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輝石の騎士  作者: Tandk
第一章 少年期
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第八話 罪と罰

「……どういう、つもりだ?」


 マリーが剣をつけて牽制された少年ーーアルトリオは足を止め訝しげに尋ねる。


「機転を利かせてくれた事には礼を言おう。先程の音と光は魔獣殺しだな? 代金も賠償しよう。礼金も弾む。だからここから去るんだ」


 マリーは警戒を解くこともなく、むしろ不愉快げな表情と共に懐から巾着を取り出し、アルトリオの足元へと放り投げた。

地面へ落ちた巾着の口から、それなりの数の小粒な宝石が覗いている。


 訝しげだったアルトリオは無表情になり、無表情だった少女が少し訝しげに自らの従者を見る。


「マリー、貴女は一体何を」

「お控えくださいませ、お嬢様。身元も不確かな下賤の者をお嬢様の側には置けません。ここは私にお任せ下さい」


 少女が言い切る前に言葉を被せるという、従者としてあるまじき行為をするマリー。

その有無を言わせぬ態度に、少女はマリーを説得するのは難しいと悟り、押し黙ってしまう。


 少女を制する事が出来たマリーが、アルトリオへ通告する。


「行け。納得して欲しいとは思わない。時間も惜しい。去るんだ」


 マリーがアルトリオへ向けている剣を正眼に構え、アルトリオが不審な動きをすれば一足飛びに先制せんと身構える。

魔獣殺しは有効な手立てだったが、それはこの少年が戦闘タイプの精霊外殻では無いことを示す。

万一戦闘が可能な精霊外殻であったとしても、この距離ならばマリーには絶対に先んじられる自信があった。


「ーーどういうつもりかは、分かった。俺も恩知らずに付き合う趣味は無い」


 仮にも元武闘派貴族の嫡子で武芸を幼少より仕込まれてきたのだ。

アルトリオとて、マリーの思惑が分からなぬ程鈍くもないし、公道で魔獣達に馬車が追われている時からの違和感がなんだったのか、これではっきりと分かった。


「じゃあな。お嬢さん」


 アルトリオが馬車の扉から覗ける、マリーがお嬢様と呼ぶ少女へ一言声を掛けた。

この先彼女が遭遇するであろう状況を予想し得たからこそ、せめてもの情けとして。


「下賤の者がお嬢様に声を掛けるな! 無礼者!!」


 ――マリーは頑として態度を崩さなかったが。


「はいはい、じゃあな」


 あからさまなマリーの様子に呆れを通り越して苦笑するアルトリオ。

さっと踵を返して歩みだすと、日も落ちてきた暗闇に溶け込むように、あっという間に姿が見えなくなった。


「――行ったようだな。では、お嬢様。暗闇の中明かりを灯して夜を駈けるのは、平時ならまだしも現状では悪手です。ひとまずここに野営を張りましょう」


 アルトリオの姿が見えなくなっても暫く警戒していたマリーは、彼の気配が完全に消え去ったことを確信すると、漸く構えを解いた。

少女に野営を張ることを伝えると、すぐさま準備に取り掛かった。


 少女は馬車から、きびきびと野営の準備に動くマリーを見つめていた。

そう、野営場に残してきた本来はそうした事が本職の従卒達では無く。

少女と一人脱出したマリーが、滞りなく予定外の筈の野営を準備しているのを。


まるで、こうなる事が予め分かっていたかのように。




 マリーと少女が野営を張った場所と泉を挟んで反対側に、アルトリオは暗闇の中手ごろな岩の上に座っていた。


 野営の準備をしていたマリーが見張りに立ち、少女は恐らく馬車の中で休んでいるのだろう。

あと一、二時間もすれば夜が明ける頃合いの時間、アルトリオはマリー達の様子を伺っていた。


「――そろそろ、か?」


 アルトリオがそろそろ事が起こりそうだと、より注意を深めた瞬間。


「やっぱり、来たか」


 アルトリオが馬車へ南下する様に指示した地点――つまりは西方公道――から、近場でパニックパレードが起きた筈なのに、明かりを夜道の中灯しながら一個小隊ほどの武装した兵士達が現れた。


「分隊じゃなく小隊規模か。これはいよいよだな」


 アルトリオはそう呟くと岩から飛び降り、手持ちの道具を確認する。


「――俺も、酔狂だな」


 準備が出来たアルトリオは、これから自分がやろうとしている事に対して自嘲した。

何故、只のアルトリオとなった筈なのに、すぐに生き様を変えられないのか、と。


「ま、いいさ。最期が人助けなら、今の俺には十分さ」


 その言葉と共に、アルトリオはマリー達の野営場所に向かって歩み始めた。

なるべく夜闇に紛れるようにし、気付かれないように。


評価・感想頂けましたら、リハビリ兼執筆活動に力が入ります!

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