第二十九話 オリジナルスキル
グリーンジャイアントを倒して、その場に残されたのは小さな緑色の指輪と、これまた極小の丸い晶石だ。
<アルトリオはスキル飛閃を会得しました>
「良くやったじゃないか、アルト! これでネス嬢がでかいのをかましても、跳ねる事は避けられそうだな」
「そうですね、バースさん。一安心です」
冒険者用語で、跳ねる、というのは壁役より大きくヘイトを稼いでしまった者へ魔物が向かってしまう事だ。
それが前衛職ならまだしも、後衛職だった場合は一大事となる。
アルトリオ達のパーティーが高火力なのは、主にネフェステスのお蔭だ。
只、これまでの戦闘では彼女はここぞという時は力を温存していた。何もそれは消費を抑えていた為ではなく、単に彼女の火力が高すぎて跳ねるリスクが高かったからだ。
元々アルトリオは壁役としての修練を積んできたわけではない。その生まれから騎士型の剣術を学んでいたが、これは人相手の護りの流派だ。
今後冒険者として歩んでいく以上は、壁役としてパーティーを守っていかねばならない。
まずは最低限、壁役としてのスタート地点に立てたというところか。
「じゃあ、私ばんばんやっちゃおうかな~!」
「ネス、はしゃぎすぎ」
「もう、イリアっちはほんとクールなんだから」
ネフェステスはバースがアルトリオを合格と見做したことを受け、テンションアゲアゲだ。
パーティーの花形として最期の幕引きに強力な一撃を見舞うのも楽しかったが、アルトリオとイリアリアに戦闘の大部分を任せてしまっているのは、内心気にしていた事なのだ。
それが、アルトリオの成長と共に解消されるのであれば、より頑張りたい。
内心をみんなに見せる事は無いが、ネフェステスとて初めてのパーティーで、初めての仲間との冒険なのだ。もっと役に立ちたい。
浮かれてしまうのも、仕方がない部分があるだろう。
「ところでアルト、剣閃を飛ばした一撃、スキルとして登録されたようだな」
「はい、バースさん。確かにスキル名が飛閃として登録されていますね」
「初めて聞くスキルだな。おそらくオリジナルか。やるじゃないか」
「ありがとうございます」
何らかのスキルや称号などを獲得した場合、精霊の啓示が聞こえるのだ。それは本人だけでなく、本人と一定以上の信頼関係があるパーティーメンバーにも聞こえる。
アルトリオがスキル飛閃を会得したという啓示も、ここにいる全員が聞こえたようだ。
「オリジナル? なにそれ美味しいの?」
「ネスの嬢ちゃんは姐さんから教わってねぇのか。しゃあねえ。次の部屋までの道中で説明してやるよ」
「むふふ、ありがと!」
バースが言った、オリジナルという言葉に疑問を覚えたネフェステス。
アルトリオとイリアリアは、両者とも勉学が義務づけられていた立場だ。既に知っているようである。
グリーンジャイアントの次の相手へと向かう道もまた、一本道だ。
一行が次の部屋に向かい始めると、早速バースがイリアリアに青空――偽物だが――教室を始める。
「いいか、この世にはスキルと呼ばれる技術体系がある。これには、三通りあるんだ」
バースがイリアリアに話した内容は次の通りだ。
一つ、汎用スキル。何でも練習すれば上達するように、誰でも習得できるスキルだ。家事スキルや剣術とかな。一般的な水準に達すると、スキルとして認められる。
二つ、オリジナルスキル。今まで誰もその行為をスキルまで高めていなかった場合、初めてスキルとして登録される。つまりは開祖だ。
誰かに伝授すると伝授された側は汎用スキルとして扱われる。武術の流派などが典型的な例だな。
只、同じスキルでもオリジナルとそれ以外では効果に差があり、オリジナルの方が強力だ。
三つ、ユニークスキル。同時に二人以上同じスキルを発現する事が出来ないスキルだ。生まれた時から持っているケースが殆どだ。
非常に強力な物が多く、大概は国や教会などの大規模な組織に保護あるいは管理される。
「ほぇ~、なるほど……ん? つまり、アルトが師範に」
「ならねえよ!」
「な~んだ、つまんないの」
理解してネフェステスが想像したのは、アルトリオがオリジナルスキルを伝授する為に同情を開く姿だ。言い切る前に、本人に猛烈に否定されたが。
しかし意外にも、バースがネフェステスの意見に理解を示した。
「だがまあ、実際なところ、弟子にしてくれと言ってくる連中は出てくるだろうな」
「それは勘弁願いたいですね……」
アルトリオも野暮ったい連中に追い掛け回される姿を想像し、元気をなくす。
「だはは、まぁ心配するな! そういう時の為に、ギルドにはオリジナルスキルを公開する仕組みがある。そこへ申請すれば、匿名で公開できる。そうすりゃあ、傍から見たらアルトが汎用なのかオリジナルなのかは判別つかねえだろうさ」
「それは、そうでしょうけども」
「まぁ、公開するのに抵抗があるのは分かるけどな。手の内が読まれやすくなる事だしな。どっちにするかは、お前次第だ。街に戻るまでに考えておけよ」
「えぇ、そうですね……分かりました」
「よし! じゃあお勉強は終わりだ、次の相手だ!」
話がひと段落する頃には、一行は次の部屋へと辿り着いていた。
そこは、この階層では唯一集団戦となる複数の魔物が待ち受ける部屋だった。




