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「姦姦しい」って何? どう読むの? という質問は受け付けておりません


  ◇



 ……四人の女児を連れて、彼らは再び元の会議室に戻ってきた。


「……そう。他にも、異変のあった子供たちがいたのね」

「ああ。それで、全員ここに連れてきたんだが……」

 そういうわけで。彼らはそれぞれ、軽く情報交換したり、舞奈に事情を話したりしてから、女児たちの顔合わせをさせた。

「とりあえず、この子から紹介するわね。朱雀心ちゃんよ」

「……」

 優が連れてきたのは、黒髪ツインテールの女児。俯き、無言のままで、優に背中を押されている。

「ほら、お前も」

「はーい。柏湖唄羽です」

 狼が連れてきたのは、茶髪ツインテールの女児。こちらもツインテールだが、心のように無口というわけではなく、しかし活発でもない様子。普段から大人しくて、落ち着いている子なのだろう。

「亜子ちゃんも、ね?」

「うっさい。気安く話し掛けんな」

「……(怒」

 闇代が連れてきたのは、ショートカットの女児。生意気な態度で、闇代を地味にイラつかせている。

「ほら、涙花ちゃん。あの人が魔女さんだよ」

「うぉーい! 最強の魔女「ギャラクシー・デストロイヤー☆」と呼ばれたこの私も、他の魔女と遭遇するのは初めてなのよぉ!」

 そして美也が連れてきたのは、ポニーテールの女児。箒を片手に、優を見て感激しているみたいだ。……どうでもいいけど、それ、警察署の備品だからな。ちゃんと置いていけよ。

「あら、あなたも魔女なの?」

「そうなのよぉ!」

「厨二だけどね」

「ちゅ、厨二言わないで欲しいのよぉ……!」

 優が涙花に興味を示したものの、亜子に突っ込まれて、彼女は涙目になっている。……まあ、事実だからな。

「ああ、そういうことね」

「涙花……厨二は卒業したら?」

「正直うざい」

「うぉーい! 亜子だけじゃなく唄羽にまでボロカス言われてるのよぉ!」

「……」

 一度流れが出来てしまうと、それぞれがそれぞれ、口々に喋りだしてしまう。子供特有の甲高い声も相まって、はっきり言ってかなり煩い。女三人寄れば姦しいと言うが、この場合は女子が多すぎて、姦しいどころではないな。姦姦しいくらいか?

「とりあえず、身元を照会してるから、それまでここで待機してて」

「はーい」

 それを煩わしく思ったのか、女児たちの氏名を聞いた舞奈は仕事に戻った。よって、狼たちが女児たちの相手をすることに。……この子達も色々とやらかしているので、警察にとっても、慣れている人に面倒を見てもらったほうが好都合なのだろう。

「あ、そういえば。亜子ちゃん、さっき気になること言ってたよね?」

「ちゃんづけ止めろ。気色悪い」

「言ってたよね? 亜子三等陸士」

「勝手に陸士にすんな。っていうか何で三等陸士なわけ? どうせなら一等陸曹くらいにしてよ」

「亜子ちゃん、段々言葉遣いが荒れてない?」

 闇代が大事なことを聞こうとしているのに、亜子との掛け合いが続いて全然話が進まない。いい加減にして欲しいんだが。

「で? 気になることって何だよ?」

「あ、うん、それなんだけどね」

 見かねた狼が助け舟を出して、ようやく本筋に戻れた。……やれやれ、世話が焼けるな。

「亜子ちゃんがね、変なこと言ってたの。自分たちは誘拐されてたわけじゃない、って」

「何だって?」

「それ、本当なの?」

 闇代の言葉に、狼と美也が驚いたようにそう呟く。……まあ、誘拐されてると思ったら助けたんだしな。その前提が崩れたら、確かに戸惑うだろう。

「ん~。半分くらいね」

「半分?」

「誘拐されてたのは、他の一般人だけなのよぉ」

 それに答えるのは、唄羽と涙花。……要するに、「一般人でない」彼女たちは、誘拐されていたわけではないのか。

「なるほど。他の子供たちはカモフラージュとして攫われたというわけダナ」

「そそ。そっちのチビと違って、賢いね、あんちゃん」

「チ、チビって……」

 自分より年下の、それも自分より背の低い子供に言われて、闇代は不服そうだった。それはともかく、一片の言うように、亜子たち以外の子供はカモフラージュのために誘拐されたのだろうか。それが本当なら、とんだとばっちりだな。っていうか、何のためにそんなことを?

「私たちも詳しいことは聞かされてないんだけど、少なくとも誘拐じゃないよ」

「そうなのよぉ~。私たち、家なき子、なのよぉ~」

「家なき子……孤児ってことか?」

「そそ。私ら親がいなかったり、親に捨てられたりしててね。……おまけに、化け物だし」

「化け物?」

 女児たちの話を聞いて、狼たちは首を傾げた。その理由は様々だ。化け物とはどういう意味なのか、とか。孤児というのは本当なのか、とか。どうして誘拐した子供を紛れさせたのか、とか。どうしてトラックで運ばれていたのか、とか。そもそも、彼女たちの言ってることは本当なのか、とか。

「例えば―――心」

「……うん」

 彼らの思考を遮るように、亜子が指示を出す。彼女に応えるのは、今まで沈黙を保っていた心だった。彼女の右手が上がり、その手首から何かが―――鈍く光る刃が迫り出してくる。

「……え?」

「……あ」

「……?」

 そして、それに反応する間もなく。その刃は、優の背中に吸い込まれ、その体を貫通した。

「……っ!」

 それに遅れて、優は苦悶の表情を浮かべる。刺されたのは右側の腰辺り。体を貫いた刃は鮮血に染まり、優の衣服を紅に染めていく。

「ほらね。私たち、そういう子なの。普通の人間くらい、簡単に殺せちゃうの」

「もう、子供がそういうこと言っちゃ駄目よ?」

「……え?」

 カッコをつけて言い放った亜子だったが、その声に呆然としていた。亜子だけじゃない。涙花も、唄羽も、声の主に目を向けて、驚いている。

「大体、私がこの程度で死ぬわけないじゃない」

 声を発したのは、優だった。腹を刺されているとは思えないほど明瞭な声で話し、呆れたように溜息を吐く。

「な、な……!」

「言ったでしょ? 私、魔女なの。っていうか心ちゃん、いい加減に抜いてくれない? 死にはしないけど結構痛いのよ?」

「……」

 口をパクパクさせる亜子にウィンクした後、心に苦情をぶつける優。幸いにも、心はすぐに刃を抜いてくれた。傷口が貫通しているので文字通り風穴が開いているが、不思議なことに出血は殆どない。

「うう……やっぱり歳かしら? 昔なら、不意打ちでもここまで簡単にやられなかったのに」

 優がぼやいている間に、その傷口はみるみる塞がっていった。皮膚や体組織が伸びるのではなく、一度血液がかさぶたのように傷を塞いでから、かさぶたが崩れていき、その下から元通りの皮膚が現れていた。

「うわぁーお! さすがは自称魔女というだけはあるみたいなのよぉ!」

「自称って……ほんとに魔女なのよ? 一応。直系じゃないけど」

 涙花の放った感激の言葉に、優は呆れ気味にそう返す。……指が復活したり、傷がすぐに治ったり。確かに、魔女だと言われたら納得してしまうな。

「それに、私だけじゃなくて、この子達も普通の人間じゃないし」

「そうだな。つーか、化け物っていうのはこいつクラスのことを言うんだけどな。俺たちなんて足元にも及ばないぜ?」

「あら、褒めても何も出ないわよ?」

「何も出すな」

「「「「……」」」」

 優と狼の言葉に、女児たち四人は押し黙るのだった。それは畏怖のためか、それとも驚嘆のためか。

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