(9)エラのお父さんが再婚しました。
『エラ~!エラいるかい?』
『…どうしたの?』
磨いていたボールを咄嗟にテーブルの下に隠す。
この前ヘッポコ神からこっそり拝借したんだ。
ヘッポコだから気付いてないらしい。
『ちょっと紹介したい人がいるんだ。入って』
促されて3人の女が入ってきた。
『トレメインさんに、アナスタシアにドリゼラだ』
『初めまして、あなたがエラね』
『アナスタシアです。ご機嫌よう』
『ドリゼラです。初めまして』
『…はぁ。どうも』
…すっげぇキツい顔してんな~
俺の経験上、絶対性格悪いな!
『で?どうしたのこの人達』
『まぁ…!』
『このトレメインさんと結婚するんだ。アナスタシアとドリゼラは、エラの新しいお姉さんになるんだよ』
『…へぇ』
流れる沈黙。
『…えぇぇぇぇっ?!ま、マジ?!じゃなくて本気なのお父さん!』
『あぁ。今日から新しい家族だ』
嬉しそうに笑う父親。
あんなに綺麗で可愛い奥さんを持ってたのに、次はこんなんでいいのか?!
守備範囲広すぎだぞ!
誰がどう見ても野獣とイケメンだぞ?
もっと自己評価あげろよ親父!
『エラ?』
『…あぁ、ごめんなさい。本当に本当なの?』
『あぁ。もう家族だから、遠慮は要らないよ?沢山甘えなさい。ね、トレメインさん』
『えぇ。エラちゃん。本当のお母さんだと思って、存分に甘えてちょうだい』
光子かな?
光子よりキツそうだな。
『さぁ、アナスタシアとドリゼラの部屋を案内しよう。こちらへ』
『はい、お父様』
3人は、親父についてすごすごと部屋を出ていく。
って、おい!
アナ…?とドリアンだっけ?
鼻でふんって笑いやがったぞ!
お前らの方が顔も性格も面白いけどな!
なんで俺が笑われないといけないんだ?
…まぁいっか。
とりあえずボール磨こ。
◇ ◇ ◇ ◇
『エラ様!』
慌てた様子でレイチェルが部屋へ駆け込んで来た。
再婚して2週間。
親父の乗った船が沈没した。
突然俺は、見ず知らずの女達と暮らす事になった。
いや、待てよ。
父親も母親もよく考えたら見ず知らずだったな~
まぁ、どうにかなるか
とか思ってたら、急にトレインだっけ?
ニュー母親が『金がない』とか言い出して、家にいたお手伝いさんを全員辞めさせやがった。
立て続けに、俺の持ってたドレスとか宝石
ぜーんぶアナとドリアンが持っていきやがった。
トレインが『今日からあんたがお手伝いさんよ』とか言って、お手伝いさんの着てた服を持ってきやがった。
マジでいらっときた俺は、裁判所に駆け込んだ。
『コラーーーー』
『うおっ、なんだよまたお前か!今俺は忙しいの』
ヘッポコ神を手で避ける。
『いやいやいや、神様の扱い方、ね?知らない?』
『知らん。どけ』
『違う違う!裁判すんな!』
『…なんでだよ。俺は親父の血の繋がった正統な後継者だろ?なのに俺が小間使いになるのはおかしいだろ?』
『…うむ。おかしいのぅ』
『だろ?この時代の裁判とかよくわからんけどさ。とりあえず訴えないとな!』
『ちがーう!だーかーらー!シンデレラは裁判しないのっ!働くの!』
『どこで?』
『おうちで!』
『お手伝いさんやんの?』
『その通りじゃ!』
『…頭悪くね?シンデレラ。俺だって悪いほうだけどよ。シンデレラ異常じゃね?』
『異常じゃないの!そうしないと話が続かないの!もうっ』
地団駄を踏む神。
『…なんかオッサン。キャラ変わってきてない?』
『誰のせいだと…思っとるんじゃ!ったく』
疲れたように座り込むヘッポコ神。
『はぁ…。とりあえず、シンデレラは家事を頑張るんじゃ。その線でよろしく頼むよ』
『エラ~。神様を困らせちゃイカンぞ』
『そうよ?とりあえず家へ帰って♪』
振り向くと
死んだ父親と母親が
仲良く腕組んでやがる。
『…何してんの?』
『久しぶりの再会でウキウキしてるの~♪』
父親にぎゅっとしがみつく母親。
『いやぁ~エルは死んでも綺麗だな』
『もうっ♪あなたこそ、死んでも格好いいわ♪』
『おいおい、よしてくれよ。成仏したくなくなるだろ?』
『あ、でもさ、2人で一緒に成仏して、また生まれ変わって一緒になるのも。素敵じゃない?』
『お、それもいいな♪今度は先に逝かないでくれよ~。寂しくて死にそうだったぞ』
『あら!死んじゃったく・せ・に♪』
『お。そうだったな~!』
アハハハハと笑い合う。
のーんーきー
再婚したこととか突っ込まないのか?
お花畑夫婦め。
『あ、神様。そういう事でそろそろ私達成仏したいかも』
『また同じ時代にお願いしますね』
『しょうがないのぅ。ところでワシ、今欲しい物があっての~?』
『あら、お金なら少し持ってますわ』
『これが欲しいんじゃよ~』
ヘッポコ神はタブレットを取り出し、2人に何かを見せている。
『わぁお♪素敵~』
『でもこれは高いんじゃないですか?』
『いやいやいや、君たちの持ってるお金で足りるんじゃよ?』
『ハハハ。神様も意外と欲深い』
『地獄の沙汰も金次第って言うじゃろ?』
『あら、ここは天国でしょ?』
『そうじゃったのぅ』
アハハハハ
うふふ
ふぉっふぉっ
笑い合いながらどこかへ去って行く3人。
…っおい!
俺を家に連れ帰らなくていいのかよ!
◇ ◇ ◇ ◇
『ある時、シンデレラのお父さんは、新しいお母さんと再婚しました。この継母には、二人の娘がいました』
『アナスタシアとドリゼラよね!』
『アナとドリアンです』
『えっ!?』
『そんなある日、お父さんが事故で亡くなってしまいました。すると、トレインは本性を出し、エラをお手伝いさんの様にこき使おうとしましたが、エラは怒って裁判所に駆け込みました』
『裁判所?!』
『しかし、間一髪の所でアナとドリアンがエラを連れ戻しました』
『…名前も変だし…色々変』
美月は頭が痛くなってきました。