第20話「支え」
「目を覚まされましたのですね。」
「ああ。ここまで運んでくれた人にはお礼を言わないとな。それよりも、メルが目を覚ました。クラドールのことを信頼していなかったわけじゃないが、一応報告しとこうと思ってな。」
そういうとおもむろにアリアは俺に近づいてきた。そっと手をとり、爽やかな笑みをこぼしている。
「そんなことよりも、私は旦那様が目覚められた喜びで…下が濡れてしまっていますの。よろしければお情けをいただけませんか?」
この角度、この表情、どれも計算されているかのような態度だ。けれど、これがアリアという人間なんだろう。きっと今までも表情や行動、仕草にも気を使っているんだと理解できる。
「そんなつもりで来たわけじゃない。あと、離れてくれないか。
俺はお願いに来たんだよ。」
「もう…、焦らすのがお好きだなんて…
頭の中にメモしておきますわね。」
そういいつつも、しっかりと離れてくれる当たりは流石だろう。そのまま離れないなら俺は力ずくにでも離れるつもりだったからな。
「お願い、と言いましても大体内容は分かりましてよ。メルを自由にしてほしいとかではなくて?」
この名無しの場所で生きてきたんだ、それくらいは読まれても仕方がないだろう。皆、持ちうる力を使って生きているんだから。
ただ、あまり俺を舐めないでほしい。
「そう、メルに関することだ。けれど少し違うな。メルを自由にすると、お前の部下がいつ殺しに来るかわからないだろう?
だからお願いに来たんだよ。
メルを俺のものにする。
そして、アリアにお願いすることはもう一つ。今後、俺の仲間に危害を加えることは間接的にでも許さない。」
「旦那様、それはお願いではなくて命令ですわ。」
「そうかもしれない。だが、この内容を受け入れてくれるのならば、一度だけ俺がアリアの言うことを聞いてやる。」
俺の責任でメルは死んだんだ。その罪は他の誰でもない俺自身がけじめをつけないと気が済まない。
分かってる、これは俺の免罪のための行動だ。自分で自分を許すための行動だ。けれど、そう思っていても、メルを助けたい気持ちに嘘はない。
自惚れているかもしれないが、アリアは俺のことが好きなはずだ。気持ちを利用するようで気が引けるが、俺への命令権一つと思えば、考えてもらえる材料にはなるだろう。
正直、今の俺には何もない。この体ですら、他の人よりも脆弱だろう。
全てには代償がいる。だからこそ、俺はここで自分自身をかけることにしたんだ。
アリアは分かりやすいほどに興奮していた。
「わかりましたわ。その対価でメルを手放します。ちなみに旦那様がご自身を差し出していなくても、メルは手放すつもりでしたので、そこまで心配しなくてもよろしかったんですのよ。」
「念には念をだ。俺はこの世界、名無しの場所での生き方を知らない。誰かにあまり借りは作りたくないんだよ。」
「その性格は身を滅ぼしますわよ。ですが、流石は私の見込み以上のお方。だからこそ、私はお慕い申しているのでしょうね。」
その時のアリアほど、くったくのない笑顔という言葉が似あう人はいないだろう。
こうして、メルは俺の仲間になった。
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<side ルクス>
僕がお祈りをしているときに、いきなり神様から声をかけられたんだ。
なんでも、一時的の僕の体を貸してほしいらしい。もちろん、お断りした。
確かに神様と話せる機会、体を貸す機会なんて生涯一度もないことが普通だ。けど、条件に納得がいかなかった。
だって、神様が憑依し終えた後、裸になるっていうんだ。確かに僕は女を捨てたけれど、宗には見られたくない。
ふ、深い意味はないんだ!ただ、その、なんというか…
そうこうしているうちに、勝手に神様は「借りるぞ」の一言で強引に憑依してきた。
抗えるはずもなく、すぐに意識を手放したさ。
そして目を開けると、そこにはアリアがいた。
「ルクス!目を覚ましたのね。」
「あぁ、ここは…まだ協会か。アリア、服が欲しいんだけれど…」
仕方がないわねといいつつ、部下の人に服を取りに行かせてくれるあたり、アリアは根がいい人なんだろうね。友人でよかったよ。
「おーい、ルク…っぶへっ!!!」
宗と目が合った。僕は裸だ。ならばすることは一つ。
宗の意識を刈り取るまで!!!一瞬にして身体強化と風魔法を使って宗の顔面にパンチしてやった。
「み、見られたかな…///」
恥ずかしいな…そう思っているとまだ宗が起き上がってくるのが見えた。次こそ意識を奪う!!
宗には申し訳ないけれど、二回目はかなり強めで殴っちゃった。けど、これで何とか意識を刈り取ることに成功できたようだね。
宗が泡吹いて倒れてる今なら…いやいやいや、僕は何をしようっていうのさ!
けど、裸だから誰かから服をはぎ取るのが一番なんだ。そして目の前には倒れている宗。は、恥ずかしいけど、僕だって今の状況は恥ずかしいんだ。
「宗、ごめんね。借りるよ。」
聞こえていないだろうけれど、一応声をかけてから、僕は上着をもらった。何とか一枚の上着で下まで隠れて安心していた時に、アリアの部下の人が返ってきた。
あぁ、僕は服を剥ぐ必要がなかったと気づいたね。
けれど、宗に抱きしめられているようで、この服は安心する。
部下の人から服をもらって、上着以外を全部着た。とりあえず、上着をもらったお返しに、アリアの家まで宗を運ぼうか。
「この服は僕のだ。」
そう呟いた声はきっと誰にも聞こえていないだろう。
ルクスが女の子らしさを出しているようですね…
もちろん本人に自覚はないようですが。