第19話「神様の力」
今回は短めになってしまいました。
“スキル 天秤魔法を取得しました”
俺はいくつもの小説やRPGと触れ合ってきたが、天秤魔法というものに聞き覚えはない。天秤と聞くと、真っ先に思い浮かんでくるのは、重さを量ったりするあの天秤だ。
使い方のよく分からない天秤魔法と、共通言語を手に入れた俺は、はたして強いのだろうか。クラドールがくれたスキルだ。きっと有効な使い道があるんだろう。
「んん…ん。」
「あぁ、目覚めたのねルクス!!」
そうだ、クラドールは薄く消えていたけれど、肝心のルクスは大丈夫なんだろうか…
声からしてアリアがルクスを見つけてくれたようだ。
「おーい、ルク…っぶへっ!!!」
盛大に後ろに吹っ飛ばされた。何があったかよくわからないが、顔の痛みからして殴られたんだろうということだけ分かった。
というかものすごく痛い。
「見るな!!!!!変態!!!」
何とか起き上がった俺は、見てしまった。
「ルクス、お前なんで裸なんだ?」
そう発言したが、最後まで言えたんだろうか…本日二度目の顔面への痛みによって俺は強制的に意識を手放した。
…
………
…………………
「知らない天井だ。これ、一度行ってみたかったんだけどな。」
非常に残念なことに、この世界はテンプレをさせてくれないらしい。見知った嗜好品、見知った部屋。
そう、俺はついさっきまでいたアリアの貴賓室とやらにいた。そういえば、なんで俺は上半身裸なんだろう。
「あっ、お目覚めになられましたか。」
寝起きは美少女の膝枕が良かったな、そんなことを考えていると、横から声が聞こえた。その声の持ち主は、ついさっき、殺されたはずの声で、振り向くのが怖くなった。
「その声、メルか?」
俺は振り向けずにぽつりとつぶやいた。起き上がって、後ろをまだ見れていない俺の背中に、柔らかいものが当たった。
「はい、メルでございます。」
首を横に向けると、そこにはメルがいた。優しく微笑んで、窓からの光と相まって女神のようにすら思えた。
こうして女の子の顔が近くに来るなんてことに慣れていない俺からしたら、いつ暴れだしてもおかしくないだろう。
だってこんなにも可愛いんだから。
理性をぐっとこらえてメルと眼を合わせる。
俺だけに向けられた笑顔に、見惚れてしまった。それと同時に、俺はこの子を間接的に殺してしまったという事実を受け入れていた。
(俺のせいでこの子の人生は狂ってしまったんだ。俺が、一生をかけて償わなければならない。)
「メル、君に伝えたいことがある。」
「はい、なんでしょうか。」
「俺が一生支える。俺は、君の力になりたい。」
「そんな…!!私の失敗を旦那様が責任を感じていたらまた私は死んでしまいます。」
そういいつつも、とても優しい笑顔のままだ。一度命を救ってもらったとはいえ、アリアの命令一つでこの子の命は掻き消える運命にいるんだ。
(俺がなんとかしないと。)
「ちょっとだけ待っていてくれないか。君の主と話をつけてくる。」
そう言い、俺は貴賓室を出た。メルは俺のお願い通り、部屋から出てくる気配はない。
近くを歩いていたメイドを捕まえて、アリアの居場所まで案内してもらうことにした。アリアの部屋は二階にあり、一番奥の大きい扉に案内された。
「ありがとう。ここまででいいよ。」
失礼しますと一言だけ残してメイドはさっていった。やっぱり、メイドや執事たちはどういうわけか俺の命令を淡々とこなしてくれる。
逆に言えばこれだけの人材をそろえるほどにアリアは優秀だということだ。そんな人物に俺は今からお願いをしにいく。簡単に通ってくれたらありがたいんだけどな。
俺はゆっくりと扉を開けた。
「アリア、話がある。」
扉の先には、頬を赤く染めて、もじもじしているアリアが立っていた
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<side アリア>
「私の何がいけなかったんでしょう。」
私は本気で悩んでいます。
旦那様に迷惑をかけたお人形さんを始末しました。
旦那様が回復してほしいと言われたので首を繋げました。
旦那様の世界で死んだ人は生き返るのでしょうか…
私は何も嫌われるようなことはしていないはずです。ですが、先ほどの殺気。無意識の範囲でしょうが、私に向かってきたさ殺気だけ、オルダムさん達への殺気よりも強かったんです。
あれは、潜在的に私を嫌っている何よりの証拠。
私はただあの方の隣にいたいだけですのに…。
……。歩く音が聞こえますわね。誰か来たのかしら。
この気配は…旦那様!
「アリア、話がある。」
あぁ、私の愛しき旦那様。その眼、最高ですわ。何か強い意志を感じますわ。私は、全力をもってこの方を支えたい。
どんな無謀なことだろうと、私の全てを旦那様に捧げます。
たとえ、あの方を裏切ることになろうとも。
気づいたら4万文字以上も書いているんですね。