(2)むかしむかし あるところに
『~!~!』
なんだか、聞き慣れない声が聞こえる。
目を覚ますと、天井。
白い天井。
あ、もしかして生きてた?
ら、ラッキー♪
これで年越しライブに参戦出来る。
ホッと安心したのも束の間、バタバタと足音が近付いてくる。
『~!』
ん?今の何語?
間違いなく日本語じゃなかったぞ!
俺はバッと飛び起きた。それはもう絵に描いたように。
そして我が目を疑った。
スカート穿いてるわぁ~
はぁぁぁぁ?!スカート?!
俺は昨日、間違いなくいつものジーパンに、ちょっといい革ジャン羽織って、でもインナーは前のABC84のツアーで買ったトレーナーを着てたハズ。
みんなに『お前、そりゃないわ~』なんて笑われたハズ!
じゃあなんだ?
このサラッサラのテッカテカの布は!
これって俗にいうワンピースとかいうやつか?
…女の子のファッションの情報なんて知らないけど、確か高校の時に1回デートしたアヤちゃんが着てきてたハズ。
似合う?ってはにかんでたなぁ~
可愛かったなぁ~
そんな思い出に耽っていると、突然おでこに手の感触を感じる。
いつから居たのか、心配そうな顔の女の人が立っていた。
俺のおでこに手を当て、熱を診ているようだ。
『~~~?』
…わっからーーーん!
なんて言ってるんだ?!お願いだから誰か教えてくれ!
この小綺麗な女の人は誰なんだよ!な!
すると、今度は入り口から男の声がした。
これまた心配そうな顔をしている。
ベストみたいな服を着て、胸ポケットから金の鎖が垂れている。
まさかそれ、懐中時計とかじゃないよな?
そう思っていると、何やら話ながら男が金の鎖を引っ張る。
懐中時計~~~!
金の懐中時計~~~!
ちょっと待て!ここは本当にどこだよ?
日本でもなけりゃ
下手すると時代も違いそうだ。
なんだかちょっとお金ありそうで、今よりうんと昔な、外国の家のパパとママって感じだ。
『あ、あたま痛い…』
声を出してビックリした。
俺もビックリしてたし、身なりのいい男の人も女の人も、目ん玉転げて落ちちゃうんじゃね?ってくらいビックリしてたし、それ見て俺も
もっとビックリしちまった。
俺の声、スゲー美声。
物語の主人公レベルで可愛らしい女の子の声。
うわぁ、今まで酒に飲まれて色々やっちらかしたけど
間違いなく子々孫々語り継がれるやっちらかしじゃね?
俺もしかして、転生的な?しかも女の子に?
ここまで来て、やっとそういう思考に至る。
とすると、目の前でボロボロ泣き出したこの女の人は、母ちゃんとか?
ヤベ~綺麗すぎて緊張する…
と思ってたら、女の人がいきなり俺の肩をガシッ!と掴み、これでもかこれでもか!と揺すってくる。
泣き叫びながら。
…うん、俺、日本語話したしね。自分の子が訳分かんない言葉話したら発狂するよね…
うん。気持ち分かるけどさ、痛いしさ、あと気持ち悪い…
男の人が必死に止めるが、女の人は気でも狂わんばかりに揺すってくる。
それに合わせて俺の目はぐるぐると回り…
気絶してしまった。