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輝石の騎士  作者: Tandk
第一章 少年期
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第三十三話 『箱庭』六階層・階層守護主(2)

大変お待たせし申し訳ありません。リハビリに専念しておりました。

間隔はまちまちになってしまうかもしれませんが、連載再開させて頂きます。

宜しくお願い致します。

 無星ダンジョン『箱庭』第六階層の階層守護主とアルトリオ達との間で、熾烈な戦闘が繰り広げられていた。


「グルラアァァ!」

「――回刀!」

「グオオオ」


 マッスルジャイアントがアルトリオに右ストレートを放つと、アルトリオは正面から受け流し、相手の力を利用してカウンターをお見舞いする。それだけ聞くと便利な技だが、今回までアルトリオが使用しなかったのには理由がある。それは、相手の質量が自身よりあること、そして技量が上回っていることだ。

 これまでの戦闘の相手ではカウンターのダメージが期待できないこと、そして魔物相手に自らの技量がどの程度なのか、アルトリオ自身が把握できていなかった為である。しかし、今は確かな経験に裏打ちされたため、積極的に使用していこうと決意したのである。


 このアルトリオの回刀はスキルではない。彼が師事している流派の技の一つだ。基本的に戦闘に関連するスキルというのは、戦闘終了後に精霊の啓示にてスキルとして習得する。

 修練により技を高めていたアルトリオならば、この戦闘の後にスキルとして認められることは想像に難くない。


「グウゥオオオオオ!!!」


 アルトリオのカウンターを受けて少し怯んでいたマッスルジャイアントが、身を屈めるようにして力を溜め始めた。その体はマナの光が輝き始め、尋常ではない雰囲気が漂っている。


「まずい、全員防御しろ!」

「ん」

「アルトっち急いで!」


 アルトリオはイリアリアとネフェステスへ防御を固めるように指示を出し、自身はグリーンジャイアントと彼女たちとの中間地点に急ぐ。

 アルトリオが防御姿勢を取ると同時、マッスルジャイアントが溜め込んだ力を爆発させるように解放した。


「オオオオオオオオォォォオオオオオオオォオオ!!!」

「――ぐっ!」

「や」

「きゃっ!」


 マッスルジャイアントが放った力の迸りは、確かな威力を伴って全方位へと解放され、アルトリオ達へと襲い掛かる。

 先頭に立つアルトリオがダメージの大部分を受けるも全ては防ぎきれず、後方のイリアリア達も軽傷だがダメージを負う。


 これは、マッスルジャイアントが一定量のダメージを負うと発動させる、マッシブスタンプと呼ばれるスキル――魔物たちへの精霊の啓示は無いと考えられているため、人が習得するスキルと同一ではないとされている――だ。

 このスキルの効果は使用者の身体能力及び肉体能力の向上、全方位へのマナの爆発解放によるダメージ効果、使用者より低レベル者へのスタン効果だ。

 ダメージはもちろんのことだが、このスタン効果が数多くの新人冒険者の壁となるポイントだ。実力が足りなければ、行動ができなくなり狙われてしまい、場合によっては命を落とす事もあり得る。まさに試練である。


「イリア、ネス。大丈夫か!」

「問題ない」

「こっちは大丈夫! アルトっちは?」

「大丈夫だ、さぁ、続きをやるぞ」

「隙を作る」

「止めは任せて!」


 アルトリオが後ろの二人へ声をかけると、無事を知らせる声が返ってきた。三人ともスタン効果は無かったようだ。

 これからの戦闘は益々激しくなることであろう。只でさえ強靭なマッスルジャイアントが、パワーアップしてしまっているのだから。ただ、行動が変わるわけではないので方針に変更はない。

 アルトリオ達はその後の戦闘も順調に推移させていく。


「抜かるなよ、お前たち……」


 部屋の外から心配そうに歯噛みしながらバースが見守る。このマッスルジャイアントは戦闘が単純な力押しであるが為に、小細工は通用しない。型に嵌れば危険は回避しやすいが、一撃でもまともに食らえば致命的となる。

 無念に散っていった者たちを見届けたこともあるバースにとって、表面上は余裕の態度でアルトリオ達に接していても、内心は不安でいっぱいだ。

 そんな彼だからこそ、受付嬢のサラの親衛隊と自称する変態であっても、ギルドの中で愛されるキャラとなっているのである。


 バースの不安をよそに、アルトリオ達は終盤に向けて攻撃を激しくさせていく。アルトリオがカウンターでヘイトを稼ぐとともに態勢を崩し、イリアリアが隙を広げ、ネフェステスが強烈な一撃を叩き込む。ここにきて、アルトリオ達の連携に磨きが掛かってきていた。


 グリーンジャイアントもただやられている訳ではない。アルトリオを防御の上からでも吹き飛ばし、ダメージを蓄積させていく。隙あらば、そのまま後衛陣に襲い掛かるべく、猛烈な勢いでもって連撃を繰り出す。

 凌ぐアルトリオもまた、極限の集中状態である。大小数多くの傷を負い血もそれなりに失っている。長期戦となれば自分が持たないであろうことは、早い段階で悟っている。

 そのため、攻撃の手を緩めず苛烈に攻め立てるよう二人と連携しているのだ。


 そして遂に、その時が来た。


「一閃!」

「グ、グ、ガァァ」


 膝をついたグリーンジャイアントの延髄を断ち切るべく、アルトリオの渾身の一撃が襲う。体力を消耗した中、イリアリアに行動を制限され、ネフェステスの強烈な一撃によって暫し朦朧としていたグリーンジャイアントは、苦悶の声を上げながら倒れこむ。

 その眼に光が失われ、グリーンジャイアントは光の破片となって消滅した。後に残ったのは、今までで最も大きい里芋ほどの大きさの丸い晶石が一つ。そして、紅く鈍く光る玉が一つであった。


<アルトリオはスキル回刀を会得しました>

<アルトリオはスキル挑発を会得しました>

<イリアリアはスキル妨害効果上昇を会得しました>

<ネフェステスはスキル会心を会得しました>


 こうして、三十分にも及ぶ六階層守護主攻略戦は、幕を閉じたのである。

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