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「小学生と寝たんだぜ!」と聞いて、「不純だ」と思ったあなたは不純


  ◇



 ……夕食が終わり、就寝支度をする頃。


「……お兄さん。私、床なの?」

「ちゃんと布団敷いただろ」

 ここは狼の部屋。パジャマに着替えた唄羽が、布団の上に座りながら、不満を口にした。ベッドではなく、床に寝かされるのが不服らしい。

「そうじゃなくて。私、お兄さんと一緒に寝たい」

「……生憎、そういう趣味はないんだが」

「だからだよ。お兄さんにそういう趣味がないって分かってるから、一緒に寝たいの。大体、小学生と一緒に寝るだけでそんな返事が来るって……お兄さん、実は色々いやらしくない?」

「そういうことばかり言う連中が周りに多いんでな」

 唄羽にからかわれて、狼は不機嫌そうに答えた。……多分、闇代とか、美也のことだろうな。

「それで話は戻るけど、一緒に寝ていい?」

「駄目だ」

「どうして? えっちな意味じゃないよ?」

「人肌が気持ち悪くて嫌なんだよ」

「……お兄さん、もしかして接触嫌悪症?」

「そんな言葉、よく知ってるな。……っても、実際はべたべたされてうんざりしてるってだけだが」

 要するに、闇代や美也が普段から過剰なスキンシップを迫ってくるから、お腹いっぱいというわけか。贅沢な悩みだな。

「……私は恋しいかな、人肌」

 すると唄羽は、ぽつりと、呟くようにそう言った。……唄羽曰く、彼女は誘拐されたわけではないらしい。だが、だからといって、親と一緒に生活していたわけではないのかもな。

「そうか……なら、余所の部屋に行くんだな」

「……お兄さん、冷たい」

「下手に優しくすると後々面倒だって、思い知ったからな」

 狼は彼女を突き放すと、部屋の照明を落としてベッドに入ってしまった。取り憑く島もないな。

「……お兄さん」

「まあ、どうしてもって言うなら」

 しかし、意外なところに小島があった。狼は唄羽に背を向けつつも、こんな妥協案を出してきた。

「お前が正直に白状したら、入れてやらないこともない」

「白状……?」

「お前の正体だよ。お前たち全員の、って言うべきか。お前らが実は暗殺者で、俺たちを殺すために潜り込んだんだとしたら、不用意に懐には入れられないしな」

 譲歩の条件は、情報の開示。……結局、警察署では有耶無耶になったままだからな。ちゃんと聞きたいのだろう。後半のは冗談だろうが。

「……他の子達については、詳しく知らないの。私たち、みんな仲良しだけど、過去については話さないの。でも、それなりに苦労しているのは分かるよ」

「なら、お前だけでもいい。話せ」

「……うん」

 それから唄羽は、自分の身の上を話し出した。

「……私はね、幻術使いなの。でも、それは自分で手に入れた力じゃなくて、生まれつきなの。私の両親は、私が見せる幻術のせいで、私のことが正しく認識できなかったの。それで、たまたま耐性が強かった人が私を施設に預けて、そこでもまた同じことになって……そうして、今の施設に流れ着いたらしいの」

 唄羽の話を、狼は相槌も打たずに聞いている。唄羽は続ける。

「今の施設はね、私みたいな化け物ばかりが集められてるの。みんなそこで、自分の能力と向き合って、力を制御するの。他にも、施設の人たちの「実験」に協力したり……私、小学生だって言ったけど、本当は学校にも通ってないの。最低限の知識は教えられたから、読み書きも普通に出来るし、一般教養も問題ないけど。それでも、やっぱり私たちは化け物だったの」

 彼女は、彼女たちは、そうして生きてきた。生まれながらに得た力に振り回されて、それでも懸命に生きてきたのだ。

「今回も、その「実験」だったの。そのために移動してたんだけど……あの子達は、カモフラージュの意味もあったんだけど、本当は「実験」のモルモットでもあったの。あのままお兄さんたちが来なかったら、あの子達、どうなってたか分からないもん」

 あの子達―――つまりは、誘拐された子供たちか。ごく普通の子供たちも、その「実験」に巻き込まれるところだったとか。……一体、どんな「実験」をするつもりだったのだろうか?

「……これで全部だよ、お兄さん。色々と、黙っててごめん」

「……そうか」

 唄羽の話が終わると、狼は彼女のほうを向き、掛け布団を捲った。そして空いたスペースを右手で叩き、こう促してくる。

「ほれ、約束通り、入ってもいいぜ」

「……今の話、信じるの?」

「嘘を吐いてるかどうかくらい分かる。それより、入らなくていいのか? 俺はこのままでも構わんが」

「……じゃあ、失礼するね」

 躊躇いながらも、唄羽は狼のベッドに入り、布団の中に潜り込んだ。

「……暖かい」

「それはいいが、あんまり引っ付くなよ」

「いいじゃない。お姉さんたちともこういうことしてるんでしょ?」

「布団まで許したのはお前だけだけどな」

「そうなんだ……なんか嬉しいな」

 狼の懐で、唄羽はその温もりを噛み締めるのだった。



 ……その頃、闇代たちは。


「あーあ。狼君、唄羽ちゃんと変なことになってないといいけど」

「なるわけないじゃん。何不純な妄想してるの? 気持ち悪い」

「……亜子ちゃんはまだ子供だから分からないんだよ。恋する乙女の悩みって奴が」

「っていうか、あんたまだ乙女なの? 乙女って処女でしょ? 結局、あの人をモノにできてないんでしょ? 要するに喪女?」

「……仕方ないもん。狼君、不能だし」

「えぇ……? 不能が好きなの?」

「好きだった人が偶然不能だっただけだもん」

 闇代と亜子は、やや喧嘩腰ながらガールズトークに興じていた。それはいいのだが、女の子が不能不能連呼するのは止めて欲しい。

「っていうかそれ、病気なの?」

「ううん、違うよ。狼君の場合、ちゃんと理由があるの」

「その理由が病気?」

「どうしてそんなに病気扱いしたいの?」

「妖怪ロリババアがまともな男を捕まえられるわけないから」

「どっちかっていうと、妖怪は敵なんだけどなぁ……」

 っていうか、そういうデリケートな話を、本人がいないところでするのは如何なものなのか。その辺、良識ある大人としてどう思うのか。

「……とりあえず、詳しいことは本人に聞いて。わたしの一存で話せる内容じゃないし」

「不能ってことは話せるのに?」

「そ、それは、その、そうなんだけど……」

 とはいえ、今更配慮しても手遅れなわけで。亜子の指摘に苦しむ闇代。

「要するに、好きな人の秘密をベラベラ喋る口軽尻軽女なわけね」

「し、尻軽じゃないもん……!」

「でも、口は軽いじゃん」

「うっ……」

 これはもう自業自得なので、自分でどうにかしてください。

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