(8)ある時エラの母親が亡くなってしまいました。
『…エル…なぜ?』
ずっと体調を崩していた母親が死んだ。
なんだろう。
本物の母親じゃないけど
本当の母親な訳で。
俺の出来の悪い頭じゃ、この不思議な感情を表現出来ない。
ただ、埋葬が終わっても
墓から離れられない親父の後ろ姿は
悲惨だ。
元々体は弱かったらしい。
そこにきて変わってしまったエラの姿(まぁ俺ね)に心を痛め
弱り目に祟り目で流行り病にかかった。
あっという間だった。
亡くなる直前、母親は俺を枕元に呼び
『いつでも心に笑顔を』
とだけ言った。
父親はしばらく立てそうにない。側にはレイチェルが付いてくれている。
俺は説明できない気持ちを紛らわしたくて
少し離れた木陰で佇んでいた。
帰ろうかな…と思っていると
突然トントンと肩を叩かれる。
驚いて振り返ると
…居やがった。
空気の読めないひげ面が。
『…なんだよ?』
『ヤッホー』
『…お前、友達いないだろ?』
『うん、神様にお前は良くないぞ?友達いるぞ?』
『…今さ、母親の葬式終わったばっかりなんだよ。お前の顔なんて見てる場合じゃないの』
『うん、うん。で、どんな気持ち?』
『はぁ?!』
『だって本物の母親じゃないけど、母親として一緒に過ごしたじゃろ~?どんな気持ちかな~って』
『…お前やっぱり友達いないな。絶対いない』
『じゃから、おる言うてるじゃろ。あと神様と言いなさい、ね?』
『…なんかさ、不思議な気持ちだよ。悪かったな~と思う』
『何がじゃ?』
『…いやさ。こんな早く死ぬって解ってたらさ。もっと、可愛らしい理想の娘を演じてやれば良かったな~って』
『ほぅほぅ。意外と良い心掛けじゃのぅ』
『意外と、が余計』
『お前さんの本物の母親も、お前さんが先に死んだと知ったら悲しむのぅ~』
…そうだ。忘れてた。
親孝行なんてやった記憶ないぞ。
幼稚園ぐらいの時には、母の日にプレゼントなんてあげた様な気もするけど…
『…ちゃんと生き返らせてくれるんだよな!?』
思わずヘッポコ神の胸ぐらを掴む。
『わーってる!わかってるから、ね?止めなさいこらっ…ゲホゲホ』
『…で、それ聞きにきただけ?』
『あぁ~違う違う。ちゃんと訳があるんじゃ』
服をパンパン叩きながら
『どうぞ~』
木陰へ手を伸ばすヘッポコ神。すると…
『どうも~♪』
『ぶっ!お、お母さん?!』
たった今葬式が終わったばかりの、シンデレラの母親が立っていた。
『来ちゃった~♪』
『ど、どういう事?!』
『あ~まぁ、悲しんどるかな~?と思ってのぅ』
礼はいらんよ~と言いながらも、照れ隠しに頭掻いてやがる。
『聞いたわよ!あなた、エラじゃなかったのね!』
『ぶっ!』
『まぁ、話しといた』
『いっ、いいのか?』
『いいんじゃない?私死んじゃってるし♪』
『の~ぅ』
『ねぇ~』
波長が合うらしい。
溜め息しか出ねぇ。
『…てか、なんかさ色々ツッコミたいんだけどさ。時間軸の事とかさ』
『あ~難しい事はワシにはわからんわからん。テキトーにやれば何とかなるのがワシら神じゃから』
すっごいドヤ顔だけどさ。
それで俺は迷惑被ってるんですが?
『…シンデレラの母ちゃんの魂連れてこれるって事はさ、もしかして本物のシンデレラの魂も連れてこれるのか?』
『来れるぞ?』
『マジ?』
『会いたいかの?』
『いや…う~ん…』
『まぁ、こんな奴が自分の中に入ってるって知ったら、シンデレラちゃんがショック死するからの~ふぉっふぉっ』
『あー言えてるわ!私もショック死したし!』
『お主は病気じゃろ?』
『そうだったわ~アハハ』
『面白いの~ふぉっふぉっ』
…面白いか?
天国ジョーク?
てか、シンデレラすでに死んでるのにもう一回ショック死するか!ボケ!
色々と疑問符が増えたが、まず俺がシンデレラになってる事すらおかしいからな。
この世界は、おかしな事の連続で出来てるんだ。
間違いない。
だからもう気にしないでおこう。
墓の前でうずくまる親父に
いないいないばあ~とかしてるけど
…それはダメだろ!
空気読め!
◇ ◇ ◇
『ある時、シンデレラのお母さんが病気で死んでしまいました。悲しむシンデレラを見て、お父さんは新しいお母さんを見つけてきました』
『…うん、おかしくないね』
『え~?まだ言ってるの?美月ったら』
『ごめんなさいママ。続き読んで!』
『はいはい』
美月は嬉しそうに
お母さんの肩にくっついた。