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輝石の騎士  作者: Tandk
第一章 少年期
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第十六話 冒険者ギルド中央本部

「相変わらずこの階層では晶石は小さいな」

「一階層。仕方ない」


 アルトリオは地面に落ちた晶石の欠片を拾いながら呟いた。

律儀に言葉を返してくれるリアだが、相も変わらず先を急かしてくる。


「一階層は広いが、聞いていた通り魔物が少ないな。すぐに二階層へ行けそうだ」

「早くベッドで寝れる。良い事」

「……ぶれないな、ほんと」


 ミニストレージリングに晶石の欠片を格納すると、アルトリオは再び先へ進みだす。

イリアリアもそれ以上は特に口を開くこともなく、アルトリオの後に続く。


 無星ダンジョン『箱庭』。迷宮都市バーズで登録する冒険者の大半が登竜門として挑むダンジョンだ。

このダンジョンは試練タイプで全10階層。全ての階層が庭園タイプで、フィールドの環境は数あるダンジョンの中でも最も優しい。

『箱庭』を踏破したものは一人前の冒険者と見做され、ギルドで発行するクエストを受けて他のダンジョン等に挑むことが出来るようになる。つまりは、金が多くもらえる。


 ちなみに無星とは、そのダンジョンの特性を表す。各地に点在する『箱庭』と同様の初心者向けダンジョンは無星に分類される。

現在では最大九星まで格付けされており、その基準はダンジョンボスの有無及び強さ、フィールド環境――平原のような見通しがあるのか、火山の様な過酷な場所なのかなど――等、様々な要因により格付けが行われる。

一部、踏破者がいないダンジョンにおける格付けには、推定という但し書きがつくが。


 その後特に魔物と接触する事も無く、アルトリオ達は目的の第二階層へとたどり着く。


「さて、さくっと来たぞ二階層。リア、手ごろな数の奴は居るか?」

「影反射――居る。次の分岐を、右に二体。弱そう」

「了解、まずは小手調べだな。問題なければ、その後は予定通りといこう」

「わかった」


 アルトリオは第二階層に降り立つと、背後にいるイリアリアへ周囲の魔物達の様子を伺う。

イリアリアが行使した影反射という晶霊術は、彼女の隣人であるシーアの力を借りて、周囲の影伝いに周辺状況を把握する術だ。

 精霊石を顕現できず隣人の居ないアルトリオには到底できない芸当だ。彼女がいるからこそ、ダンジョンで日銭を稼ぐことが最短時間で実行可能な手段だったのだ。


「ふむ。情報通り、キャタピラー二匹だな。地上と変わった様子もないが、用心していこう」

「左止める」

「あいよ、じゃ右からやるわ――瞬歩、一閃」

「影縫い」


 イリアリアの指示した方向へ進み通路の先を伺うと、体長五十センチほどはありそうな大きな芋虫が二匹うろついていた。

簡単に打ち合わせを済ませると、アルトリオ達が先制して攻撃した。


 一瞬で二匹のそばに表れたアルトリオは、未だあらぬ方向を向いていた芋虫の一匹を上下に分断した。

その間、もう一匹は影に動きを封じ込められており、動けずにいる。


 一匹を片付けたアルトリオはすぐさま狙いをもう一匹に移し、これも難なく仕留める。

後には晶石の欠片が二つ、地面に残っていた。アルトリオはすぐさまミニストレージリングに晶石の欠片を回収すると、イリアリアに振り返ると言い放つ。


「拍子抜けどころか、問題外だな。まぁこれで飯が食えて寝れるなら良しか」

「ベッドで寝る」

「その為には、確か二十匹程狩れば、十分な晶石が集まるんだったかな? じゃあさくっと、片づけようか」

「次、あっち」


 今日一晩をしのげる目標額を二階層目で稼ぐには、あと十八匹程狩る必要がある。欲を言えば、さらに十匹程は追加で狩っておきたい。

他に得る物がない二人はひたすら芋虫を狩りまくり、二時間ほどで四十匹程狩った段階で無星ダンジョン『箱庭』から引き揚げた。




――迷宮都市バーズ、冒険者ギルド中央本部。


 そこはキオラ自由都市連合において、冒険者を志す者が門戸を叩きに必ず訪れる場所だ。

多種多様な夢や欲望、思惑を持ったこれまた多種多様な種族が集まる場所だけあって、その場所は混沌としている。


 領主館に次ぐ大きさを持つ冒険者ギルド中央本部。一階にある受付フロアは数百人は収容してもなお余裕があるほどの広さがある――筈だった。

円形状のフロア中心にある受付カウンター周辺は特に混雑を極めており、外周部に設置されている売買カウンターや酒場スペースでは喧々錚々たる有様だ。


 少しでも報酬を覆い得ようとする冒険者とギルドの職員が喧嘩腰でやりあう傍ら、素材の査定を巡ってもめる冒険者、ギルドを通さず直接買い取ろうとする欲の張った商人と冒険者の駆け引き、あるいはありきたりな酔っぱらいの一悶着など。

この賑わいこそが、いかに迷宮都市バーズが栄えているかの証左とも言えるかもしれない。


 その受付カウンターにみすぼらしい背格好の少年少女が居れば、注目を浴びやすいのは必然だ。

それが分からない二人では無かったが、不必要な注目を浴びないように対策するにも金という元手がなければ無理だ。

彼らは軍資金を得るために、受付カウンターに来ているのだから。


「おかえり、アルト君。リオちゃん。怪我は無かった?」

「はい、大丈夫です、サラさん。この通り元気ですよ」


 みすぼらしい背格好の少年少女――アルトリオとイリアリアに声を掛けたのは、冒険者ギルドの受付嬢のサラ。

人族の若い女性で物腰もやわらかくかつ容姿も性格も優れている、冒険者達から熱烈な支持を集める受付嬢の一人だ。

 

 サラは、半日ほど前に鬼気迫る表情で、冒険者で金を稼ぐ方法はないかと迫ってきた少年と少女が、無事に帰ってきたことにホッとしていた。


「なら良かったわ。それにしても、戻ってくるのが早かったわね。ダンジョンには行かなかったの?」


 少年少女に教えた目標額を集めるには、いくら無星ダンジョンとはいえ『箱庭』の二階層の魔物が弱いとは言え――いや、弱いからこそ、普通なら半日で終えることなどできない。

だからサラは二人が途中で諦めたか、そもそもダンジョンは諦めて別口で稼いできたのかと思ったのだが。


「いえ、順調に集まりましたよ。どこに晶石持っていけばいいですか?」

「――え? 本当に半日で集めたの? キャタピラー二十匹分を二人だけで?」


 サラの耳には信じがたい言葉が返ってきた。思わず問い返すが――


「そうですよ? で、何処ですか?」


 事も無げにそう返す少年に、普段動揺などしないサラは束の間呆然としてしまった。

少年の隣にいる少女も、そんなことはいいからさっさとしろと、目で訴えている。

この二人は本気で半日で目標を達成して帰ってきたのだと、感情はともかく理解はできた。


 しかしサラが買い取りカウンターを少年へ案内しようと再起動する前に、事態は動いてしまった。

周囲から浮いている少年少女を注目していた一部の者達は、当然会話も聞いていたし、滅多に見たことのないサラの動揺も目にした。

彼らからすればそれは到底無視できる事ではなく――


「おい、待て坊主。盗品を堂々と持ち込んでサラさんを困らせるたぁ、どういうこった!」


――アルトリオ達の横合いから、野太い声と共に厳ついお兄様方が近づいて来て、サラがとりなす前に二人を取り囲んだ。


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