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ずっと見てただけなのにちょっと偉そうとか言わないで。ちゃんと色々フォローしてたんだから


 ……さて、優はどうしたのか。


「はぁ……凍結と停滞の砦―――ニブルヘル」

 優の声と共に、ビル全体を冷気が包み込んだ。―――優が使ったのは、温度を一定以下に保つ技。どんな方式であれ、物質の体が一定までしか上がらないなら、発火は抑えられる。これで、おおかみたちの自爆に怯えなくてよくなった。

「これで自爆は防げますが、火薬や燃焼系霊術は使えません。高熱高エネルギー系もです。後、私の攻撃も止まりますから。自衛は出来ますからこちらは気にしなくいいですけど、これ以上のサポートは期待しないでください」

「はーい。……火薬が使えないなら特殊弾も無理だから、やっぱり全力しかないかな」

 優の指示に応えながら、舞奈はエアガンのマガジンを放出。新しいマガジンを装填すると、何故かセーフティを掛け直した。

「久しぶりに行くよー! 舞奈ちゃん必殺の……ブリザードブロー!」

 セーフティが掛かっているはずなのに、トリガーが引かれたエアガンからは弾丸が撃ちだされた。しかし、それは通常の樹脂弾ではなく、氷の塊。弾丸と同じ小粒ながら、まるで雹のようにおおかみへと降り注ぐ。

「凍りつけ……!」

 氷の弾丸を撃ち込まれた瞬間、おおかみの体毛に、真っ白な霜が降りた。……どうやら、食らった相手を凍らせる弾らしい。しかしこれは、まるで―――

「舞奈ちゃん、あなた、魔術を……」

「まあね。これでも一応、小宮間の家は魔術の一族だから」

 小宮間家は、舞奈の何代も前から優と親交がある。そしてその頃から、小宮間の者は魔術に手を染めていたのだ。当然、舞奈もその一人である。……正確には、優が小宮間家の人間に魔術を授けたのだが、それはまた別の話。

「でも、警察官になったときに、魔術を封印したんじゃあ……」

「そうだけど、「ラボ」が絡んでるなら、これくらいのルール破りは仕方ないよ」

 けれども、警察官となった舞奈は魔術師であることを辞めた。法の下に正義を貫く警察官が、法で裁けない魔術を使い続けるのは間違っていると思ったからだ。それを使うことからも、彼女の覚悟が窺える。

「そうですか……だから、名字ではなく、名前で呼ばせたんですね」

 家族ぐるみでの付き合いがある舞奈に対して、優は彼女を名字で、「小宮間さん」と呼んでいた。これは、彼女を一人の警察官として扱っていたためだ。しかし今は、彼女を「舞奈ちゃん」と呼んでいる。いや、舞奈自身がそうさせたのだ。これは、自分が魔術師小宮間舞奈であると再認識するためなのだろう。

「それよりも、ほら。動きを止めたけど、自爆する気配がないよ」

 舞奈の言う通り、文字通りフリーズさせられたおおかみは、火柱になることなく立ち尽くしている。優の力で、自爆が防がれている証拠だ。……舞奈の魔術では、対象を凍結させることは出来るが、自爆を防ぐほどの威力はないのだ。

「なら、俺たちも遠慮は要らないな」

「はい、お兄様」

 一片兄妹も、霊銃でおおかみたちを封殺する。こちらもやはり、自爆して火柱になることはなかった。

「皆さん、遠慮は要りません。やっちゃってください」

「はーい」

「ああ」

「了解です」

 そうなれば、もう自爆を気にする必要はない。三人の銃使いたちは、それぞれの得物でおおかみたちを止めていく。



 ……では、うるふはどうか。


「サイズ……!」

「……SoD AoB」

 うるふが発動した風の魔術を、心は全身に刃を―――今までより濃い密度で生やして防ぐ。服はボロボロに破れ、肌の色すら分からないほどに刃を纏った心。そんな彼女が、両足の巨大な刃で切りかかってきた。

「ブレイク……!」

 それを武器でどうにか防ぎ、狼は再度攻撃に転じる。しかしそれも、心は即座に後退して躱してしまう。

「……SoD DSoH」

 次に心が生やしたのは、彼女の頭ほどの幅がある刃。胸を貫くように現れたそれは、するりと抜けて、更には柄のようなものまでつけて、彼女の手に収まる。……刃を生やす能力を応用して、鎌を生み出したのだ。

「ちっ……!」

 そして、またしても襲い掛かってきた心。狼は獣人化した腕で鎌の柄を掴むが、それにも刃がついていたらしく、手のひらを負傷してしまう。

「らぁ……!」

 空中に漂う武器を何個か叩きつけて、心を遠ざける狼。しかし、刃で防がれたせいで、殆どダメージになっていない。

「ランス……!」

 次に狼が呼び出したのは、三角錐型の武器。他のものと同様に、小型なそれはロープと繋がり、ロープは狼の服の中へと続いている。

「マリシャス・ブレイド……!」

 そして狼は、その武器を、その先端を掴んだ。すると、その尖った部分から、紫の光が溢れ出す。光は細い棒のように収束し、やがて一本の細い剣となった。

「……」

「くっ……!」

 そしてまたしても、心の刃と、狼の剣が交錯する。「心」を持たずに振るわれる心の刃に、悪意の宿らぬ「悪意」の剣。矛盾する二つのぶつかり合いが幾度目かに達したとき、心の体に異変が生じる。

「っ……!」

 両足の巨大な刃に、亀裂が発生した。主に狼の剣と切り合っていたせいなのか、ダメージが蓄積したらしい。

「サイズ……!」

「……っ!」

 そんな彼女に、狼は風と剣の魔術を叩き込む。体中の刃が心の盾となるが、今まで少なからず攻撃を受け止めていたためか、それもあっさり砕けてしまった。

「ブレイク……!」

 狼は、心に言葉を投げ掛けない。代わりに、力をぶつける。優のように、全てを受け止め受け入れるのではない。ただ受け入れるだけでは、彼女の「心」は開かない。拳で語り合う―――というわけではないが。一方的に受け入れても、彼女は何も発しない。それならば、自分から何かをぶつけるしかない。そうして、互いに「心」をぶつけ合うしか、分かり合う方法はないのだ。

「くっ……!」

 そこで初めて、心が呻き声を上げた。それだけ、彼女が追い詰められているということか。

「ランス……!」

 今度は、剣を構成していた武器から魔術を放つ。紫の光が槍となり、刃の鎧が砕けた心を、その体を貫いた。

「ぁっ……!」

 心の体がくの字に折れ曲がり、僅かに残っていた刃も全て砕け散った。魔術の槍が消え、全身丸裸になった心が地面に倒れ込む。

「っと……!」

 そんな彼女を、狼は獣人化した腕で抱き留めた。……あれだけ戦い合ったのに、心の体には傷一つなかった。先程の槍は魔術によるもので、実体はない。それに、それ以前のダメージも刃が受け止めていたからだろう。

「……ったく、心配させやがって」

「……お兄さん。そうやってると犯罪者そのものだよね」

「うるせぇ」

 そんな彼らに、今までずっと戦いを見守っていた唄羽が、そんな言葉を放った。……事実だが、ちょっと容赦ないな。

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