありましたが、意を決して旦那様にアプローチを図りました。



旦那様は誰よりも優しすぎるのです。



私はすぐに気づきました。旦那様はもう寝るところだったのに、私が来たから睡眠時間を削ってでも使用人に答えているのだと。そして、私のことは、使用人としてではなく、仲間として捉えていらっしゃるのだとも知りました。



その後はゆっくりと話しました。悟られてしまってはすぐに感情を塞いでしまうでしょう。ゆっくりと、着実に旦那様の心を溶かしていきました。



「死にたい」

たった一言、重過ぎる言葉を吐き出してくださいました。普通、その日に死んだ相手の前では言えない一言です。



やっと、やっと旦那様のお役に立てました。



私は、殴られたり、犯されたりまでされると思っていましたが、杞憂に終わるどころか、もっと深い言葉まで聞かせていただいたのです。




“宗様は、私が支えます”



この言葉が、ただ言いたかったんです。もっと頼ってください、もっと、もっとです。



旦那様。いえ、宗様は泣き疲れたのか、そのまま寝てしまいました。そっとベッドに寝かし、私も横に寝させていただきます。



「宗様、お慕い申し上げております。」



きっとこの言葉は届いていないでしょう。いつかきっと、私にすべてをさらけ出していただけるように、明日から頑張ります。




今日ばかりはアリア様、ルクス様には申し訳ございませんが、不肖ながらメルが、添い寝させていただきます。



では、宗様。お休みなさいませ。

チュッ。…ほっぺで我慢です。






--------------------------------------------------


<side 宗>



目が覚めたら、メルが横で寝ていた。


昨日、確かメルに無茶苦茶に言いまくってしまったような気がする。とっても申し訳ないことをしてしまった…。



メルには感謝しかないな。



「ありがとう、メル。」



そういいながら、俺はメルの頭をそっと撫でた。昨日お風呂に入っていたためか艶々の髪の毛の手触り良くて、いつまでも撫でていたい気分だった。



「っん。」



危ない危ない、メルが起きるところだった。それにしても、この世界では、男女が同じ寝床に入ることに躊躇いがないんだろうか。



ルクスといい、メルといい、少し貞操観念が疎いんじゃないかと心配にもなってしまう。そういえば、ルクスがなんで俺の隣に寝ていたか聞いていなかったかれど、まぁいつか聞くとしよう。



「おはようございます、宗様。」



「あ、メル起きたのか。呼び方変えたの?」



「はい、アリア様に仕えていた時とはお呼び方を変えようと考えておりましたので。ささっ、宗様。すぐに新しいお召し物を持ってきますので待っていてくださいませ。」



「あ、あぁ。ありがとう。」



もう、メルには足を向けて寝れないな。





その後、服を持ってきてくれたメルが、着替えさせたいと融通が利かなかったため、大の大人が着替えさせてもらったのだった。恥ずかしい…。




「朝ごはんにしましょう。」



「そうだね、僕お腹すいちゃった。アリア、ありがとっ。」



「いつまでもいていいのよ、特に旦那様は。」



「おはよう、アリア、ルクス。」



「「おはよう。」ございます。」」



今部下に作らせていますので、席に座って少々お待ちくださいませ、旦那様。」



促されるままに、俺たちは席に着いた。そういえばまだオルダムを見ていないような気がする。



「主、起きていたか。」



「オルダム、おはよう。」



軽く挨拶をすますと、オルダムはすぐに席に着いた。なんだろう、オルダムがとても眠そうに見えるのは気のせいだろうか。



「オルダム、あまり寝れなかったのか?」



「主はよく見ておるのう。そうじゃな、環境が変わってあまり寝れなかったのは事実だが、そう気にするほどのものでもない。」



オルダムが言うのだからきっとそうなのだろう。オルダムは騎士みたいなイメージの男だからな、俺に心配かけさせたくないとでも思ってるんだろう、本当にいい奴だな。



「ところで皆さま、本日の予定はどうしますか?」



「俺のほうから少しいいかな。」



そういったオルダムは俺のほうを向いて、何かを言いたがっているように見えた。オルダムにも様々な予定があるんだろう。まずは聞いてみるとしよう。



「今日は暇をもらいたい。やるべきことができた。」



「それは別に構わないが。ルクス、アリアもそれでいいか?」



そう尋ねると二人は首を縦に振ってくれた。そのまま、オルダムは少し考えるような素振りを見せた後、すぐに話始めた。



「ちょいと馬鹿なガキどもを懲らしめてやらねぇといけなくてよ。なーに、すぐに片づけて帰ってくるさ。ルクス、一応主の周囲から離れるなよ。」



「りょ、了解です。」



よくわからないが、剛腕オルダムだ。そこいらでチンピラでも出たのかもしれない。土地を治めている顔役も大変だな。



「じゃあ、オルダム抜きで食事の後に今後のことを話し合っていこう。」



「感謝する、主よ。」



「いいってことよ。オルダムもなんかあったら言いなよ。」



そうやり取りを終えた瞬間に、料理が届いた。朝から少し量が多いような気もするが、この人数なら何とか食べれるだろう。



「あ!メル、お前は俺の隣に座って一緒に食べてくれ。」



「いえ、使用人が宗様と同じ席など…」



「いいから、ね?」



「はい、ありがとうございます。」



すぐに席を用意して、俺の横に座ってくれた。この世界では、使用人は主と同じ席でご飯を食べないらしいが、そんなことは知ったことか。大切な仲間とは、一緒に食卓を囲うのが俺流だ。



こうして、穏やかすぎる一日の幕開けとなった。


書きためていた分がなくなってしまいました(泣)

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