(4)神様は日付感覚のない人?でした。
竹田美月ちゃんという子がいてな。急性リンパ性白血病とか言っとったかのぅ。
とにかく難しい病気でな。いつも本当に苦しんでおった。
でも、いつも前向きで優しくて明るくて。良い子なんじゃ。
ある時な、この子が熱心に神様~!神様~!言っとる声が聞こえたんじゃ。どうしたんじゃろ?と見に行ったのが初めての出逢いじゃった。
力なく項垂れるオッサンを、何故かとんとんと肩を叩き励ます俺。
マジ優しい。
するとオッサンが、ポツポツ話し始めた。
『美月ちゃんはな、シンデレラになりたいです!どうか生まれ変わったらシンデレラにしてください!って、一生懸命にお祈りしておった』
『それで?』
『お母さんがいつも、絵本のシンデレラを読んであげとったんじゃ。それで憧れたと言っておったな。…不憫でな。少しでも夢を叶えてあげたいと思ったんじゃ』
『意外といいとこあるじゃん』
『まぁ一応神様じゃしな。それでな、美月ちゃんを死ぬ前にシンデレラにしてやろうと思ってな。美月ちゃんの魂をシンデレラにちょいと入れてやろうとな』
『ふんふん』
『それで美月ちゃんの寿命を視たら、12月26日になっとったんじゃ。で、ウトウトしとったら、天国の鐘が鳴ってな。あ、天国の鐘はな、死者の魂が天国の門まで来ると鳴る仕組みなんじゃ。その中に【タケダミズキ】があったから、慌ててその魂を拾ってシンデレラに入れてやったんじゃ』
『で、その魂が?』
『キミ?みたいな?』
『はぁぁぁぁ?!何やってんだよオッサン!美月ちゃんはじゃあ!』
『安心せぇ。まだ12月25日じゃ』
『な、なんだ。じゃあセーフじゃん。て事は、あの体はシンデレラだったのか…』
今更ながら、服を捲って体つきとか確認しとけば良かったな~と思う。
『じゃあさ、俺の魂をまたシンデレラから抜いて、今度こそ美月ちゃんをシンデレラにしてやれば』
『それがのぅ…』
『…なんだよ』
『出来んのじゃ!』
『はぁぁぁぁ?何言ってんのオッサン!オッサンが俺の魂をシンデレラに入れたんだろ?』
『そう何回も魂を出し入れ出来んのじゃ!確か…何か方法があった気もするが…』
『なんだよ?どんな方法だよ?!』
『…ワシも年じゃ!そう焦らすな!ちょっと待っておれ』
オッサンはスマホを取り出すと、どこかへ電話をかけ出した。
『あ、ルシファーか?』
ここがスタビだったら、飲んでたコーヒー吹き出す所だ。
『あのさ、間違って魂を別の器に入れちゃったんじゃが、どうしたら良かったかの?うん、うん。そうそう、本当に入れたい魂はまだ死んでないんじゃ。…あーそうか!ありがとサンキュー』
オッサンは明るい顔で俺に言い放った。
『君がシンデレラをやりなさい』
『オッサン。1回殴らせろ』
『止めときなさい?ね?ワシ神様じゃし。止めといた方がいいと思うよ、うん』
『何で俺がシンデレラやんなきゃなんねぇんだよ?』
『あ、それね。ご存知の通り、シンデレラちゃんはもう死んでおります』
『おぅ』
『まぁつまり魂はもうないから、どんな魂でも入れたい放題なんじゃ』
『で?』
『しかしな、そうヒョイヒョイ魂を入れ替えておったら、器が壊れてしまうんじゃ』
『どういう事?』
『まぁ、シンデレラが消滅してしまうって事じゃ』
多分それって、猛烈にヤバイよな?
『それは絶対マズいやつだろ?』
『なんせシンデレラちゃんやしの~!マズいマズい!アハハハ』
ぎろっと睨み付ける。このお調子者のオッサン、マジで一発ぶん殴りたい。
『はぁ~。まぁ、そう怖い顔するな。それでな、次の魂を入れる為には、今入ってる魂がちゃんと“生涯”を全うすればええんじゃ!つまり瑞希くん、君がしっかりシンデレラをやってくれれば、シンデレラは消滅せんし、なんと美月ちゃんも次に入れてやれるんじゃ!』
『で、でもよ!一日しかないんだろ?明日美月ちゃんはその…』
『あー大丈夫大丈夫。天国の時間て、人間の100年で1日だから!どうぞごゆっくり~』
『え?!そうなのか?』
『本当じゃ。じゃから時間は気にするな。ちゃんとシンデレラをやってくれれば、それでいい』
『…でもさ、俺さ、それメリットある?』
『なんじゃ?』
『元はと言えばさ、オッサンのミスのせいでしょ?』
『…そ、そうじゃ』
『そのミスを、俺が挽回してやるんだよね?』
『う、ぬ』
『俺、旨味なし』
『まぁ、そう言うな。女の子として転生出来たんじゃし』
『これ以上ないくらい荷が重い女の子にな』
『ぬ、まぁ、そうじゃな』
『望んでないのに?』
『む』
『誰かさんのせいで?』
『むむ』
『尻拭いさせられて?』
『…何が望みじゃ』
『そうこなくっちゃ!』
俺はオッサンの肩をポンッと叩き立ち上がる。
『生き返りたいな』
『なっ…』
『俺さ、年末にどうしても行きたいコンサートあるんだよ!だから生き返りたい!出来る?』
『…出来ん』
『え?!神様なのに?!』
『まぁしかし…今回は確かにワシのミスじゃ。特別に生き返りを許可してやろう』
『マジ?!』
『その代わり!しっかりとシンデレラを全うするんじゃぞ?!』
『うんうん!全うする、全うする!任せといて!』
『…本当に大丈夫かの?』
『それオッサンが言う?』
オッサンは一つ咳払いをすると、すっと立ち上がり偉そうに胸を張る。
『よし、じゃあ決まりじゃな。しっかり頼むぞ』
『あ、そうだ』
『なんじゃ。まだ何かあるのか?』
『なんか全然言葉が解んなかったんだけど』
『なにっ?!…しまった。久し振りで、すっかり忘れとったわい。今良いのを出してやる』
そう言い、オッサンは胸ポケットに手を入れ
『翻訳こんにゃーー』
『タンマ!』
『なんじゃ?』
『それはその、マズくない?著作権とか?』
『翻訳こんーー』
『だからダメだって!せめて名前変えろよ』
『ったく、細かいのぉ。ほんーー』
『コラ』
『…わかったわかった。ほれ、このゼリーを食べれば言葉が分かるようになる』
胸ポケットから出した小さめのゼリーを、ポイっと投げてくる。
『うおっ、ありがと!助かるよ』
ゼリーは少し固めで弾力があるブドウ味だった。
『うん、上手い。ありがとなオッサン』
『翻訳こんにゃくゼリー!』
『ギリギリ!ギリギリアウトかもだぞ!』
『ったく、最近は煩いのぅ。どこでもドーー』
『わぁぁぁ!いきなり終わるわ!』
オッサンは
茶室のにじり口みたいなドアに、小っさくなりながら入っていった。
『いや、サイズ感!』