(7)エラは怒られてしまいました。
トントン
あー…
いつの時代も、怒られる為にノックするドアってしんどいなぁ~…
『エラです』
『…入りなさい』
優しい人が怒ると怖いよなぁ
『…失礼します』
部屋へ入ると、眉根を寄せ、見たこともない形相で親父が書類にサインをしていた。
『…エラ』
立ちすくむ俺に目をやると、一瞬優しく微笑む。
ホッとしたのも束の間、親父はまた鬼の形相に。
少し俺に近付くと
『…君は。エラだよね?』
いきなり核心ついてキターーー!
『…も、もちろんよ!お、お父さんッッッ』
我ながらドギマギしてんなぁ~
『…はは。当たり前な事を聞いてしまったね』
親父は頭を掻きながら
椅子の背もたれに寄りかかる。
『エラ。元気がいいのは良い事だけどね。…その、なんだ。男の子と一緒に遊びすぎて、女の子の言葉も忘れてるみたいだね』
真剣に話す親父。
その後ろに
見たことあるひげ面…
書斎の後ろの壁からニョキニョキって!
完全に生えてるぞ
笑顔で手振ってる場合か!
あのおっちょこちょいの
神やないかーーーい!
『…エラ?聞いてるか?』
『あ、うん。ごめんなさい!聞いてる』
『最近の君の言葉使いとかね、行動とか…そういうのを見てエルが傷付いてるんだよ…』
親父の後ろで呑気に水飲んでやがる。
あ!ペットボトルじゃん!
さてはまた蔵天で買いやがったな~
俺の方をチラチラ見ながら
背中から…
グローーーブ!!!
ミスノのグローブ!
うわぁ~あのヤロー!
ふぅ~ってやりながら磨いてやがる!
俺の今一番欲しい物を…
『…エラ?』
『うん、それで?』
『…まぁ、エルも心配してることだし』
…あいつ、スマホで電話してるな…
あ!
天使キターーー!
バット持ってキターーー!
『あっ!』
『…?エラ?』
慌てて口を押さえる。
『ご、ごめんなさいお父さん。大丈夫だから』
『…そうか。何か気になる事でも?』
親父が後ろを振り返る。
バレる!
思わず肩をすくめ、体に力が入る。
…あれ?
無反応?
親父の視線の先では完全に、あのヘッポコ神が呑気に鼻くそほじってるけど。
親父には見えてないみたいだ。
また俺の方を向くと、深くて長い溜め息を漏らす。
『本当に最近おかしいぞ?エラ。母さんがお前を心配してるのも良く解る…』
親父がこちらを向いたと同時に、神がよっこらしょと立ち上がり、天使にボールを投げる。
スコーン!と、いい振りで打ち返す。
ホームラン!
…って言ってる場合か!
あ、あいつら…
完全に嫌がらせだな
『解ったか?とりあえず、言葉使いだけでも治しなさい』
『…はい、お父さん。気を付けます』
俺のしゅんとした顔を見ると、ゆっくり近付き、優しく頭を撫でてくれる。
『…エラは私達の宝だよ。さぁ、レイチェルにもキチンと謝ってきなさい』
『…はい。行ってきます』
スゴスゴと書斎を出る。
ヘッポコ神と天使が
俺に付いてきながら
壁から顔を出して
野球してやがる。
俺は自分の部屋へ入ると
たまらず
『どういうつもりだコラーーー!』
天使は手なんか振りながらどっかへ消えやがった。
『どういうつもりって…。それはこっちのセリフじゃわい』
『なんだよ?どういう意味だよ』
『お主はシンデレラをどうするつもりじゃ』
『どうするつもりって、生きてやってんだろ?!』
『危うく、野球の創始者としてウェキペデアにも載るところじゃ』
『はぁ?!』
『お主は、シンデレラが野球の祖とか聞いた事ないじゃろ?お主のせいで、シンデレラの物語が変わってきとるんじゃ』
『…そうなの?』
『そうじゃ。じゃから野球はやめい。ドアホ』
『…だって暇なんだよ…やることないしよ』
『う~ん確かにのぅ。…じゃあ何か、道具を貸してやろう』
神はあの、蔵天で買った杖をパカッと開け、中から白くて薄いポケットを取り出した。
『も、もしかしてコレ…!』
期待の眼差し。
『お、知っておるか?四次元風ポケットじゃ!』
『四次元風…?』
『蔵天一位じゃ~』
そう言い残し、ヘッポコ神はすぅと消えやがった。
『何に使えと?!』
◇ ◇ ◇
『エラは、野球のルールを作り、毎日男の子と野球に明け暮れていました』
『え!?』
『え!?何?どうしたの?美月』
『野球って…やっぱりおかしくない?』
『そう?シンデレラが作ったなんてスゴいわね~』
微笑む母とは対照的に
美月は納得がいかない顔をしていた。