表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/27

なんか唐突にバトル勃発


 ……美也のほうはどうなっているか。


「ふぅ~……結構食べたね」

「そうなのよぉ」

 喫茶店を三つほど襲撃した後。美也と涙花は公園に来ていた。腹ごなしに散歩していたのだ。

「それにしても、ここ、普段は人が結構多いのに……今日は全然いないね。折角の休日なのに」

「確かに、二人っきりのドキドキタイムなのよぉ」

 彼女たちが言うように、この公園には人気がなかった。林があり、池があり、遊具もある、そこそこの規模を持った公園なのだが……。

「一般人を遠ざける人払いの結界。主に日本の漫画・アニメ・ライトノベルで使い古されてきた信仰であるな」

「え……?」

「何なのよぉ?」

 そんな彼女たちの傍に、一人の男が立っていた。スーツ姿で、清潔そうな男性。金髪交じりの黒髪は癖が強く、彫りの深い顔も考慮すると、少なくとも日本人ではないだろう。

「お初にお目にかかる。我が名はグレナダ。聖剣使いを名乗っている」

 男―――グレナダは、風貌に似合わず流暢な日本語で、そう自己紹介をした。

「なっ……!」

 彼の言葉に、美也は驚いたように目を見張る。そしてすぐに、涙花の前に出て、二人一緒に男から距離を取った。そう、まるで彼女を庇うように。

「え、ど、どうしたのお姉ちゃん……?」

「涙花ちゃん、下がってて」

 緊張を帯びた美也の声に、涙花は戸惑うしかない。対してグレナダは、感心したように頷いている。

「ふむ。同じ聖剣使い同士、仲良くしようではないか。山下美也よ」

「人払いって、アニメやゲームとかだと、戦闘シーンの手前で張るものでしょ? ……要するに、私たちと争う気なんでしょ?」

「なるほど。平和ボケしている割に、聡いようだな」

 グレナダが展開した人払いの結界とやらから、彼の意図を即座に看破した美也。急にファンタジーな状況に追い込まれても、彼女は伯父譲りのゲーム脳・アニメ脳をフルに発揮して、瞬時に順応してしまうのだ。

「ならば、手っ取り早いほうがお互いにとって有益であるな。―――山下美也。その子供から手を引け。如何にお前が聖剣使いであろうとも、我が聖剣には勝てぬ」

「そういうの、アニメだと序盤のやられ役が放つ台詞だよね」

「……よかろう。手荒なほうがお望みとあらば、そのようにするのが礼儀であろう」

 美也の言葉に腹を立てたのか、グレナダは声を一段と低くして、そう宣言した。……これはもう、どうやっても穏やかな解決が出来ないパターンだな。

「我が聖剣「神々の遊戯」より、信仰を具現化する―――「導きの聖書」。第十のセフィラ「王国マルクト」―――兄弟サンダルフォンよ」

 グレナダが右手を前に突き出すと、そこへ虹色の光が集まり、一つの形を取った。それはハープ……つまりは竪琴だった。

「詩人の奏でる音色に、酔い痴れるがいい」

 両腕で抱えられるほどの竪琴を、グレナダはそっと弾いた。流れてくるのは、優しい旋律。―――しかし、美也はその音色に、戦慄せざるを得なかった。

「っ……!?」

 両手を広げ、涙花を庇おうとする美也。そんな彼女の体に、突風が襲い掛かった。……琴の奏でる音が、風の刃となって美也に向かってきたのである。

「……音を使った攻撃。それに、第十のセフィラと、サンダルフォンってことは―――カバラに出てくるセフィロトの樹から、守護天使の特性を引っ張り出して、連想される内容で攻撃してるっていうの!?」

「ほう、今の一撃でそこまで見破るとは」

「伯父さんにみっちり仕込まれたからねっ! ゲームのネタになりそうだからって!」

 ユダヤ教の伝統に基づいた神秘主義―――カバラ。その中でも特に有名なセフィロトの樹は、十のセフィラと二十二のパスで構成された図形だ。第十のセフィラはその一番下にある虹色の丸で、人間が住まう物質界を示しているとか。また、セフィラには管理者たる守護天使がいて、第十のセフィラではサンダルフォンだ。彼は音楽を司る天使であり、それが「音を使った攻撃」という特性を生み出したのだろう。

「お、お姉ちゃん……聖剣使いって、聖剣って、何なのよぉ?」

「詳しい説明は省くけど、聖剣は、なんか厨二っぽい設定が多い伝説のアイテム」

「おぉっ!」

 美也の説明に、涙花は興奮したように声を上げた。……読者向けに補足すると。聖剣とは、古の時代に生み出された遺品。要するにオーパーツの類である。それらは現在の人間社会を形作る土台であり、あらゆる物の原型、或いは象徴となった。グレナダの聖剣、「神々の遊戯」は、恐らく信仰の象徴なのだろう。

「そして聖剣使いは、その聖剣に選ばれた者」

「勇者的な感じでかっこ良すぎなのよぉ!」

 そして、その聖剣を扱える人間こそが聖剣使いである。つまり、美也も自分の聖剣を所持しているのだ。

「涙花ちゃん、危なくなったら出来るだけ逃げて。後、涙花ちゃんって風を操れたよね? あれを使って、自分の身だけでも守って」

「お姉ちゃんはどうするつもりなのよぉ?」

「私は大丈夫。だって―――」

 美也はポケットから、スマフォを取り出した。そして取り付けているストラップを外し、スマフォをポケットに仕舞い込む。―――外されたストラップは、黄金色の金属片だ。三日月のような円弧状で、一見するとただのガラクタにしか見えない。

「私も、聖剣使いだから」

 そして、黄金色の円弧が伸びて、小さな輪を作った。やがてそれは徐々に大きくなっていき、フリスビーくらいの直径で、幅一センチくらいのリングとなった。―――これが、美也の聖剣だ。

「ほう、それがお前の聖剣か」

「初めましてグレナダさん―――「神々の遊戯」、だっけ? これが私の聖剣、「コネクト・アーク」だよ」

 言い終わるや否や、美也は聖剣を握り締めたまま走り出した。グレナダと距離を詰めて、金色のリングを振り下ろす。

「音色よっ!」

「円舞葬送っ!」

 グレナダは虹色の琴を弾くが、美也は構わず切りかかった。リングが小さな振動音を鳴らしながら、物理的な質量を持った音を切り裂いていく。

「なんと……!」

 グレナダはそれに驚きながらも、バックステップで距離を取り、美也の攻撃を躱す。そして竪琴を捨て去ると、新たな武器を呼び出した。

「ならばこれだ。第九のセフィラ「基礎イェソド」―――神の人(ガブリエル)よ」

 呼び出されたのは、紫の剣と盾。片手剣の柄と盾の中央部には、銀で装飾された月の文様があった。

「久々に楽しい戦いが出来そうだ」

 グレナダの笑みは、美也の背筋を震えさせた。それだけ、この男が強い殺気を放っていたということだ。……美也、気をつけないと、死ぬぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ