第二十三話 『箱庭』・五階層
「さて、お前達。ここからが本番だ。手筈通りいけば問題無い筈だ。さて、ここからは俺は最低限の助言しかしねぇ。頑張れよ」
迷宮都市バーズ中心にあるダンジョン『箱庭』の五階層目。
ここからが、パーティーとしての資格があるかどうかを問われる試練場となる。
五階層目に降りたところで、バースがアルトリオ達へ先を促すと、アルトリオがイリアリアに合図した。
「分かりました、バースさん。リア」
「――影反射」
彼女の隣人であるシーアの力を借りて、周囲の影伝いに周辺状況を把握する術だ。
これがあるからこそ、探索時間がかなり短縮が可能となり、イレーネの課題達成の要の一つだ。
「リアっちのその晶霊術、ほんと便利よね! 私、不器用だからリアっち尊敬!」
ネフェステスは晶霊術士としては一線級の実力を持って居るが、それは主に戦闘面に限った話である。
本人が言う通り、戦闘以外での実力はこれからに期待といったところだ。
「アルト、この先の十字路を右。二体」
「了解。じゃあ行こう」
イリアリアがアルトリオへ進行方向と魔物の存在を伝える。
アルトリオはみんなの準備が整っていることを最後に確認すると、先頭に立って進み始めた。
アルトリオの後ろにイリアリア、ネフェステス、距離を置いてバースの順で進む。
「――ミノタウロスとスケルトンソルジャーの組み合わせか。リア、骨を。ネス、俺が抑えたらミノに止めを」
「わかった」
「任せて!」
通路の先をアルトリオが確認すると、そこには三メートルほどのミノタウロスと、片手剣と小盾を装備したスケルトンが居た。
素早く二人に指示を出すと、アルトリオが先手を取るべく構える。
「行くぞ。――瞬歩」
力強く踏み出した一歩が爆発的な加速力を産み、アルトリオをまだアルトリオ達に気付いていないミノタウロスの横手へ一瞬で運ぶ。
「一閃」
『グモォォォォ!!』
「ち、浅いか」
がら空きの脇腹へアルトリオが強力な一撃を浴びせる――が、思ったよりも傷は浅かったらしく、ミノタウロスを激情させるだけとなってしまったようだ。
怒りに燃えるミノタウロスは、手に持つ巨大な棍棒を構えてアルトリオへ対峙した。
「――影縫い」
『カカカ』
アルトリオがミノタウロスへ一撃を加えたと同時、イリアリアはスケルトンソルジャーを足止めしていた。
長く持たせることは出来ないが、ミノタウロスへ火力を集中できる猶予さえあれば十分だ。
『グモー!』
「ちっ、見た目通りのパワーだな!」
ミノタウロスが棍棒をアルトリオへ振り下ろす。
退避が間に合わないと判断したアルトリオは、風切り音をあげて視界一杯に迫る棍棒を剣を斜めに構えて左へ受け流す。
受け流したとはいえ、ミノタウロスの膂力はアルトリオが即座に反撃へ移ることを許さなかった。
そこへ、アルトリオが飛び出す瞬間から詠唱を行っていたネフェステスの晶霊術が発動する。
「――|Arcane bolt!」
ネフェステスがミノタウロスへかざした右手から、紫色に光る一筋の矢が飛び出した。
『グm』
その一撃は寸分の狂いもなくミノタウロスの頭部へ直撃し、跡形もなく吹き飛ばした。
「おぉ、怖えぇ」
それを後ろから見ていたバースは、ポツリとその威力に呆れていた。
「ネス、ナイスだ! 後は任せろ」
「よっろしく~」
頭部を亡くしたミノタウロスが後ろへ倒れこむと同時、アルトリオはスケルトンソルジャーへ向かって駆け出した。
スケルトンソルジャーはイリアリアの晶霊術による影に、身動きが取れずにいた。
「一閃!」
アルトリオの剣がスケルトンソルジャーを上下に分断し、開始数分でこの戦闘は幕引きとなった。
「まぁ、良い滑り出しだな。只、数が三体以上の時を想定しておけよ。晶石を拾うのも忘れずに名」
「了解です。先へ進みます」
バースの論評を背に、魔物達が落とした晶石をアルトリオのミニストレージリングに格納した一行は、更なる先へと進む。




