(13)王子様は素敵な姫を見つけました。
今頃本当なら、久々のボール投げで、ストレス発散してたはず。
なのに
なのに
なんじゃここはーーー!
あっという間に着いてしまった。
何やらキラキラしてる城。
『…ったく。どうしろっつうんだよ?!』
このドレスっつーのが
本当にいただけない。
イライラしながら踏み出せば、100%裾を踏む。
そして転ける。
本当に女は大変だと思う。
生き返ったら、ずっとジーパン穿きたい。
ドレスの裾を持ち上げるように、少し摘まんで馬車から降りる。
従者が、こつこつとこっそり肘でつついて、城へ上がれと急かす。
この従者も御者も
ぜーんぶへっぽこ神の手下だからな。
俺は渋々、長ったらしい階段を
重い足取りで上った。
◇ ◇ ◇
城に入るのは初めてだ。
思い返せば、日本の城にすら行ったのは修学旅行の時だけ。
やたらと階段が狭くて急で、怖かったな。
しかしまぁ、ここはそれとは真逆。
とにかく広くて穏やか。
明るくて華やか。
重厚な音楽が流れ、着飾った男と女が手を取り踊っている。
社交ダンスっていうやつか?
自慢じゃないが、俺は運動会のダンスすら覚えられなかったんだ。
あんなにくるくる回れるか!
フロアに入るのを躊躇っていると、従者がイライラしたように、後ろからドンと背中を押してきた。
俺の体は
ポーンとフロアへ投げ出された。
◇ ◇ ◇
『一緒に踊りませんか?』
『宜しければこれを。美味しいですよ』
『どちらの姫君ですか?』
…鬱陶しい。
変な服着た男共が群がってくる。
解るよ?
確かにめっちゃ可愛いもんね。
でもさ、中身男なんだよね~
男に言い寄られてもねぇ~
ちっとも盛り上がんねぇ
『アハハ…』
とりあえず愛想笑いで
全スルー
ひたすら
ひたすら
愛想笑い!
ほら持ってけドロボー
スマイルじゃ!
そんなこんなしてたら
突然、人波がぱかっと割れた。
何て言うんだっけ?
モ?モ?
モーゼ?
何かの漫画で読んだな~
それみたく、ぱかっと道が出来た。
そして、そこを通って一人の着飾った男が近付いてきた。
『美しき姫よ。この手を取り、一緒に踊っては頂けませんか?』
周りからわぁ~とか素敵♪とか歓声が上がる。
もしかしてこのキラキラした奴が、この城の王子?
『いや、あの…』
踊れねぇって。
躊躇っていると、従者が後ろからドンと押してきやがった。
弾みでよろけて、王子に抱きついてしまう。
周りからひゃ~とかきゃ~とか悲鳴が上がる。
ったく、このやろー!
とかげのくせに!
とかげに戻ったら
踏み潰してやる!
『…はは。積極的な方ですね』
違ーう!
笑ってんじゃねぇ!
『ちが…!』
顔を上げると、王子の後ろに
へっぽこ神ーーー!
てめぇこのヤローーー!
『安心せぇ。そのガラスの靴には魔法が掛けてあるから踊れるぞ』
思いっきりへっぽこ神を睨み付ける。
『どうしました?どこか具合でも?』
手を取った王子が、心配そうに尋ねる。
『…あ、いえ』
◇ ◇ ◇
『お名前は?』
『あ、えーと。…エラです』
こっちを名乗ればいいのか?
『あ、でも最近はシンデレラってあだ名で呼ばれてるんで、どっちでも好きな方で呼んでください』
マジでこの靴スゲー
勝手に踊ってくれる。
『あ、シンデレラっていうのは、シンダーエラから来てて。シンダーエラ、シンダーエラって繰り返し言ってると、シンデレラって聞こえません?』
『どうしてシンダーエラなんですか?』
『あぁそれは、私が灰をかぶってしまった事があって。それを姉達が面白がって…。姉って言っても、血は繋がってないんですけどね。あ、喋りすぎですか?私』
『いいえ、とても楽しい姫君で。新鮮です』
ガーン
何故か好感触?
お喋り女だと呆れられるかと思ったのに…
やっぱり根が男だから
お喋りが下手くそなのか?
『アハハ~。王子様の周りにはこんな女いないですよね?私の周りにも王子様みたいな素敵な男性はいませんよ~』
『じゃあどんな男性がいるんですか?』
男性…?
へっぽこ神か?
『あーえっとぉ~…ユーモア溢れる不思議な人とか』
『おぉ、それは面白そうだ。ぜひ私も会いたい』
『あー、もう会ってたりして』
『え?』
だって
へっぽこ神
さっきから王子様の顔、間近で見てますよ
『なんちゃって』
『本当にあなたは愉快な姫君だ。どこの国の方ですか?』
『どこ…?えっと、ニッ』
『ニッ?』
『あ、なんちゃって。そこはヒミツですぅ』
『女性はヒミツがある方が、より魅力的に見えますからね』
どひゃ~
顔近~い
そんなつもりで内緒にしたわけじゃねぇし!
ゴーンゴーン
鐘が鳴り始めた。
露骨に慌て出すへっぽこ神。
『12時じゃ!』
『え?』
ゴーンゴーン
いきなり従者が俺の腕をぐいっと引き、そのまま凄まじい勢いで走り出した。
『お待ちください!』
『え?えーーー?』
王子の声はあっという間に遠くへ。
『早くあの姫を追え』
ゴーンゴーン
そのまま外へ飛び出す。
あの大階段を引き摺られる。
『ちょちょ、痛い痛い!』
ゴーンゴーン
元とかげとは思えない力にスピード。
後ろから、王子の家来達が走って来るのが見えた。
そのまま押し込まれるように馬車へ。
突然へっぽこ神が床からにょきっと顔を出し
『いかんいかん、これを忘れるとこじゃった』
そう言うと、いきなりガラスの靴を片方脱がせてくる。
ゴーンゴーン
『おいっ!』
『出発じゃ!』
掛け声と共に馬車が飛ぶように走り出す。
窓から外を見ると、手を降るへっぽこ神が見えた。
俺は訳もわからないまま
城を後にした。
◇ ◇ ◇
『…ハァハァ。速かったな』
『どうした?!』
『も、申し訳ございません。凄いスピードで追い付けませんでした』
『くそっ』
悔しそうに、足を踏み鳴らす王子。
その視線の先に、見覚えのある輝くガラスの靴が映る。
『…これは』
靴を拾い上げると、王子はにやりと微笑む。
『ラドニフ!ラドニフはおるか?!』
『は!ここに』
『明日、国中に布告しろ。このガラスの靴がピッタリ合う娘を、妃に迎えるとな!』
『は!』