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DQNネームって、別名キラキラネームだよね


 ……その頃、舞奈と優は。


「ここですっ!」

 部下に案内されて、舞奈は部屋に入った。その後ろに優が続く。

「……あの子?」

「は、はいっ……!」

 舞奈が示した先にいたのは、一人の女児。彼女は刑事数名に取り囲まれているようだ。なんか物々しい雰囲気だな。

「どうしたの?」

「あ、小宮間さん。それが……」

 近寄ってきた舞奈に刑事の一人が反応して、女児に目線を向けた。―――体育座りをして顔を埋めた女児。その右腕からは、彼女の腕と同じくらいの大きさを持った、鈍く光る刃がついていた。手首の辺りからL字に迫り出した、幅十センチほどの刃。それは恐らく、腕の皮膚を貫いて、正真正銘「生えている」のだろう。

「怪我人はいる?」

「い、いえ、怪我人はいません」

「そう……じゃあ、ここは私が何とかするから、あなたたちは出て行って。後、このことは緘口令を敷いて。上への説明は全部私がするから」

「で、ですが―――」

「いいから。この手の事態は慣れてるから。こういうときの対処も、所長から一任されてるし」

「は、はい……」

 刑事たちに指示を出して、彼らを下がらせた舞奈。これで部屋に残っているのは、舞奈、優、そして件の女児だけだ。

「……お優さん。これ、どう思う?」

「骨の延長とかではないようですし、多分、皮膚の浅いところを起点にして生成しているのでは?」

「やっぱりそんな感じ?」

 この奇妙な現象について、二人は心当たりがあるようだ。女児の腕から生える刃に視線を落とし、真剣な表情で話し合っている。

「ま、子供相手ならスキンシップと対話からですよね」

「大丈夫? 最悪、首ちょんぱだよ?」

「あら? 私が首ちょんぱくらいで死ぬと思うの?」

 舞奈の言葉に、顔を上げる優。しかし、優の口調は―――そして、その瞳の色も、今までとは違っていた。

「そっか……さすがお優さん」

「褒めても何も出ないわよ?」

 先程までは、ラピスラズリのように蒼かった瞳の色が、色素の薄い白銀に。しかしそれは、眼球の色と混ざることはなく、強い輝きを秘めていたのだった。

「さてと……」

 優はしゃがみ込むと、女児のほうへ手を伸ばした。彼女の頭を撫でようとしているのか。

「っ……!」

 直後、優の指が一気に短くなる。人差し指と中指が半分になり、薬指と小指が三分の二になり……やがて、右手から親指以外の指が消えた。

「速いし、切れ味も抜群……っていうか、私の動体視力で追えないって何よ?」

 それはつまり、優の指が刎ねられているということだった。しかし、優は動じた様子もなく、更に手を伸ばしていく。

「指くらいならいいけどっ……!」

 そして、指を四本も失った優の右手が、何かを掴んだ。それは、女児の腕から生える刃―――彼女が振るった刃だった。

「捕まえたわよ」

 その刃を掴む優の右手は、何故か傷一つなく、失ったはずの指も完全に戻っていた。

「……」

 そこでようやく異変に気づいたのか、女児がゆっくりと顔を上げた。

「こんにちは。あなた、お名前は?」

 そんな彼女に、優は優しく声を掛けた。その言葉が届いたのか、女児はか細い声を漏らしながら、問い掛けに答える。

「……朱雀、心」

 と。



 ……その頃、狼たちは。


「とりあえず、俺と闇代と美也の三人で手分けして向かう。一片はここで待機してくれ」

「うん」

「分かった」

「了解した」

 彼らは一片を会議室に残し、他の三人で刑事たちの後に続いた。肝心の舞奈が不在なので、彼らが対処することになったのだ。高校生にそれを許す辺り、相当切羽詰っているのだろうか。

「じゃあね」

「気をつけて」

「おう」

 途中で分かれて、狼は彼女たちと別の部屋へと向かう。

「こっちです」

 刑事に案内されてやって来たのは、やはりこちらも会議室だった。ここで、保護された子供たちの事情聴取をしていたのだろう。人数が多いわけではないが、諸事情で小分けされているのだ。

「……あれか?」

「ええ」

 狼が目を向けているのは、部屋の中央にいる女児―――いや、女児たちだった。同じ容姿・服装の女児が、部屋の中央に集まっているのだ。……なるほど、まさに影分身だな。

「……何人いる?」

「えっと、一、二、三……」

「いや、もういい」

「え?」

 狼は刑事を追い出すと、ゆっくりと女児に―――その一人に歩み寄っていく。その足取りに迷いはなかった。

「よお。元気か?」

 そして、彼は女児に声を掛けた。それに対して、女児は驚いたように顔を跳ね上げた。

「……私が、分かるの?」

 話し掛けられたのが意外だったのだろう。女児は狼にそう問い掛けた。

「ああ。俺は幻覚とか、洗脳とか、そういうの効かないんだよ」

「そうなんだ……お兄さん、案外凄い人なんだね」

 女児は感心したようにそう言うと、そっと目を伏せる。それだけで、部屋中にいた女児たちの姿が掻き消えた。残っているのは、狼と会話している一人だけだ。

「お前のほうがよっぽど凄いと思うけどな」

「そう?」

「ああ。幻術使いとか、初めて見るからな」

「……普通の人じゃないとは思ってたけど、お兄さんって、もしかしてこっちの人?」

「どっちか知らんが、普通じゃないのは確かだな」

 年上の男と喋っていても、女児は一切物怖じしない。無警戒なのか、肝が据わっているのか、それとも警戒する必要がないからなのか。

「……で?」

「え?」

「え? じゃねぇよ。お前は一体何者なんだよ?」

 本気で訳が分からないといった様子の女児に、狼は再び問い掛けた。何者なのか―――言うまでもないだろうが、この女児がただの子供でないのは明らかだ。なら、その正体が気になるな。

「忍者、とか?」

「忍者はただのアサシンだと思ってたんだが、幻術も使えるのか?」

「知らない。ただ、影分身って忍者の技だから」

「分身を見せる幻術って、影分身でいいのかよ?」

「知らない」

 のらりくらりと躱されているが、少なくとも彼女が忍者でないのは確かなようだな。ただ適当に言ってみただけっぽい。

「っていうか、まずは自分から名乗るのが礼儀だと思うよ、お兄さん」

「そりゃ失礼したな。―――俺は向坂狼。一応高校生だ」

「ふーん。DQNネームだね」

「うるせぇ。名づけた奴に文句言え。大体、今時珍しくもないだろ」

 子供の容赦ない指摘に、狼は不機嫌になりながらそう返した。……まあ、よくよく考えると変な名前だよな。一応、ちゃんとした由来のある名前なのだが。

「……ほら、お前も名乗れ。DQNネームだったら承知しねぇぞ」

「うーん、そんなにDQNじゃないと思うんだけどなぁ。ただ、苗字は変かも」

 そう前置きしてから、女児は自らの名前を告げた。

柏湖かしうみ唄羽うたはだよ。よろしくね、狼お兄さん」

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