(12)シンデレラはパーティーに行きたくありませんでした。
『待たんかーーーい』
閉めたはずの扉から
魔女がうにょ~と染み込んできた。
『うげっ?!キモッ』
『キモくな~い!』
『え、何?怒ってんの?』
『当たり前じゃ!』
『なんで?むしろさ、不法侵入されて、こっちが怒りたいの。わかる?』
『あ、すみません』
『うん、苦しゅうない。帰れ』
『これはこれは、ありがとうございます』
三つ指付いて、土下座する魔女。
構わず俺は歩き出す。
『ちょちょちょちょちょーい!』
魔女は一瞬で俺の前へ回り込む。
『早ッ』
『本当に頑固な男じゃ』
『…ん?今なんて?』
ババアが慌てて口を押さえる。
『…男って知ってんだ?』
激しく首を横に振る。
『正直に言えば楽になるぞ~?』
それでも吐かない。
『知り合いに、へっぽこでおバカな神がいる?』
『誰がバカじゃ!』
痺れを切らしたように
ババアの後ろから
へっぽこ神が出てきた。
『やっぱりお前か』
『お前は止めんかい。生き返らせんぞ』
『シンデレラ止めんぞ』
『ごめんなさい』
『で?このババアは何?』
『ババアとは何じゃ!』
口を押さえていた手を離し、木の棒を振り上げる。
『まぁまぁまぁまぁ。こちらは魔女のウィンターさんじゃ』
『まぁ魔女なのはさっきわかった。で、なんでダンスパーティーに行かせようとすんの?』
『ワシが頼んだんじゃ。シンデレラはダンスパーティーに行って、王子様と出会うんじゃ』
『…へぇ。あ!』
『なんじゃ?』
『気が変わったか?!』
『お湯沸かしっぱだ』
急ぎ足でキッチンへ向かう。
『ダンスパーティー!!』
『ウィンターさん、こうなったら力づくじゃ』
『じゃあ手分けして探すかの!私はカボチャとネズミ探すから』
『ワシは、とかげと…ガラスの靴じゃな!蔵天じゃな!』
『今日届くのかい?』
『大丈夫じゃ!ワシは上客じゃからな~』
騒ぐ2人には目もくれず、俺はせっせと掃除を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
すっかり夜の暗闇に包まれた頃。
俺は久々の余暇に歓喜した。
パーティーに行ってくれたお陰で、夕飯の支度とか
途中で入ってくる面倒な仕事がなかった。
お陰で家事が終わったんだ。
俺は久しぶりにボールを握り、外へ出た。
そして、壁に向かって投げた。
『ナイス~!』
『おまっ…!また来たのかよ!』
壁からにゅ~うっと生えたへっぽこ神が、俺の投げたボールをキャッチした。
『暇しとるのか?』
『してないわっ!今から久しぶりにボール投げすんだよ!』
『バットも振りたいか?』
『…え?!ふ、振りたいけど』
『ジャーーーーン』
へっぽこ神が、ミスノのバットをこれ見よがしに出してきた。
『バットォォォォ』
俺の咆哮が、星空へ吸い上げられていく。
『ほれ。振ってみ』
へっぽこ神…
本当は優しい奴なんだ…
へっぽことか言って
バカにしまくって悪かったなぁ…
『いいのか?!ホントに?!』
満面の笑みで、へっぽこ神がバットを渡してくる。
『いやぁ~なんかいつもバカにしてごめんな』
俺はバットを握りしめ
ぶんっと振る。
…久しぶりの感覚。
これだよこれ~!
…あれ?
違和感。
うん?おかしいぞ…
俺
ドレス着てたっけ?
なんか頭もスースーするし
へっぽこ神がカボチャを取り出した!
俺はバットを振った!
カボチャが馬車に変わった!
へっぽこ神がとかげを取り出した!
俺はバットを振った!
とかげが従者に変わった!
へっぽこ神がねずみを取り出した!
俺はバットを振った!
ねずみが御者に変わった!
後ろで魔女が
馬を馬車につないでいる
馬車に乗りますか?
→はい
イエス
『なんじゃこりゃーーー』
おかしい!
おかしすぎるぞ!
魔女がほいっと木の棒を振ると、俺の体がふわふわと勝手に浮いた。
『なんじゃこりゃーーー!』
もがいてももがいても
浮力に逆らえない。
俺の体は、そのまま馬車へと吸い込まれた。
へっぽこ神が
サッとガラスの靴を俺に履かせる。
『なんじゃこりゃーーー!』
『出発じゃ!』
俺の叫び虚しく
馬車は走り出す。
『ええか?12時に魔法は解けるから、その前に城を出るんじゃぞ~!』
ババアの捨て台詞が
辛うじて耳に届いた。