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第23話「お約束」


「アリア、風呂に入りたいんだが…昨日も入っていないからって、この世界でお風呂ってどうなってるんだ?」



アリアに聞いてみると、どうやら水魔法と火魔法を使える人物を所持していれば、お風呂自体は可能らしい。


しかし、水魔法自体が希少らしく、中々使い手が見つからないらしい。



「ですが、旦那様。そこにいるメルは水魔法を使えますわ。火魔法は…いませんので薪を使いましょう。


少しメルを借りてもいいのでしたら、お風呂に入れますわ。」



俺は無意識に眼をキラキラさせていたらしい。メルはにっこりと俺と眼を合わせると笑いかけてくれた。



「メル、頼んでもいいか?」



「はい、お任せください。」



その一言でお風呂に入れることが決定した。お風呂と言えば…お約束があるはずだ。一般男性からすれば、お約束はやはり想像してしまうだろう。ごくり。



食事の席のまま、準備に向かったメルを除いて入る順番を決める話になった。オルダムは毛むくじゃらだから、最後という事になりそうなところで、辞退していった。どうも、風呂自体あまり好きではないらしい。



「では、入る順番を考えましょう。旦那様、どの順番に入りたいですか?」



「そうだな…一番風呂は家の持ち主であるアリアだとして。


俺はぬるま湯にゆっくり浸かりたいから、最後がいいかな。」



そう言うとルクスはビクッと体を強張らせたのが見えた。何か不都合でもあるのだろうか。

俺はルクスのことも身内同然に考えている、一日二日の付き合いだが、粗末な扱いはしたくない。



「ルクス、何番目に入りたい?」



「ぼ、僕は…その、汚いから一番最後でいいよ。僕の入った後に誰かはいられるのは嫌…かな。」



普段の元気なルクスからは思いつかないようなか細い声で答えてくれた。もちろん、アリアの一番風呂を狙っていたら考えたが、俺の順番くらいどうってことない。



「いいぞ、ルクス。と言っても、俺に決定権は無いけどな。」



そう言いつつ。ちらりとアリアのほうを見る。すると、目が合ってにこりと微笑んだかと思うと、首を横に振った。



「そんなことはありませんわ。私に決定権があったとしても、全て旦那様にお譲りするつもりでしたもの。ルクスの順番は最後としましょうか。」



「ありがとう、アリア。」



少し恥ずかしそうにしながらも、ルクスはお礼を言っていた。お礼が言えるという事はかなり大事なことだ。それだけで与える印象がかなり変わってくるからな。


妹の凛にも教えてやりたい。



「では、私、旦那様、メル、ルクスという順番でよろしいですわね。」



一同に不満の雰囲気は見られない。お風呂の順番を決め終えたとき、メルが帰ってきた。メルに順番のことを話すと、とても笑顔で「順番的にありがたいです。」と言っていたが、よくわからないな。



メルも使用人時代は一年に一度のみの入浴だったらしく、凄く興奮していることが分かる。

そういえば、メルの容姿もレベルが高いよな。お風呂に入っていないとはいえ、短く切りそろえられた緑の髪色に、髪色と同じ瞳。整った顔立ちをしているから、将来は美人になるだろう。



「どうかしましたか?旦那様。」



いかんいかん、つい顔を見続けていたらしい。それとなく話をそらしつつ、この世界の風呂の常識を聞いたが、現代とそこまで変わらなかった。



ただ、シャワーはやっぱり無いんだな…バケツみたいなものを上につけて、簡易シャワーを付けようと提案したところ、もの凄くもったいない使い方らしいため、瞬時に却下された。



日本人たるもの、シャワーは欲しい…将来に期待しよう。





風呂だ。そう、俺は今風呂にいる。確かに風呂だ。



俺の風呂って理想は、最低限の湯とか考えていたんだが、この世界の水準はさほど高くないらしい。



体はどうやって洗えばいいんだ…風呂場に何もないじゃないか…。



仕方なく、湯船につかって全身を流して出る羽目になった。


おかしい、メルなら「お背中流しましょうか?」くらい行ってくれるものだと思っていたのに。まだまだ俺は甘いらしい。



一応風呂上りにそれとなく聞いてみたが、「この世界では、お風呂は湯船に浸かるだけですので、使用人が一緒に入るという風習はございませんよ、旦那様。」と言われてしまった。



そううまくはいかないか…というか何を期待していたんだ俺は…。




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<side ルクス>


僕にとっては久々のお風呂だ。きちんと宗が出てきたのを確認したから、間違いは起きないね。



さてと…僕の体は傷だらけだ。もし貴族の家に生まれていたらこんな体の痣はなかっただろうけど。



この髪の毛も洗うのか。宗は湯上りに気持ちが良かったとか言っていたけれど、僕はあんまりお風呂が好きじゃない。



だってお風呂に入れる機会なんて次にいつあるかわからないんだ。ここに住んでいる人で定期的に入れない人は、これ以上汚れようがない。


逆に、一度お風呂に入ってしまうと、徐々に汚れていく自分を見ていくほど惨めなものはないだろう。



分かっているさ、アリア達が善意でしてくれていることに。けれど僕はお風呂で汚れはあまり落とさない。惨めな気持ちは抑えておきたいからね。



髪も適当に洗い流してすぐに部屋に戻ったら、宗がいた。まだ、宗いたんだね。



「おい、ルクス。なんで頭しっかりと洗っていないんだよ。」



「説明したくない。」



「…んー、ちょっとついてきて。洗ってやる。」



「い、いいよ///」



なんでこの男は髪ごときで絡んでくるんだろう。


はっ!?もしかして僕の裸が目当てかな…そうだとしたらちょっとうれs…いやいやいや、なんて変態なんだ宗は。これは僕が怒らないといけないところだよね。うん、いけないこといけないこと。



「もちろん服は脱げばいいんだよね?」



僕はそうやっていたずらを仕掛けることにした。いくら僕が男の子っぽくても、宗は女の子としてみてくれてるんだ。きっと性欲の赴くままに脱がすに違いない。



「はっ/////脱ぐんじゃねぇ!!女がそんな簡単に肌を見せるな…そのままでいいから。」



僕は素直に驚いたよ。いくら僕でも、女を捨てた僕でも恥ずかしがってくれるんだ…。



「宗は優しいんだね。」



「どうしたいきなり変なこと言って。頭打ったか?」



「うるさいバカ!」



そういいながらも湯をすくって頭にかけてくれた。根は面倒見がいい性格なんだろうな。


結局洗いたくなかった髪の毛をとてもきれいに洗ってくれた。鏡なんて高級品は流石にお風呂にないけれど、目にかかる髪色を見ても一目瞭然だったよ。



「よし、きれいな色になったな。ルクスは可愛いんだからできる限り綺麗にしてろよ。もったいない。」



「…////」



今まで髪の毛を褒められたことは何回だってあった。けど、あの優しい手に洗われた僕の髪は、今までで一番きれいな色をしていたと思う。



つい、目をそらしてしまった。そんなストレートに言ってくるバカがいるか!とすら思ったよ。



「ね、ねぇ。髪さ、また洗ってくれる?」



できる限り平静を装って言ったつもりだけれど、声が裏返ってしまった。おかしい、なんで僕はこんなにも…。



「なんだ、髪を洗うくらい凛で慣れているからな。いいぞ。」



凛…女の子の名前だ。そうだよね、宗にはきっとお似合いの女の子なんだろうな。でも、向こうの世界にいた子かな。妹の名前だったらいいな。



こうして、たまに髪の毛を洗ってもらう約束をして、僕たちはお風呂場を後にした。







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