第二十八話 『箱庭』・六階層 中ボス 二戦目
「ゴアアアア」
「――くっ! 速いな」
アルトリオが対峙しているのは五メートルは超す身長の緑色の巨人――グリーンジャイアント。
その身を覆う筋肉に無駄は一切なく、生まれ持った武術は猛威を振るう。
パーティーでも壁役を担うものは、グリーンジャイアントを抑える事が出来るかどうかの試金石と言われる魔物だ。
「アルト、頑張って」
「いっけいけ~!」
現在のアルトリオ達のパーティーでは壁役はアルトリオだ。
その為、イリアリアとネフェステスは、バースに言われて後方からアルトリオの健闘を見守っている。
「これぐらい完璧に一人で抑えられなきゃ、どうせこの先やっていけねぇ。気張れよ、アルト」
罰則として命じられてアルトリオ達を指導しているバースだが、元々兄貴肌な性分である。
我知らず、アルトリオを弟分の様に感じてしまっており、見守るまなざしは真剣だ。
「ふぅ。このままじゃ、埒が明かないか」
一旦グリーンジャイアントから間合いを取るアルトリオがそう呟いた。
戦闘開始から五分経過したが、アルトリオは未だ有効打を与えられていない。
勿論、相手の攻撃は全ていなすか躱すかしている為無傷だ。しかし、壁役として機能するためにはヘイトも稼がないといけない。
味方のダメージソースが強力であればあるほど、壁役の者が稼がなければいけないヘイトも比例して必要となる。
その為には、致命打とはならなくても、相手に強烈な有効打を安定して与えていく必要がある。
今のアルトリオが使えるスキルは、瞬歩と一閃のみ。
瞬歩は相手との間合いを一瞬で詰める移動系スキルだ。攻撃と組み合わせる事で、強力なスキルとなる。
一閃は強烈な一撃を見舞うスキルだが、今回の様に体力と防御力が高い相手では有効打となならない。
あとは補助系の晶霊術が少し使えるが、今回は役に立たない。つまりは、今の手持ちのスキルではアルトリオに決定打が無いのだ。
「――無いのなら、作るまでだ!」
「ガアアァァ」
アルトリオが一直線にグリーンジャイアントに向かい、剣を振りかぶる。
グリーンジャイアントもカウンターを狙うかのように、拳を振るってくる。
「――ここだ! うおおお!」
双方がぶつかる直前、アルトリオは通常の剣の間合いの外で踏込み、剣先が届か無い筈なのに剣を振り下ろした――迫りくる巨大な拳に向けて。
「グ、グガアアア!」
空振りするかの様に見えた太刀筋だったが、何故かグリーンジャイアントの拳に亀裂が入り、その痛さにグリーンジャイアントの動きも止まり、痛みにもだえる。
「よし、上出来だ! もう我慢しなくていいぞ」
それを見たバースがイリアリアとネフェステスに声を掛けると、待ってましたとばかりに二人は追撃をかける。
「影縫い」
よろけているグリーンジャイアントの足が縫いとめられ、体勢を立て直す機会をイリアリアが奪う。
「Arcane Bolt」
「グ、グオオォォ」
体勢を崩したままのグリーンジャイアントに、ネフェステスから鋭い紫色の矢が迸り、大打撃を与える。
「――待たせた。一閃」
崩れ落ちた巨人の延髄を狙い澄ましたアルトリオの一撃が決まり、グリーンジャイアントは断末魔を上げる事も無く地に伏した。




