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第24話「感情の交差」

ブクマ&評価ありがとうございます!


お風呂から俺たちが帰ってくると、アリアが鬼の形相で待っていた。メルはいつも通り…ではなくて、いつも以上に笑顔が眩しすぎた。というか、この部屋の温度下がっていないか?



「旦那様、なぜルクスと一緒にお風呂場から出てきたんですの?」



「旦那様、怒りませんので正確に起きたことをお話ししていただけませんか?」



ふ、二人の視線が痛い。オルダムの殺気よりも強いんじゃないか?



「二人とも近い近い!!」



「旦那様。メルは、心配なのです。この世界に来てそこまで日が経っていない今、女狐に騙されていないかと。」



「私だって心配していますの。もちろん、私の地位を揺るがす人には容赦しませんの。」



とりあえず何を言っているのかよく分からないが、落ち着いてもらった。ルクスはなぜかしてやったりといった顔をしていたが、煽るのはやめてほしい。



とりあえず、風呂場で起きたことを、と言っても普通に髪の毛を洗ったことを伝えた。口々に良かっただの油断ならないだの言っているが、早く俺は休みたい。



「髪の毛を毎回洗ってもらえるように宗にお願いしたんだ。ね、宗。」



ルクスさん、それは余計な一言って言うんですよ!!!!!



「旦那様…!正座です!!」



「は、はい!」



「いいですか?男女で簡単に髪の毛を洗ってはいけません。そういった行為はお付き合いしている男女で行うものです。まして、私のようなメイドがいるんです。旦那様のお手を煩わせるような行為はすべて引き受けますのでご安心してください。そもそも………」



結局、メルの説教は深夜まで続いた。


メル、恐ろしい子…。





深夜のお説教会から解放された後、俺たちは別々の部屋を与えられて寝ることにした。問題の先送り…というほどではないが、昨日も今日も忙しすぎた。



「コンッコンッ。旦那様、起きていますでしょうか。」



この声は、メル様…じゃなかったメルか。さっきまで説教をされていた手前、なんか微妙な気持ちになってしまう。



「あぁ、起きてるよ。」



「失礼します。少しお話をと思いまして…。なぜそんなにおびえていらっしゃるんですか?」



「いえ、滅相もございません。どうぞこちらへ。」



はっ、つい敬語を使ってしまった。また主としての器が足りないとか、上下関係についてとか説教をされるのだろうか。よし、先手必勝だ。


正座して待っていることにした。



「あの…旦那様。説教は終わっていますので、そこまで畏まられるとメルは悲しいです…。」



「ご、ごめん。条件反射みたいなもんだ。気にしないでくれ。」



そういいつつ、足をくずした。残念そうな顔をさせてしまったな…申し訳ないと思う。



「それで?なにかあったのか?」



「いえ、本当にただ少しばかりお話させていただければと思いまして伺ったのですが、もうお休みになられるところでしたか?」



なるほど。今日メルは一度死んだんだ、何か辛い思いがあっても不思議じゃない。ここは主としてしっかりとメンタルケアをしてあげないと。ただ、睡魔に勝てるかは怪しいところだけどな。



「まだ寝ようと思ってなかったし、いいよ。」



「では、お言葉に甘えさせていただきます。」



そういうと、俺の横に腰を下ろした。ベッドの上で、隣には可愛い女の子。普通なら興奮してしまうけれど、今ばかりは親身になって話を聞くところだろう。



「メル、今日はごめんな。その、一度死なせてしまった。」



「いえ、そのことは嬉しく思っているので構いません。」



どういうことだ。死にたいけれど死ねない状況にでもいたとでもうのだろうか。結果的に言えば、俺がアリアの部下であったメルを無条件でもらい受けたという形になるのだけれども、命を代償にした内容では重たすぎる。



ましてや俺は社会不適合者だ。人の感情の理解は苦手だし、妹の凛ですら時折わからないことだってあった。そんな俺が、一度死んだメルの感情なんて理解できるはずがない。



分からないことは素直に聞く。そうして生きていくんだ。みんな、遅かれ早かれ知識は受け継ぐものだからな。



「メル。俺は人の感情を理解することが下手だ。だから、言いたいことははっきりと言ってほしい。」



そう言うと、驚いたような眼をしてくれた。驚いているメル可愛い。いや、そんなことは今思うのは失礼か。



「わかりました。率直に申し上げます。旦那様、あまり無理はしないでください。私では旦那様の苦労は分かりません。ですが、使用人である私は、旦那様の物なんです。せめて、ご友人には言えないことでも、私にはいってください。私は、旦那様が心配です。」



「俺は、無理をしていないよ。いい友人に巡り合えた。今のところ順調に進んでいるさ。メルも生き返って俺は満足してるよ。」



「いいえ、旦那様。旦那様は嘘をついておられます。二日間で何度今までにない緊張を味わいましたか?何度人の死を考えましたか?感情を抱え込んでいないなんてことは無いはずです。無理をなさらないでください。


無礼を承知で申し上げます。私にくらい、本音を語ってください。」



「だから、俺は…無理なんて…し、してない。」



あれ?目から涙が…おかしい、俺はそこまで苦労していないはずだ。俺は、ただ、「アニメみたいな主人公になれなかった」だけなのに。



「旦那様、失礼します。」



メルは俺の頭を胸に埋めてきた。ぎゅっと、ぎゅっと優しく、包み込んでくれた。

今までため込んでいた、感情が一気にあふれてしまいそうになる。

やめてくれ。

俺は、俺は。もう誰かに…



「旦那様、皆さんはお休みになられていますし、部屋も遠いです。いまだけは、頼ってくださいませんか?」



その言葉は、俺の心の鎖をちぎるには充分な言葉だった。



「どこなんだよここ、なんで俺には力がないんだよ、なんで俺だけこんな目に合うんだよ、凛に会いたい、誰も死んでほしくない、なんで、なんで、なんで、なんで…なん、で。

もううんざりなんだよ…こんな世界、嫌なんだよ。楽になりてぇよ…



俺は、






俺は!死にたいんだ!誰か殺してくれよ!!!!!!」





この夜、俺は死を望んだ。





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