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苦手な方はご注意ください。

きさらぎ学園の都市伝説

作者: 水ノ神 蒼

挿絵(By みてみん)


―都市伝説、七不思議。

そう呼ばれるものは、時を越え代々言い伝えられてきた。

ただの噂だと言う者も居れば、実際に経験したことのある者も居る、何が起こるか判らないこの世の中。

その身に災いが齎されることも、無きにしも非ず…。


きさらぎ学園の都市伝説


先輩に聞いた話なんだけどさ、この学校に都市伝説があったのって知ってる?

都市伝説?七不思議じゃなくて?

まぁ、似たようなものだとは思うんだけど…。この学校って、元は駅だったんだって。

え、そうなの?あぁ、言われてみればそんな気もする。昇降口の所とか駅舎っぽいし。

それだけじゃなくて、地下鉄も残ってるらしいよ。

埋め立てなかったの?何で残したんだろう?

それね、私も疑問に思ってたんだ。先輩の話によれば、初代の学園長が決めたんだって。理由は判らないけど。

う~ん…、ますます気になるなぁ…。

残したと言えば、駅の名前をそのまま学校名に使ったんだって。

ということは、”きさらぎ駅”?

うん。…ねぇ、その駅名、聞いたことない?

ちょっと、急に不気味な声出してどうしたの。怖いんだけど。

何となく雰囲気作ってみた。で、聞いたことあるでしょ?

もしかしなくても、都市伝説のアレでしょ。

そーそー、実際には存在しない架空の駅ってやつね。

その駅が昔は此処に…、ってヤバいじゃんそれっ!!

まぁ、ただの噂だけどね。

ただの噂で留まっててほしいよ…。ん?でも最寄り駅に”如月駅”ってあるよね。

あー、アレって本当は”新如月駅”って言うらしいよ。表記も漢字だし。

なるほど…、要は別物ってことか…。

そーゆーこと。だから安心して電車乗りなよ♪

え?…あぁぁっ!!今日、電車通学なの忘れてたぁぁっ!!


―放課後―


夕陽が教室内を朱く染め、昼間とは違った印象を与える。

部活や帰宅などで、既に室内には誰も居ない。

クラスメイト分の机と椅子が並ぶ中、私はたった一人で自分の席に座っていた。

机には数枚のプリント、右手にはお気に入りのシャープペンシル。

「課題、面倒だな…。もうこんな時間だし…」

誰に言うでもなく、小さく溜息を吐く。

「でも終わらせないと帰れないし…」

そう言いかけた時、私は昼休みにクラスメイトが話していたことを思い出した。


―この学校に都市伝説があったのって知ってる?

この学校って、元は駅だったんだって。

”きさらぎ駅”?

都市伝説のアレでしょ。

実際には存在しない架空の駅ってやつね。―


「………」

私は元々、そういう未知の類は信じない主義だ。

お化けとか幽霊とか、実際に見たわけじゃないのに騒ぐ方がどうかしていると私は思う。

でも今回の都市伝説話はわけが違う。

「何なのアレ、怖すぎでしょ?!地下鉄残ってるとか…、もう死亡フラグ確定じゃんっ!!」

思わず出た叫び声は、誰も居ない室内に虚しく響き渡った。


***


「出来た…」

課題を終わらせて、深い溜息を吐く。

例の都市伝説話の恐怖心で駄目にしてしまったシャープペンシルの芯が、机の上に無残に散らばっていた。

プリントも少し皺になってしまったけど、不可抗力だし仕方無いだろう。

窓に目を向ければ、日はとっぷりと暮れていた。

億劫になりつつも、帰り支度をしてプリントを手に持つ。

現在時刻は午後6時30分過ぎ、電車の時刻は午後6時44分。

あぁ、乗りたくない、せめて友人の一人でも一緒に帰れていたら。

一人は部活、一人は既に帰宅、そしてもう一人は自転車通学。

仮に一緒に帰れたとしても、こんなに遅くまで待っていてくれるとは思えないけど。

そんなことを思いながら、教室を出て廊下を歩くこと約2分。

「1年2組東雲(しののめ)です。課題を提出しに来ました」

職員室の扉をノックして入ると、そこには数人の先生が書類やら電話やらで動き回っていた。

安藤(あんどう)先生ー」

担任の安藤先生を見つけて声を掛けると、先生は書類整理の手を止めて此方に駆け寄ってきた。

「やっと終わったのか」

「やっとって…、結構難しかったんですけど…」

悪態をつきながら課題を渡すと、先生はそれをひらひらと振った。

「よし、もう帰って良いぞ。結構暗くなってるし気を付けてな」

「はい、先生さようなら。失礼しました」

一礼して職員室を出て、暫くして気付く。

そういえば、こんな時間に女子生徒を一人で帰らせるのか。

あぁ、送ってもらえば良かったかも。

しかし時既に遅し、そして両親共働きで迎えに来てもらうことも出来ないときた。

電車通学の私は、勿論帰りも電車なわけで。

「何事も無く、無事に家まで辿り付けますように…!」

最終的には神頼みするしか道は無かった。


***


「…あれ?」

例の何処か駅舎に似ている昇降口に到着し、靴を履きかえたところまでは良かった。

さぁ帰ろうと一歩踏み出せば、何故か私は体育館前に来ていた。

部活はとっくに終わっている時間で、中には誰も居ない。

頭に校内の地図を思い浮かべてみても、昇降口と体育館は真反対に位置している。

静まり返って真っ暗な空間が、辺りを支配する。

急に寒気を感じて身震いする。

「取り敢えず戻ろう…」

回れ右をして来た道を戻ろうとするけど、何故か最後は体育館前に着いてしまった。

鞄から携帯を取り出してライトを点けても、結果は同じだった。

途方に暮れていると、私はあることを思い出した。


―体育館の裏には、秘密の抜け穴があるらしい。―


いつかクラスメイトが話していた噂話。

私は一か八か、この噂に懸けてみることにした。

期待と不安を抱きながら、体育館の裏へ回る。

昼間でさえ人通りの少ないそこは、暗闇ということも相俟って不気味な空間を作っていた。

まず最初に、目に付いた茂みを漁ってみる。

しかしそこには新しく補強された壁があるだけで、勿論穴なんて何処にも開いていなかった。

次に考えられるのは地下だけど、此処で私は例の都市伝説の話を思い出した。


―地下鉄も残ってるらしいよ。―


「…いや、ただの噂だし」

深く考えすぎているだけだ、と自分に言い聞かせて地面を探ってみる。

暫くしてカチッというスイッチのような音がした時、私はフラグが確立されたのを悟った。


***


奥まで響く靴の音。

何処からか聞こえる水の落ちる音。

風が吹き抜ける音。

それは私を恐怖させるのに十分な材料だった。

拳を握りしめて恐怖に耐えながら歩を進める。

吸い込まれそうな真っ暗な奥に、まだ出口は遠いことが嫌でも解る。

実際に地下を歩き始めてそれほど経っていないけど、恐怖でもう何時間も歩いているように思える。

「一体何でこんなことに…」

深い溜息を吐いて、油断した私は何かに躓いた。

咄嗟に手を前に出して、地面に激突するのは免れた。

その何かはずっと奥まで一直線に続いているようだった。

「これは…、線路…?」

手で探って調べてみると、それは木製の線路だった。

それを見つけた時、私はやっと此処が例の地下鉄であることを理解した。

「本当に…、あったんだ…。ただの噂だと思ってたけど…」

実際に見てしまえば、もうそう思うことは出来ない。

あの噂は本当で、この学校は駅だった。

つまり―、”きさらぎ駅”は実際に存在する駅であるということ。

その駅に辿り着いた後、無事に帰って来た者は一人も居ないらしい。

「…いや、引き返せばまだ大丈夫…」

そう思って来た道を戻ろうとした時、背後から段々と何かが迫ってくるような気配がした。

その何かは次第に眩い光を帯びていき―、私の丁度真後ろで止まった。

前方を照らす光、線路に響く音。

振り返らずとも判る、これは―。

「…まさか、本当に走ってるなんて…」

それは”きさらぎ駅”行きの、今となっては珍しい蒸気機関車だった。


***


生徒の話し声が響く、騒がしい教室。

その中へ入っていく先生が一人。

「おーし、皆席着けー」

その声で騒がしかった室内は静まり、生徒は各々席に着いていく。

HR(ホームルーム)、の前に皆に言っておくことがある」

「何ですか?先生。急に改まって」

先生の言葉に、疑問の声を挙げる一人の生徒。

再びざわつき始める生徒を制して、先生は言った。

「このクラスの東雲(れい)のことなんだが…、急に引っ越すことになったんだ」

先生はそう淡々と、急な別れの知らせを生徒達に伝えた。

しかし生徒達の反応は微妙なものだった。

「そんな人、居たっけ?」

あるものはその存在を忘れており、

「確かあの子って暗い性格だったよね」

またある者はその存在を邪険に扱い、

「実を言うと、あの子と連むの嫌だったんだよねぇ」

またかつての友人であった者は心の内を晒した。

もう誰の記憶からも消された彼女の席の机の上には、折られたシャープペンシルの芯が無残に散らばっていた。 完

こんにちは、作者の水ノ神 蒼です。

今回は「夏のホラー2015」に参加させて頂きました。

拙い文ではありますが、少しでも皆さんの心に残ればと思います。


当初はハッピーエンドの予定が、何故かバッドエンドに…(汗)

学校と都市伝説を結び付けるのはかなり難しかったですが、一応完結したので良かったです。

毎回締切ギリギリなので、もう少し余裕を持って書いていきたいです。

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