第十五話 初めてのダンジョン
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庭園風の風景が広がる無星ダンジョン『箱庭』の一階層目。アルトリオとイリアリアは初ダンジョンでの初戦闘を終えて先へと進んでいた。
「なぁ、リア」
「何?」
「今更だけど、その武装型精霊石――レイピア、使えるの?」
「何故?」
「いや、だって……ここに来るまでの道中も、晶霊術しか見たことないぞ?」
「――そう?」
「あぁ、絶対だ」
アルトリオの素朴な疑問に、イリアリアが首を傾げる。何せ、武装型精霊石を持つイリアリアの戦闘方法は、基本的に晶霊術による後衛タイプなのだ。
射程距離の短い術を多用する事がおおいから中衛ともいえるかもしれないが、実際にレイピアで攻撃したのを見たことはない。
この『箱庭』があるキオラ自由都市連合迷宮都市バーズに至る道中も含めて、一度もだ。
「自分の身は護れる」
「心得はあるんだな。護身剣術ということか?」
仮にもイリアリアは元皇女様だ。護身用に剣術をたしなんでは居た為に攻撃に回るのは難しい――という理由なら、アルトリオはすんなり納得できる。
「違う。汚い」
「……おい、まさか」
だが、違った。
アルトリオはまさかとは思ったが、念の為に確認する。
「まさか、斬るとレイピアが汚れるから、か?」
「そう。シーアが可哀想」
「そ、そうか……」
アルトリオはやや顔が引きつった。この少女は武装型精霊石を通して隣人となった精霊、シーアを汚すような気がするから。というあんまりな理由だった。
「ま、まぁ、隣人は大切にしろ。とは良く言う話だもんな」
「ん。アルト、頑張れ」
「……はぁ。任されたよ」
隣人を得られなかったアルトリオには実感が湧かないが、隣人を大切に想う気持ちは立派なことだ。
それに、イリアリアと精霊がより通じ合う事は、晶霊術や彼女の精霊外殻の強化にも繋がり、結果的には戦力も増強する――筈だ。
結果、これからもイリアリアが足止めしアルトリオが止めを刺す手順が、彼らの基本戦術となった。
「でもまぁ、ダンジョンとは言ってもあんまり外の魔物と強さは変わらんな」
「まだ、一階層。先は分からない」
「それもまぁ、そうだが。気張ってただけにちょっと拍子抜けだ」
「ならペースあげて進む。今日こそベッドで寝る」
「はいはい」
仮にも武闘派の家で育ったアルトリオは多少ながらも戦闘狂な一面がある。
初心者冒険者向けのダンジョンとはいえ、もう少し歯応えがあるかと思っていただけに、先ほどのアロースネークは期待外れだった。
戦闘に楽しみなど覚えていないイリアリアは、一月ぶりの暖かいベッドで寝る事だけを考えていた。
ここに至るまでの道中、念には念を入れての森越え山越えを行って来ただけに、もう野宿はお腹いっぱいだ。
長旅で路銀が底をついた二人は、迷宮都市バーズに着くと同時にダンジョンで日銭を稼がないと、泊まる宿どころか一食にもありつけない有様なのだから。
一月も身体を清められていないのだ。いくらイリアリアが多くの事に無関心だとしても、女をやめては居ない。
「でも不思議だよな。同じ魔物でも外だと死体がすぐに腐敗するのに、ダンジョンだとドロップがある。しかも貴重な晶石を落とす何てな。欠片だけど」
「神秘。でも、ご飯とベッドになるなら何でもいい」
「……もう誰がリアを見ても、姫様とは思わないだろうな」
この世界アラジアに存在するダンジョンは、二つの種類が存在するとされている。
一つは、かつては実在したという神や、単体で顕現できるほど強大な精霊が試練の為に残したといわれる試練の塔。
もう一つは、かつて人々が精霊の力を借りて魔を払ったとき、残った魔の者達が隠れ潜んだ場所とされている迷宮。
どちらのダンジョンにも共通で言える事は、実力に見合った財宝や魔物達などの素材などが得られる事だ。
逆に言えば、実力が無ければ何も得られない、という事なのだが。
二人の居るダンジョンは前者に属し、全十階層からなる初心者向けのダンジョンと言われている。
腕に覚えがあるならそれなりに報酬を得られる事から、このダンジョンを中心とした都市が形成され、現在の迷宮都市バーズとなっている。
アルトリオが疑問に思っているのは、ダンジョンから得られる素材の内、魔物達が落とす素材の事だ。
通常、地上で魔物を倒してもすぐに魔の力により形成されていた肉体は腐り落ちてしまい、何も得る事などない。
ところが、ダンジョンで魔物を倒すとその魔物の特徴である部位が素材として残り、魔の強さに応じたサイズの晶石――弱い魔物だと欠片ほど――が落ちるのだ。
これには諸説あるが、精霊歴が五千年を過ぎて人類が繁栄を迎えていても、原因究明には至っていない。
尤も、イリアリアにとってはそんな事はどうでも良く、アルトリオを先へ先へと急かしている。
どう見ても、そのぼろぼろになった身なりと言動でお姫様に等見えない。
「ギルドで聞いた限りだと、二階なら今日の宿代にはなるんだ。焦らず行こうぜ」
「時間は有限。でもアルトがそういうなら我慢する。今は」
「はは、今は、それでいいさ。ほら、次が来そうだぞ」
アルトリオの忠告には素直に従うイリアリア。彼の状況判断力があるからこそ、今の二人があるのだ。
これまでの実績から、アルトリオの事は信じ切っている。今はまだ、我慢できる。
二人の会話が落ち着くころを見計らってかはわからないが、新手の魔物が進行方向に現れていた。
数は一、既知の魔物。侮りはしないが、不必要に警戒する事も無い。
二人は目を合わせると、同時に魔物へ向かって駆け出した。