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ダブルスタンダードに突っ込み入れるのは二重の意味で野暮だよね


  ◇



 ……数時間後。


「いやー、参ったねー。まさかこんな大事件が起こってたなんて」

「いや、他人事みたいに言うなよ」

 場所は変わって、警察署。狼たちは、事情聴取のためにここへ来ていた。一応、犯罪者を捕まえたのだ。そうなるのは当然の流れだろう。

「ま、そうだよね。私だって、事実の隠蔽に手を貸してるんだし」

「警察官が堂々と隠蔽とか言うなよ」

 狼と会話しているのは女性の警察官だった。彼女の名前は小宮間舞奈。狼たちとは顔馴染みの刑事だ。

「それもそっか。けど、別に悪いことしてるわけじゃないし。君たちのことは日本の法で裁けないんだから、ノーカンだよ、ノーカン」

 カジュアルなスーツに身を包んだ舞奈は、軽い口調でそんなことを言いながら、狼たちに茶菓子を配っている。……彼らがいるのは会議室だ。今は使っていないらしく、事情聴取に利用されている。

「そういう問題か?」

「そういう問題」

 この舞奈という刑事は、彼らの特殊な事情を知っている。その上で、彼らに都合のいいように色々と便宜を図ってくれるのだ。―――例えば、狼たちの持つ特別な力を秘匿したり、など。

「それで? 闇代ちゃんと一片君が、霊感でトラックの異常を察知して、それを追いかけて、その後は?」

 だから、彼女に事実をありのまま話しても、彼女の方で適当に辻褄を合わせてくれるのだ。故に安心して、狼たちは事情を話せる。……まあ、そうしないと誰も信じてくれないだろうからな。

「俺と闇代が先行して追いかけて、トラックの屋根に飛び乗って」

「そしたら運転手さんたちが降りてきたから、「子供を誘拐してるでしょ」って言ってやったの」

「まあ、案の定揉めたから、追いついてきた一片たちにも手伝ってもらって、強引に中を確認したんだが―――」

「本当に子供が誘拐されてたの」

「で、通報したってわけだ」

 先程までの内容を、たった数行でまとめた狼と闇代。……あっさりと要約してくれるが、実際にはとんでもないことだからな。下手すれば犯罪だし。

「ふーん、なるほどねー。確かに闇代ちゃん辺りならそれも納得なんだけど……さて、どうやって誤魔化そうかな」

 既にその発言が警察官失格のような気もするが、公的に認知されていない異能―――霊感などが絡むと、警察ではまともに取り合えない。だからこそ、こうして多少の脚色が必要となるのだ。「多少」で済んでないとか、最早事実の改竄だろとかは言ってはいけない。世界はご都合主義で回っているんだ。

「それで、あの子たちはどうなったの?」

「あ、うん。今、それぞれ事情を聴いて、身元を割り出してるところ」

 美也の質問に、舞奈はそう答えた。……順当に行けば、彼らはこのまま親元へと返されるだろう。無論、事実関係を洗ったり、首謀者をとっちめたりしなければならないのだが。運び屋と思しき二人の男も捕まったし、その辺も時間の問題だろう。

「で。あなたたちの保護者にも来てもらったから」

「保護者って……まさか」

「そのまさかです」

 すると。音も気配もなく部屋に入ってきた誰かが、彼らの会話に割り込んできた。そして、咎めるような口調で、こう続ける。

「もう……事情は大体聞かせてもらいましたけど、あまり無茶しないでくださいね」

 染色の痕跡がない鮮やかな茶髪を後ろで束ね、白いチュニックとジーンズを着用した、女性的な印象を受ける人物。日本風の顔立ちながら、その瞳だけはラピスラズリのように蒼かった。ハーフだろうか?

「常に人命優先で動け、と言ったのはそっちだろ? それも常日頃、俺が小さい頃から」

「そうですけど、一応保護者ですから、心配くらいします」

 この人物こそが、狼の保護者、牧野優だ。それと同時に、彼と同居している闇代や一片の実質的な保護者でもある。

「まあ、ちゃんと助けたのは褒めてあげないとですね。後でだっこしてあげます」

「要らん」

 柔和な笑みを浮かべてそう言う優に、狼は心底迷惑そうな表情でそう答えた。……まあ、高校生にもなって過度なスキンシップを迫られるのは嫌だよな。

「じゃあわたしが―――」

「私が―――」

「どっちも要らん」

 それならばと名乗りを上げた闇代と美也だが、こちらも当然のように一蹴される。……こっちはちょっと共感できない。

「あはは、相変わらずだねー」

「笑い事じゃねぇっての」

「笑い事だよー。だって狼君たち、まるでコントなんだもん」

 そんな彼らを見て、舞奈はそんなことをのたまいながら、笑みを浮かべている。確かに、コントみたいだよな、こいつの会話って。さすがに、大阪で芸人を出来るほどではないが。

「小宮間さん!」

「あ、なっちゃん。どしたの?」

 すると、部屋に新たな人物が。こちらも若い女性の警察官。舞奈の部下だろうか。

「大変なんです! 子供たちが―――」

「分かった。今行く」

 彼女の言葉に、舞奈は急に表情を引き締め、そう答える。……今ので分かったのかよ?

「お優さん、みんな、ごめん。ちょっと行ってくるね」

「待ってください」

 部屋を出て行こうとする舞奈。しかし、そんな彼女を優が引き止めた。

「もしかして、子供たちに異変があったんですか?」

「え、あ、えっと……」

「話して。私も先に事情を聞いたほうが、対処しやすいし」

 部下の女性は、部外者に話すべきかで迷っているようだった。だが、舞奈がそう言うので、話すことにしたようだ。……それでいいのか警察官。あ、今更か。というわけで、部下の女性は事情を話し始めた。

「子供たちに事情聴取をして、身元を割り出す作業をしていたんですが……子供の一人が、突然、変なことになったんです」

「変なこと?」

「はい。なんか、腕から刃物が生えたっていうか……」

「それって―――」

「ええ」

 部下の報告に、舞奈と優は顔を見合わせて頷いた。何か、思い当たる節があったのだろうか?

「お優さん、一緒に来て。狼君たちはここに残ってて。なっちゃん、案内して」

「は、はい……!」

 舞奈は手早く指示を出すと、部下、優を引き連れて部屋を出た。そして、狼たちだけが残される。

「……どうしたんだろ?」

「大丈夫かな?」

「大丈夫だろ。あいつが出てったら、武装テロリストだって裸足で逃げ出すさ」

 女子二人は不安げな様子だったが、狼はこれっぽっちも心配していなかった。因みに、一片は一人で本を読んでいる。……いつの間に?

「小宮間さん! ……って、あれ? いない?」

 そしたらば、またもや誰か―――恐らくは刑事―――が血相を変えて入ってきた。何かあったのだろうか?

「あの女刑事ならどっか行ったぜ」

「えぇっ! ど、どうしたらいいんだよ、それじゃあ……!」

「何かあったの?」

 舞奈の不在を聞いて、刑事は焦ったように叫びだした。どうにも尋常ではないようだな。

「ほ、保護した子供の様子がおかしくて……!」

 責任者がいないせいなのか、それとも単にてんぱってるのか、高校生の狼たちに事情を話し始める刑事。それは先程、舞奈の部下が持ってきたのと似た内容だった。

「腕から刃物が生えたのか?」

「は、刃物……? い、いや、部屋が水浸しになって―――」

「小宮間さん! 保護した子供が宙を舞ってます!」

「小宮間さん! 保護した子供が影分身を!」

 しかし、またもや刑事が部屋に飛び込んできて、口々にそんなことを言い出してくる。今度は二人も。……どうなってんだよ?

「……こりゃあ、ちょっとまずい事態じゃねぇのか?」

 この異常事態に、狼はようやく不安を抱き始めたのだった。

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