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第17話「命」



<side アリア>


旦那様と教会でお祈りをしようとした矢先、聞きなれた声が聞こえました。



「アリア様。ご報告が…」



「何?祈りを中断してまで…。急ぎでなかったら首を刎ねるわよ。」



一瞬にして仕事モードに入ります。こういった判断ができない者に待っているのは死のみですからね。


私に声をかけたのは、部隊の一人オル。何かあったのかしら。この子は優秀なお人形さんだけれど、旦那様との貴重な時間を無駄にしたのならいりませんわ。



とりあえず、話だけでも聞いてみましょう。この子が無駄なことを報告するとは思えないもの。



「はっ。実はアリア様がおられない間に、メルが旦那様にお茶をお出ししていました。


そこで、旦那様からのお言葉をいただいたのですが、表情を変え、旦那様に余計な心配をかけていたと推測されます。」



「そう。それで?そのためだけに来たのではないのでしょう?」



「はい。失態とはいえメルはわが妹。そしてここには旦那様もいらっしゃいます。場所は協会。


そう考えれば愚妹の最後には相応しいかと愚かにも提案させていただきます。」



なるほどね。確かに迷惑をかけた旦那様の前で首を刎ねるというのが、一番旦那様は喜ぶと思いますわ。



それにここは協会。


協会では、罪人を処刑した執行人を見届けていただくには絶好の場所ですわね。そうですわ、そうしましょう。


「30秒以内にメルを連れてきなさい。」



「はっ。」





(((((アリアの妄想世界)))))



「旦那様、うちの使用人が迷惑をおかけしました。」



「おぉアリア。仕事が早いな。俺はできる女が大好きだ。」



「ありがとうございます。旦那様。すぐに目の前でこの人形の首を刎ねますわね。」



「あぁ、ありがとう。こいつのせいで俺は不快になったんだ。その不快な要素を取り除いてくれるなんて…アリアは最高の女だよ。」



「まぁ!いけませんわ。ここは協会。

それに、他の人も見ていますの……恥ずかしいですわ。」


「なんなら二人だけの世界を作ってみるか?」



「それはいい考えですわ。オル、私と旦那様以外の人間を全員殺して貴方も自害しなさい。」




……

「ふふっ。これで二人っきりですわね。」



「あぁ、愛してるよアリア。」



「私もですわ。」



「今夜は寝かさないぜ。」


………………

…………

……


(これですわ!!!)



「…ィア様。アリア様。アリア様!」



「ひゃいっ!?」



「どうかなされましたか?


予定通りメルを連れてまいりました。」



私ったらはしたないですわ。妄想中に現実でガッツポーズとかしていませんわよね…。



けれど、そんな妄想が現実になるのですわ。メルもいることだし、皆さんのお祈りが終わってから、刎ねるとしましょう。




<side 宗>


俺は祈った。

どうか、どうか神様の誰でもいいので会話をしてくれと。


願わくばもう少しこの世界について教えてくれと。



かれこれ1分ほど経っただろう。





まっっっっったく神様と会える気がしない。それどころか、ついていた片足がしびれてきた。



まじかよ…ここは王道の展開を予想していたのに裏切られた気分だ。だが、俺は諦めないぞ。もしかしたら回数とか時間が影響するかもしれない。



暇さえあれば協会に通ってみようかな…



そんなこんなで皆のお祈りは終わったらしい。



ルクスは何か泣いているようにも見えるけれど、きっと気のせいだろう。いや、気のせいに決まっている、



「ぇ…でも……ちょっとだけなら………そ、そんな…えぇ…どうしよ……うぅっ…」



神様に会えてうれし泣きしているようにしか見えないが俺は信じないぞ。



「旦那様、ちょっとよろしいですか?」



「どうしたアリア?」



「このお人形さんを覚えていますわよね?」



そういってアリアの部下の人が連れてきたのはさっきお茶をくれた女の子だった。



後ろにいる部下の人は男だろう。鍛え上げられた筋肉が黒装束の隙間から見えている。とても羨ましい。



「そうですわ。先ほどはこの子、メルが不快を与えてしまって申し訳ありませんでした。

飼っている主人としてお詫び申し上げますわ。」



「俺なんか不快になったっけ?」



どうでもいいけれど、この子の名前はメルっていうのか。アリアの部隊の皆ともいつか話してみたいものだ。



「まぁ。このようなお人形さんにまで配慮する器の大きさ、流石は旦那様ですわ。

ですが、お人形さんに気配りは不要ですわ。




オル。」




そういって返事をしたのはさっきの男だ。



オルと呼ばれた男は、何の躊躇もなく女の子、メルの首を刎ねた。



「…ぇ。」



今死んだのはさっきまでお茶を入れてくれていた女の子だ。

俺が不快だと思わせるような態度をとっていたらしい。


たったそれだけで、そんなくだらない理由で人が死んだ。



鮮血が目に入って視界が赤く染まっていく。



あれ?この血…誰の…




「ぅ…ぅぅぅぅわわぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」



ありえないだろ。こんな簡単に…おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。



「い、医者…ち、違う。


きゅ、救急車!!!ルクス!!!!救急車の手配を!!!急げ!!!」



「きゅ、きゅう、きゅ…なんだって?」



首をかしげて何言っているの?とでも言いたげな眼をしている。



そ、そうか…ここは異世界なんだよ、俺は馬鹿か…。けれどもここは異世界だ、「魔法」がある。




「ま、魔法だ!!誰か、この子を回復させてくれ…!!!」




「あらあら、旦那様は死体に興味があっただなんて。オル、首持ってきて。」



「はっ。」



オルと呼ばれた男が、転がっているメルの首を無造作に掴むと、まるでゴミ袋に投げ捨てるかのように放り投げた。



そして、アリアはなんなく首をつかみ取り、元あった場所に置いた。



「光よ、繋げ」



その一言で、切れていた部分がつながっていき、見る見るうちに綺麗な状態に戻っていった。



「よ、よかった。本当に…よかった。」



俺は下に血の海があることも忘れ、無我夢中にメルの下に駆け出して抱えていた。



そうだ、ここは異世界だ。現代では不可能なことでも、可能になるんだ。回復魔法なんてものもある。



よかった、俺のせいで誰かが死ななくて…。もう、誰にも死んでほしくない。





無意識のうちにオルと呼ばれていた男のほうをできうる限り睨みつけた。



俺は、弱い。今ここでオルを殴りに向かっても、返り討ちにあうのは分かっている。だから、これは俺の罪だ。



助けたい人を助けれない、力を持っていない俺自身の罪だ。



絶対に誰も死なせてたまるか。俺の目に見える範囲では、もう誰も死なせない。






「そのようなものが好きなんですの?でしたら、すぐに10人や20人用意いたしますわよ。」



「アリア…いろいろ言いたいことはあるけど、メルを助けてくれてありがとう。」



しかし、アリアの眼には困惑の色が見えた。自分で命令して殺した相手にありがとうだなんて…とでも思っているのだろう。




けれど、次に出てきた発言は俺の想像を超えた言葉だった。








「あら?私は首を繋げただけであって、メルは死んでいますわよ?


第一死んだ人間を生き返らせるなんて無理に決まっていますわ。」







題名の命にはいろいろなとらえ方があるかと思います。

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