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渋谷でのできごと
動画配信者が路上で騒ぎ、それに対して奇声を上げる顔面ファンデーションまみれの若者たち。
洒落込んだ姿で下品な英文の書かれたキャップを真剣に吟味する者。
路上に座り込み群れをなして談笑する者。
付き添いの友人を無視して備え付けの鏡で髪の毛をキメこんでいる者。
全然話が噛み合っていないが成立したかのように会話する者。
この街はそうやってできている。
これが普通でここでの当たり前。
そんな街の錆びれた定食屋から疲れがそのまま顔になったような顔をしたスーツ姿の男が倒れそうに店から出てくる。
彼の名前は染谷。
向かいのクラブで雇われ店長として働いている。
普段ならばそのままクラブに戻るのだが、今日はスクランブル交差点に向かう。
信号機が赤から青になりいっせいに歩く人の群れを誰よりも早く早歩きで駆け抜けて行く。
その方が現在の感情から、恐怖感から早く解放できると思ったから。
ここは渋谷。
今日、染谷は店から6000万を持ち逃げした。