(11)ある時お城でダンスパーティーが開かれました。
『お母様!もっと素敵なドレスが欲しいわ!』
『綺麗な靴も!』
『そうねぇ。あとは、メイクも教えてもらいたいわね…』
何か知らんが
意地悪達がバタバタしている。
…まぁそんな事気にしてる場合じゃない。
シンデレラとして、アホみたいに盛り沢山な家事をこなさないといけないからな。
世の女の子達は
こんな馬車馬みたく働きたくて、シンデレラに憧れてんのか?
俺、生き返ったらいい主夫になれそうだし
キャリアウーマンの彼女、ゲット出来たりして~
ま、そんな妄想でもしてないとやってられんくらい大変だよマジで。
『シンデレラ。今日はお城でダンスパーティーがあるけど、あなたはしっかり家の事お願いね』
へぇ~ダンスパーティーね
『間違っても、パーティーに行きたいなんて思わないこと!』
『そうそう!あんたなんか行っても笑い者にされるだけよ?アハハハ』
『大丈夫よ、ドリゼラ、アナスタシア。シンデレラは、ドレスすら持ってませんからね』
『それもそうね』
『早くドレス買いに行きましょ!』
『そうね。シンデレラ、馬車を用意して』
『は~い』
『このパーティーは、王子様の結婚相手を決める大切なパーティーよ。あなた達、しっかりね!』
『もちろんよお母様』
『絶対王子様ゲットしてやるんだから』
おぉ~
いつの時代も、男は金と権力なのかね~
あと顔か?
俺いい主夫になるぜ?
金も権力もないしイケメンでもないけど、誰かいませんか~?
『じゃあね~シンデレラ』
『せいぜい泣いてなさ~い。アハハハ』
…ダンスパーティー行けなくて泣くの?
踊れないし、疲れるし、ドレスだし。
行けって言われる方が泣くわ。
そんな事を思っていたら突然
玄関をトントンと弱々しくノックする音が。
『…?忘れ物か?』
ドアを開くとそこには
見たことのないババアがいた。
『…どちら様?』
全身真っ黒いフード付きのマントみたいな服を着て
絵に描いた魔女みたいだ。
『水を一杯くれんかね?』
『水?ちょっと待ってて』
俺はダッシュでキッチンへ向かうと、水を一杯コップへ注いだ。
あー、ペットボトルとかあればみんな楽だよなぁ~
発明した人、マジ神だな
『はい、どうぞ』
ババアは水を一気に飲み干した。
『プハァ~…生き返る~』
『良かったね。じゃあ』
ドアを閉めようとすると、信じられないくらい強い力で、ババアがドアを押さえた。
『…え?!なに?』
『お主、名前は?』
『えーと、エラだけど。シンデレラって今は呼ばれてる』
『じゃあシンデレラ』
『エラがいいんだけど。それあだ名だし』
『シンデレラよ』
『無視かーい』
『ダンスパーティーに行きたくはないか?』
『え、ない。じゃあね』
ドアを閉める。
ババアがそれを阻止する。
『ちょちょちょちょ。アホ。指挟むじゃろ?まぁドアを閉めるな』
『てかさ、あんた誰よ?知らない人を家に上げたらいけないって母ちゃんに教えられたんだよね』
『あたしはその~』
『…はい、さようなら』
『ちょいちょいちょーい!ほら、魔女だよ魔女』
『…はいはい。いくらなんでもそれは…ねぇ』
鼻で笑う。
『本当だって。ホレ』
古ぼけた木の棒を得意気に出してきた。
『で?』
『だから、ホレ』
ババアが木の棒を振ると、俺の着ていた動きやすいメイド服が、キッラキラのふっわふわのドレスにされてしまった。
『…ぅえっ?!』
『どうじゃ?信じたか?』
『おいくそババア!何勝手にドレスにしてくれちゃってんだよ!さっきの服は?!』
『…は?』
鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔してやがる。
『は?じゃねぇし。さっきのメイド服!動きやすいようにハナコさんに改良してもらったんだからな!返せよ!』
『…え。あ、はい』
ババアが木の棒を振ると
ドレスからメイド服へ戻った。
『ったく。忙しいからさ、もういい?』
迷惑そうな俺を見て、キョトンとしている。
『…あのさ、ダンスパーティー行きたくないの?』
『行きたくないけど?』
俺はバタンとドアを閉めた。