第12話「冷酷な女と恋愛に目覚めた女」
アリア…キャラ崩壊
「す!!!!!好きです!!!!!!私を抱いてください!!!!」
…いきなり告白された。誰だこの美少女…というより美女は。
前世で一度も告白されたことがなかった俺からすると、この突拍子もない現実が、何かの策略に思えて仕方がない。
「失礼ですが、貴女は…ん!」
…突然のキス。突拍子すぎて全くついていけない。顔が近すぎて相手の顔がよく見えない。いや、そんなことよりも息が持たない。
「っぷはぁ!し、死ぬかと思った。」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、
アリアーーーーーー!!!!!貴女何してるの!!!!」
「邪魔しないでルクスちゃん、私は生涯仕える旦那様に出会えたというのに無粋よ。
まったく。
ごめんなさい、旦那様。さぁ、もう一度私と愛しのキスを!」
「貴女みたいな美しい人にキスをされることは光栄ですが…
俺は貴女のことを知らない。ルクスと会話しているところから、知り合いなんだろうな程度の認識です。
それに、貴女も俺のことをよく知らないでしょう?」
何とか噛まずに言えた俺を誰か褒めてほしい。ファーストキスは好きな人とすると決めていたのに、まさか転生二日目にして奪われるとは思ってもいなかったのだから。
「そ、そうでしたわね。私ったらはしたない。私の名前はアリア、ただのアリアですわ。
では旦那様、我が家に来てくださりませんか?もちろん、私のすべてをお話ししますわ。」
「なぜ旦那様と呼ばれているかはさておき…
悪いがアリアさん、貴女の提案を受け入れることはできない。
今から、オルダムやルクスと予定があるんだ。
美女と話す機会を棒に振るのは悲しいが、後日改めてというのはどうだろう。」
そう、どんな策略かは知らないが自分の身を策に使うほどの人間だ。何をしてくるかわからない以上、ルクス達からこのアリアという女性に対する情報が欲しい。
「ねぇアリア、僕はまだ納得していないんだけれど。少し話でもしないかい?
後、僕はルクスだ。次にルクスちゃんと呼んだらアリスとはいえ容赦しないよ。」
「あらごめんなさい。ルクスってちゃんと呼ぶわ。ごめんなさいね、ついうっかり。
それよりも旦那様。提案がございます。」
「宗、アリアは冷酷な女だから気を付けてね。公私混同はしないけれど、情報屋の類はみんな信用しても信頼しちゃだめだ。」
そう俺に投げかけてくるルクス。
なるほど、この基地が…女性は情報屋なのか、うかつに異世界人と知られるとまずいかもしれないな。できる限り俺の情報は渡さないように行動しなければ。
「それで、提案って何かな?アリアさん。」
「アリアで構いません。単刀直入にお聞きしますけれど、旦那様は異世界人ですよね?」
なぜばれた…。
おかしい、俺が転生してきたのは昨日の夕方。閉ざされた部屋に転生してきたし、その後家を出ていない。また、俺と出会った後のオルダム達も家から出ていないはずだ。
ここはひとつ、カマをかけてみるか。
「異世界?そんなことがあるはずないじゃないか。おれは宗。苗字もないただの流れ者だよ。」
「あら?嘘をつかなくてもよろしいのですよ。私は神様の魔力を感知したので、慌ててここに駆け付けたんですの。
オルダムさん、ルクスは知り合いですし、旦那様のような髪色は一度見れば忘れるはずはありませんわ。
他の異世界人も同じ黒髪をしているらしいので、すぐに異世界人だとわかりましてよ。」
なるほど、黒髪って珍しいどころかいないのか。だが、今の会話で一つ情報をとれた。
それは、俺以外にも異世界人がいるということだ。この情報は大きい。
「…降参だ。
確かに俺は異世界から来た、だがそれを知ったうえでどうする?」
「簡単なことですわ。私がこの世界のことを教えて差し上げます。
ルクスちゃ…ルクスたちよりもより詳しい情報をもたらすことをお約束しますわ。
提案というのは先ほどのわが家に招待することですの。
普通、質問にはより正確な回答が欲しいものですわ。それに、私は旦那様には嘘はつきません。」
「逆に言えば今までルクスを含めた知り合いに嘘を使っていたってことだよな。そんな人間をすぐに信用しろと?」
俺の中では最大限に声音を低くして、できうる限りのにらみを利かしたつもりだ。得体のしれない行動に、突然の招待。
あまりにも謎が多すぎて今すぐにでもベッドにダイブして寝てしまいたい気分だ。
「まぁ、旦那様は随分と頭の回転が速いのですね。しかもほかの転生者の話をしたら目がわずかに勝ち誇ったように見えましたわ。
情報収集能力や、会話の中からも伝わる性格。
私の見る目に狂いはありませんでしたわ。」
「一人で納得してもらっているところ悪いんだけれども、まだ行くとは決めていないからな。」
とりあえず、ルクスに意見を求めてみよう。さっきも仲良さそう?に話していたし。
「ルクス、どう思う?」
「僕は…不本意ながら提案を受け入れることに賛成だ。
今は完全に私情で動かせる人しか使っていないようだし、多分会いに来たってのも本当だろうね。
ほんっっとうに不本意だけど、僕らよりも質の高い情報も持っている。
私情で動いているなら、少なからず金になるような情報はもらえない分、みんなが知っている常識や、金にならない外での常識も教えてくれるだろうね。
ただ、僕の知っているアリアの態度からはかけ離れていて僕も混乱してるんだよ……
僕も個人的に話をしたいし、ついていってもいいんじゃないかな。」
なるほど、ルクスとは前から知り合いということか。会話の節々からルクスが本当に困惑していることが分かる。
とりあえず、大きな危険はなさそうだし、情報だけもらって帰ってくるという方向性でよさそうだな。
もう一段階、保険をかけておこう。
「提案を受け入れよう。」
「本当ですか!では、旦那様すぐに参りましょう!」
「待ってくれ。一つだけ提案を受け入れてくれたら応じるよ。」
「その内容は何であれ全力をもって答えさせていただきますわ。」
「じゃあ…
オルダムとルクスを連れていくけれど、俺を含む三人が帰りたいといった場合は、無条件で解放すること。
これが受け入れられなければ俺たちはひとまずの信用すらしない。もちろん、暗殺者や索敵できる人間を使って尾行するのも無しだ。」
しばしアリアは考えるそぶりをするとすぐに手を三回叩いた。
どこからともなく現れたのは黒装束に身を包んだ人間たち、その数6人。ルクスが驚いている表情を見るに、気づくことができなかった人間たちということになる。
そして、その黒装束の人間をわざわざ表に出してきた理由は一つしかない。
これは、「信用」を得るために、事前に手の内をさらけ出しますという意思表示だ。
「えぇ、そのようなことでしたら、言うまでもありませんでしたよ。
ルクスは友人ですし、オルダムさんはお得意様、ましてや旦那様に危害を加えるなどという愚か者がいるならば、私自ら殺めているところですわ。」
「念には念をだ。もしこの提案を裏切った場合、武力で死ぬまで抵抗させてもらう。」
「死ぬなんて言わないでくださいませ。私が守ります。
では、参りましょうか。」
「ちょっと待っててくれ。オルダムを呼んでくる。」
「「あっ!」」
これは二人ともオルダムを連れていくというのに、オルダムを呼んでくることを忘れていたな…
まぁ、完璧な人間でなくてよかった…
オルダムの存在感は大きい…はず