第三十話 『箱庭』・六階層 三戦目
「さて、次はこれまでと違って、手ごわいのが複数相手だ。一発決めれば沈んでくれる奴らじゃねえ。――どうするかは、アルト。分かってるな?」
「もちろんです。リア、ネス。ターゲットと合図は俺が出す。今までの延長だ。いいな」
「うん」
「まっかせなさい!」
部屋に入る前にバースがアルトリオへ念の為確認する。事実、これまでの集団戦はいずれも雑魚相手ばかりだった。
実力が同格に近い者達との集団戦は、これが初めてだ。
アルトリオもまた、何をなすべきかはしっかりと把握できていた。
「じゃあ、行こうか」
リアとネスの準備も終えていることを確認して、アルトリオは部屋に踏み込む。
「――飛閃!」
部屋への突入と同時、アルトリオは先制攻撃を遠距離から放つ。
今放った飛閃は、先ほどのグリーンジャイアント戦で使ったものとは違い、幅が広い形で標的たちに向かって飛んで行った。
同じスキルでも、使用者の意図である程度バリエーションを持たせることが出来るのだ。
アルトリオの飛閃で言えば、グリーンジャイアント戦で使ったのは近距離戦用の威力重視型。
今回はなった幅広タイプのものは、接敵前から注意を引き付ける為の壁役用型。威力よりも注意を惹きつける事を重視している。
「「「キシャアアア」」」
アルトリオの放った飛閃が、この部屋で待ち構えていた者達へと直撃する。
大したダメージは与えられていないが、狙い通りアルトリオに注意を惹きつけられたようだ。
三体ともが、真っ直ぐアルトリオに向かって駆け出した。
アルトリオに向かって駆け出した三体は、両足で立って武装する大きなトカゲの様な魔物――リザードマンウォーリアーであった。
それぞれ、方手斧と盾、両手斧、槍を構えている。
『箱庭』の六階層の中ボスとして現れるリザードマンは、武術の水準が高く生半可な壁役ではすぐに崩されてしまう難敵だ。
また、個体としての能力はそこまで高くないが、連携した攻撃を行ってくる。
壁役がしっかりと支えられる事が出来て初めて、まともな戦闘を行えるようになる。
「来い!」
すぐにアルトリオ達は接敵し、戦闘が始まる。
アルトリオはまず壁役として十分なヘイトを稼ぐべく、回避しつつ三体ともへ攻撃を当てていく。
グリーンジャイアント戦では単体相手での動きをブラッシュアップさせたが、同時に三体相手ともなると流石に反撃の手は薄くなりやすい。
慎重かつ大胆に、アルトリオは気を張り詰めながら壁役としての役目をこなしていた。
「――いいぞ! 両手斧からだ」
「影針」
「Arcane Bolt」
十分なヘイトを稼いだと判断したアルトリオがイリアリアとネフェステスへ合図を送る。
今か今かと構えていた二人は、即座に攻撃をアルトリオの指示に合わせて集中させる。
「キシャ!」
だが、リザードマンとてアルトリオを無視する事ができないとはいえ、横槍を防ぐことは出来る。
狙われた両手斧持ちを庇って、盾持ちがイリアリアが放った影を防ぐ。しかし、イリアリアの一撃を防ぐことは間に合わなかった。
「キュオオ!」
イリアリアの晶霊術が直撃した両手斧持ちは多少怯みはしたものの、引き続きアルトリオを攻め立てる。
リザードマンは体を覆っている鱗が対物・対魔法共に防御力が高く、またタフネスな種族なのだ。
パーティー一の火力を誇るイリアリアの一撃でも、即致命傷とはならなかった。
「その調子だ! どんどんいくぞ」
「わかった」
「く~! 私が決めてやるんだから!」
だが、それらもアルトリオも想定済みだ。だからこそ、継続して火力を一体に集中できるように十分なヘイトを稼いでいるのだから。
イリアリアとネフェステスが、アルトリオが抑えている間に火力を集中させていく。
「グ、グビュオォォォ」
「まず一体! 次は槍持ちだ」
漸く一体が沈むころには、戦闘が開始されてから早十分が経とうとしていた。
リザードマンの耐久力もさることながら、盾持ちがいい働きをしていた。
だが、一体減らすことが出来た以上、アルトリオにも余裕が出来、ヘイトを稼ぐだけでなくダメージを出せるように強烈な反撃を狙う事も可能になっている。
次の標的となった槍持ちは、先ほどの両手斧持ちの時より半分の時間で倒すことが出来た。
残す一体となった盾持ちは言うまでもなくすぐさま打ち取られる。
「やっと、終わったか……」
「私達なら問題ない」
「アルトっち、お疲れ~!」
こうして初めてパーティー戦として長時間の戦闘を終えた訳だが、アルトリオは自身が思ったよりも疲労していることに気付いていた。
この戦いが、今のアルトリオ達のパーティーでの弱点を明確にした。
「やっぱり、回復役がいないのは厳しいものがあるんだな」
そう、パーティーの役割としては基本的に、壁役、近距離・中距離・遠距離の戦闘職の他に、偵察役と回復役がある。
偵察役は無星ダンジョンでは必須という訳ではないが、回復役の重要性は高い。
「どうするかなぁ」
だからこそ、回復役は人気が高く探そうと思っても中々見つからないものだ。
街に帰ったらどうにかしないと、とは思うのだが具体的な解決策はアルトリオも持っていない。
先に待ち構えている問題について、アルトリオは一人ため息をついた。




