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そろそろ本格的に戦うよ


 ……さて、優たちはどうなったのか。


「……小宮間さん。また来るんですか?」

「そうだけど、駄目?」

「駄目というか、あなたは一応警察官ですよね? 今更ですけど、民間の施設を襲撃するのってどうなんですか?」

 彼らがいるのは、廃ビルの前。ただならぬ気配を感じてやって来たものの……優は、刑事である舞奈を下がらせたいようだ。

「あーうん、大丈夫。っていうかお優さん、今は「小宮間さん」は止めて欲しいな」

「……そうですか」

 しかし、その言葉だけで、優は何かを察したらしい。それ以上食い下がることはなかった。……何故それで通じるし。

「それじゃあ、行きますよ」

「了解した」

 優の言葉に、一片は懐から得物を二つ取り出した。一つは拳銃。誘拐犯を捕らえたときに使用したものだ。そしてもう一つは刀。鞘に収められた、短い日本刀だ。

「はい」

 一方、天は服の左袖から、金属片を取り出した。鈍い銀色に光る、星型の金属片だ。その頂点からは同じ材質の鎖が伸びており、袖の中へと続いている。

「三日月」

 そしてその金属片を握り潰すと、彼女の掌に銃が生み出された。融けた金属片が、銃身の長い銃を形作ったのだ。長さは一メートルほど。マスケット銃のようにも見えるが、グリップは小さく、撃鉄もない。……天は退魔師の血筋である。退魔師は生まれながらにして固有の武器を持っていて、その殆どが銃であった。これが天の固有装備だ。

「さてと、久々に暴れようかな」

 そして舞奈が取り出したのは、これまた銃だった。ただしこちらは、改造を施したエアガン。それを二丁携えて、舞奈は軽く肩を慣らしていた。

「恐れ戦き、自戒せよ」

 最後に優が、右手を上げて、何かの呪文を唱えた。―――その声に応えるように、後方の空から、飛来してくる物体。それは、鈍い光を放つ、一振りの刀だった。

「……突入します。天ちゃん、結界をお願いします」

 抜き身の刀を構えて、優は静かにそう宣言した。ついでに、退魔師である天に人払いの結界を指示する。……さて、何が起こるのか。



 ……その頃、狼は。


「さてと……まずはどこからにする?」

「うんと……あれ」

「……」

 狼たち三人はゲームセンターにやって来ていた。そして、まず最初に選んだのはクレーンゲーム。定番中の定番だ。

「心もそれでいいか?」

「……」

 心が頷いたのを確認してから、狼は二人を連れてクレーンゲームの筐体に向かう。

「お兄さん、百円玉」

「へいへい」

 狼は財布から百円玉を数枚取り出すと、唄羽、心の二人に握らせた。事前に両替は済ませてあるのだ。

「初めてだからドキドキする……」

 唄羽はコインを投入して、ボタンに手を乗せる。狙っているのは、手前のぬいぐるみだろうか?

「あっ……」

 しかし、クレーンは目標の傍に降りる。要するに外してしまったのだ。

「心も、適当な筐体で遊んでいいぞ」

「……分かった」

 促されて、心も隣の筐体にコインを投入した。そしてその中の一つに狙いを定めて、ボタンを押す。

「……」

 しかしこちらも、クレーンは獲物を捉えられない。虚しく百円を消費してしまった。

「お兄さん……取って?」

「……」

「ったく、俺も苦手なんだがな」

 女児二人にせがまれて、狼は嘆息しながらコインを投入する。まずは唄羽の分だ。

「よっと……」

 クレーンは、目当てのぬいぐるみの僅か隣に降りた。……しかし、開いたクレーンが当たり、景品が動く。

「よし、この調子で……」

 それを何度か繰り返し、ついに目的のぬいぐるみを落とした。手に入れた獲物を、唄羽に渡してやる狼。

「ほらよ」

「わー! お兄さんありがと。大好き」

「次は心のか」

「……」

 そして彼は、同じ要領で心の分もゲット。二人合わせて千円近く遣ったが、二人が喜んでいるようなので十分だろう。

「それはそれとして……それは何なんだよ?」

「知らない。でも、可愛いし」

「……同意」

 因みに、二人が手にしている景品は、ゾンビのぬいぐるみだ。目玉が飛び出ているし、腸も出てるし、しかも中年のおっさんなんだが……キモカワという奴か? それってまだ生きてたのか。とっくに滅んだものだと思っていたが。

「……まあ、いいけどな」

 そんな彼女たちに、狼は言葉を飲み込んで、ただそう返すのだった。



 ……その頃、闇代は。


「あー、可愛かった」

「うぅ……記憶を消したい」

 闇代によるファッションコーデを終えて。二人は通りをぶらぶらしていた。……因みに、闇代が選んだ服は購入して、「虹化粧」まで届けてもらうよう手配している。送料も中々だったが、手荷物を増やさないためだ。

「さてと、次はどこに行こっか?」

「服屋さん以外ならどこでも……」

 これからの予定を話し合っていると、彼女たちの前方からスーツ姿の女性が歩いてきた。女性は闇代たちと擦れ違い、そのまま通り過ぎようとする。

「……私、七星しちせい鎌江かまえっていうの」

 擦れ違い様、女性が漏らした、囁くような声。それは、闇代の耳に届いていた。

「え……?」

 思わず足を止め―――そしてそのまま、身動きが取れなくなった闇代。

「ん? どったの?」

 彼女が止まっているのに気づいて、亜子も足を止める。そこにいるのは、闇代と、女性と、その他大勢の通行人たち。―――だが、前者三人は、他の通行人とは別の世界にいる。そんな錯覚に、亜子は囚われた。

「亜子ちゃん……逃げて」

 喉を震わせることさえ躊躇うように、しかしはっきりと呟く闇代。直後、彼女の首に幾重もの皺が刻まれた。

「駄目。私の手が滑っちゃう」

 落ち着き払った声で呟く女性。そして、闇代が苦しそうに表情を歪めた。

「白昼のスプラッタは嫌いじゃない。……人前でバラバラになるのもまた人生」

「な、何を言って……」

 そこでようやく、この女性が只者ではないと気づく亜子。しかし、もう遅い。

「さ、死んで」

 皺は、首だけではなく、闇代の体中に刻まれていく。―――まるで、何かに縛られているかのように、

「くっ……!」

 それは、細いワイヤーのようなものだった。遠目からは見えない細糸が、闇代の体を戒め、今にも引き千切らんとしている。

「舐めないで、よね……!」

 だが、闇代は踏ん張って、ワイヤーのほうを強引に引き千切った。……出血は免れたが、その代償として、体中に鬱血の痕が出来ている。っていうか、普通に千切れるのかよ。

「驚き。私のワイヤーブレイドを引き千切ったのはあなたが初めて」

「……亜子ちゃん、逃げるよ!」

 闇代の行動に、女性は驚嘆の声を漏らす。だが彼女はそれに構わず、そのまま亜子の手を握った。

「え、ちょ、まっ―――」

 亜子それにが抵抗するより早く、二人の姿は掻き消えてしまった。

「……逃げられた。追いかけないと」

 女性はそのことに驚いたりせず、冷静な様子で、その場を後にした。

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