この後どうやって説明したのかちょっと見てみたい
……その頃、優は。
「……ふぅ。どうにか終わったね」
「ええ。ようやく、です」
狼たちとの戦いを終え、舞奈と優は額の汗を拭っていた。……建物内にいる狼たちは全て倒されていた。ある個体は舞奈の魔術で氷漬けにされ、ある個体は一片が出した霊質の鎖に縛られ、ある個体は天の銃撃で足を撃ち抜かれて―――誰一人として、立ち上がれる者はいなかった。
「それで、こいつらはどうするのダ?」
「このまま放置するわけにもいきませんし、かといって殺してしまうのも……」
すると、一片兄妹が事後処理について尋ねてくる。狼たちは動けなくなっているものの、まだ死んではいない。というか、殺さないように配慮して倒したのだから、殺してしまうという選択肢はないだろう。
「そうですね……舞奈ちゃん、この子達を暫く匿える場所を用意できますか?」
「え……? まあ、頑張ればなんとかなるけど」
「じゃあ、頑張ってください」
「でも、今は大人しいけど、動けるようになったら危ないよ? それに、お優さんの魔法が解けたら爆発しちゃうし」
優の言葉に、舞奈は当然の疑問を口にする。彼女が指摘した通り、狼たちは本来、動きが止まると自爆するようになっている。今は優の魔法で自爆が封じられているが、それが解ければ途端に火柱だ。匿ったところで、どの道全員爆死するのではないか?
「それなら問題ありません」
しかし優は、そんな不安を払拭する。動きの止まった狼たちに刀を向けると、こう叫んだ。
「全ては凍てつく檻と鳥籠の中、時を忘れて眠り給え―――凍てつけ舞姫っ!」
刀の切っ先から、優の魔法が放たれる。それは、全てを凍結させる冷気の塊。舞奈の魔術や先程の魔法とは桁違いな冷気に、壁や天井にも霜が降りる。その直撃を受けた狼たちは、あっという間に氷漬け―――というか、氷の塊となってしまう。水晶のように透き通った綺麗な氷。その中央に狼たちが取り込まれていて、まるで氷の棺で眠っているかのような錯覚に囚われてしまう。そんな、神秘的で幻想的な光景が出来上がったのだった。
「ふぅ……これでばっちりです。マナの挙動を制御しましたから、室温で氷が解けることはありません。このまま運び出すことも出来ますよ? 一瞬で極限まで温度を下げましたから、生きたまま凍ってますし。解凍すればちゃんと元通りです」
「……お優さん。これ、私たち必要だったのかな?」
あまりに圧倒的な魔法に、舞奈は呆然としながらそう呟いた。確かに、一人でここまで出来るのなら、舞奈たちが戦ったのはなんだったのか。
「私の魔法―――特に相手の動きを封じるものは、発動中に妨害されたり、無理矢理抜けられたりするんです。加減を間違えると殺してしまいますし……ですから、皆さんに動きを止めてもらう必要があったんです」
「ふーん……そういうことにしておくけど。でも、私が態々、自分で封じた魔術を引っ張り出すほどだったのかな?」
「そもそも、舞奈ちゃんが来たのは自分からですよね?」
理由を説明しても不貞腐れている舞奈に、優は尤もなことを言った。……そういえば、舞奈はなんか無理矢理戦闘に参加していたな。魔術を使ったのも自分からだし。
「じゃあ、後は運び出すだけですね」
「……え? もしかして私が運ぶの?」
「そうですよ?」
「……」
そして、優の無慈悲な宣告に、舞奈は無言で項垂れるのだった。
……その頃、狼は。
「それで、どうしたもんか……」
「このままだと、お兄さんが警察に捕まっちゃうもんね」
「うるせぇっての」
心との戦闘を終えて。全裸の心を抱えた狼は、今後どうするべきかを考え、悩んでいた。唄羽の言うように、今誰かに見られると、彼の人生が終了してしまう。仕方なく自分の上着を着せるが、それだけでは些か頼りない。彼女よりずっとサイズが大きいパーカーなのだが、上半身は問題ないとしても、下半身は局部がぎりぎり隠れる程度だ。しかも、獣人化のせいで袖が吹き飛んでいるため、却って危ないかもしれない。少なくとも、普通の人なら躊躇いなく通報しているレベルだな。
「とりあえず、闇代辺りと連絡を取って、着替えを持ってきてもらうか……」
「いいの? あのお姉さんがこの状況を見たら、多分とんでもないことになるよ?」
「……優か、一片の妹辺りに頼むか」
咄嗟に、一番身近な女子である闇代に頼ろうと思った狼だったが、唄羽の指摘を受けて方針転換。まあ、賢明な判断だな。
「あ、狼君いた~!」
「げっ……!」
しかし、なんと間の悪いことか。噂をすれば何とやら、当の闇代が現れたのだ。その隣には亜子。……よし、今の内に祈っておくか。狼が死なないように。
「……狼君。これ、どういうこと?」
「うわっ、最低……」
「とりあえず、話を聞いてから怒ってもらえると助かる」
「勿論聞くけど―――その前に、ちょっとだけお仕置きしないとね」
「おいっ……!」
そんなわけで。狼は闇代にコテンパンにされましたとさ。
◇
「……もぅ。そういうことなら早く言えばいいのに」
「言ってるのに手を緩めなかったのはどこのどいつだ?」
「だって、狼君が悪いんだよ? わたしに欲情したりするから、ロリコンさんなのかって思っちゃうじゃない」
「おいこら誰がお前に発情したんだよ?」
なんだかんだで誤解が解けて。彼らは互いの身に起こったことを報告し合っていた。狼は、心が暴走したことを。闇代は、鎌江が襲ってきたことを。
「こうなると、美也さんのほうでも何かあるかも。人払いは解けたみたいだし、もう決着したと思うけど」
「そうだな。合流したほうがいいか」
「うん。あ、心ちゃんはわたしの結界で見えないようにしておくね。美也さんが暴れると大変だし、人に見られると面倒だから」
「お前が言うなよ……まあ、助かるが」
「ツンデレ」
「うっせぇ」
そうなれば話は早い。二人は子供たちを連れて、美也の元へと向かった。
……その頃、美也は。
「涙花ちゃん……」
「お姉ちゃん? どうしてそんな、泣きそうな顔なのよぉ?」
「うん……なんとなく」
たった今聖剣使いになった涙花に、美也は胸の奥から込み上げてくるものを必死に抑えていた。……自分が聖剣使いになったのは、相応の覚悟があったからだ。しかし、彼女は違う。訳も分からないまま、勝手に聖剣を押し付けられたのだ。それが、たまらなく不憫に思えたのだろう。
「それよりお姉ちゃん、さっきのはなんなのよぉ? なんだか、心臓がどくんどくんいって、体がぽかぽかなのよぉ」
「うん……それはね、涙花ちゃんが私と同じになったからだよ」
「お姉ちゃんと同じ? やったー」
美也の言葉に、涙花は無邪気に喜んでいる。その意味も、真意も知らずに。
「とにかく、今日はもう戻ろう? ちょっと疲れたし」
「賛成なのよぉ……ぅ?」
「涙花ちゃん……!?」
帰宅を提案した直後、涙花の体が傾いた。咄嗟に美也が受け止めるも、涙花の意識は既にない。
「涙花ちゃん……! 返事して……! 涙花ちゃん……!」
「美也さん……! どうしたの……!?」
「何かあったのか?」
「闇代ちゃん……! 狼君も……! 涙花ちゃんが……!」
そしてそこへ、狼と闇代が合流する。涙花の様子がおかしいことに気づいて、闇代はすぐに彼女の容体を確認する。
「……大丈夫。ただ寝てるだけ。何も心配要らないよ」
「よ、良かったぁ……」
闇代の言葉に、美也は安堵しながらへたり込んだ。緊張が解けたためだろう。相当心配したに違いない。
「とりあえず、一旦戻ろう? 色々と情報を共有しないとだし」
「ああ、だな」
「うん」
そういうわけで、三人は子供たちを連れて、「虹化粧」に戻るのだった。




