第14話「メル」
新しいキャラ…
なぜか疲れ切っているオルダム、怒っているルクス、終始笑顔のアリア、部隊の皆さん、異世界人の俺。
奇妙な図が完成した。
俺は今、このよくわからないメンバーでアリアの家に向かっている。歩いて15分ほどらしいが、隙あらば話を切り出すアリアが立ち止まるため、結局30分以上かかってしまった。
「こちらが私の家でございます。」
屋敷がそこにはあった。他の家が木造建築であるのに対して、家の一部ではあるものの、煉瓦作りになっているだけで、この場所での有力者であることが垣間見えた。
「帰ったわよ。」
「お待ちしておりました、アリア様。そちらの方々は?」
「私の旦那様とそのお連れの方々よ、王や皇帝よりももてなしなさい、これは絶対命令です。」
「はっ。」
いかにも執事です、といった格好の若い男性が出てきた。異世界物では大抵執事は老人で、武勇伝を持ってるイメージがあったけれど崩れたな…
せめて名前くらいはセバスとかでは?と思ってしまうのは俺が悪いわけではない。断じて俺のせいではない。
「紹介しますわね、彼は副執事長のアレックですわ。執事長は今立て込んでいまして、時間が空き次第紹介させていただきますわね。
何かあれば屋敷内にいる使用人を捕まえて命令してくださって結構ですわ。皆、一流のメイド・執事ですから。
何か不満があったら殺してくださって構いませんわよ、足りなくなったらすぐに補充しますので。」
なんだろう、執事長の名前が猛烈に気になる。王道を望んでしまうとやっぱりセバスかな…
それよりもやっぱりアリアは性格のほとんどが完璧であるけれども、人間を人間とみなしていないような気がして仕方がない。
道中、部隊の人たちと俺達との会話の気品さが雲泥の差だった。きっと優先順位を付けているんだろうけど、あまり好きにはなれない性格だな。
「少し席を外しますわ。旦那様方は、貴賓室でお茶を楽しんでいてくださいな。
アレック、旦那様方を貴賓室にお連れしておいて。後、最高級の茶葉でもてなしなさい。少しでも無礼のあったものは頭と体が離れるので皆にそう伝えるように。」
「了解いたしました。」
使用人全体の年齢が低いのは、もしかしたら老人と呼ばれる年齢までに殺されるからなのでは…と思わざるを得ない。
思い返してみれば、部隊の人達は全員10代から20代だったと思う。
そういえばアリアの年齢って何歳なんだ?
「旦那様方、こちらへどうぞ。」
アレックの発言によりとりあえず年齢のことは保留にして、後ろをついていった。
さりげなく旦那様で固定されているのは手遅れなのだろうか…
「ふむ、見事な装飾がされている、いい腕の鍛冶師もいるようだ。」
「僕、アリアの家に入ったことすらなかったよ。」
「お?俺ならあそこはもう少しこだわりをだな…」
「アリアお金持ちなんだなー。」
後ろでぶつぶつと独り言を繰り返す二人を尻目に、俺たちは貴賓室に入った。
中には簡易ながらも無駄がない作りになっており、窓が一つと入口が一つ。いざという時に護衛を配置しやすいような作りになっている。
「粗茶ですが…」
どこからともなく現れたメイド姿の女の子がお茶を注いでくれた。こっちの世界にもお茶を嗜む文化があるのか。
あれ?確かこの子は…
「ねぇ。君、さっき部隊にいた女の子だよね?」
「はい、そうです。いかがなさいましたか?」
「いや、俺たちがの後ろを歩いて来ていたのに、もうメイドとして働いているのか。すごい早業だね。」
「あ、ありがとうございます////」
女の子は頬を赤く染めつつ、気配を消したためどこにいるか判断できなくなった。流石部隊にいるだけあって気配遮断ができるのか。
あれだけの早業をしたんだ、汗をかいているかもしれないし、熱を持っていたのかもしれないな、できる限りほかのメイドや執事に何かあれば頼むとしよう。
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<side メル>
私は暗殺部隊所属のメルです。
そして、メイド見習いでもあります。
一つ年上のオルという兄がいますが、兄とも呼びたくないほど大っ嫌いです。色々理由はありますが、とにかくうざいのです。
アリア様は私達を道具という認識でお使いになるのですが、私は生きていく上では仕方がないと腹をくくり、より長生きできるように日々精進しています。
ただ、兄との連絡役という任務内容を聞かされた時は些か腹が立ちましたけれども、これは内緒です。
そうでした、アリア様が旦那様を連れてきたのです。
あのアリア様が惚れた男性です、さぞや立派な強さを持っている方なのでしょう。もしかしたら立場のために利用しているかとも考えました。
ですが、あのように感情を表に出しているアリア様を見るのは生まれて初めてでしたのできっと本心なのでしょう。
私は部隊の中でも一番の早着替えをできる自信があります。そして、新参者なので訓練という名の名目で、旦那様方の世話係としてお茶をお出しする任務を頂きました。
部隊の方たちは、自分が生き残ることしか考えていません。新参者を虐めるのが唯一のストレス解消なのでしょう。いつもとは違うところに服が置いてあったり、靴が片方だけないなんてことは日常茶飯事です。
初めて旦那様を見たとき、このお方にはどんな強さがあるんでしょうと考えました。お世辞にも武力ではないでしょう。
では変な服を着ているので財力でしょうか?それともオルダム様より前を歩くということは人脈でもすごいのでしょうか…私には旦那様の強さが分かりません。
ですが、そんな誰も気にかけてくれない私は、旦那様の言葉で舞い上がってしまいました。
「ねぇ。君、さっき部隊にいた女の子だよね?」
嘘でしょう…そう思いました。確かに私は部隊にいましたが、一番後ろにひょこっと居ただけにすぎません。
ましてや皆黒装束ですよ…顔なんて眼しか見えていなかったはずです。
それで私だと気づくだなんて…
つい私という存在が他人に認められたことに、嬉しくて頬に熱を帯びるのが分かりました。
ですが、表情に出るということはメイドとして失格です。私は恥ずかしさと申し訳無さから気配遮断をして、大切な旦那様の前から姿を消してしまいました。
分かっています。
姿を消したところは、ほかの部隊の人にも見られていました。
あぁ、私の人生はここまでですか。
最後に旦那様の笑顔を見たかったです。
…
………
「分かっているな、愚妹よ。お前の首はアリア様の前で刎ねる。それまで自室で待機していろ。間違っても逃げて最後まで世話をかけさせるなよ。」
「わかっています、兄さん。」
こうして私の生涯最後はアリア様の前で死ぬことが確定しました。
暗殺部隊も自衛部隊もまとめて部隊と呼んでいます。